軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

氷の守護者

「い、いま、なんて言ったんだ、カイル? あんまり俺を驚かせるような冗談を言わないでほしいんだけど」

「なに言っているの、アルス兄さん。もう一度言うよ。王様を護送して王都に向かっていたカルロス様が殺されたんだ。間違いないよ」

「ちょ、ちょっと待てよ。それは本当なのか? だって、おかしいだろ。予定だと確か今頃ようやく王領近くまでたどり着くことになっていたはずだぞ。今、そんな情報が入るってことはアーバレスト領から南下してすぐに殺されたってことにならないと情報伝達の時間がおかしくなる。けど、さすがにそんなところでカルロス様を倒せるやつなんていないだろう?」

「違うよ、アルス兄さん。カルロス様は今日殺されたんだ。王領に入る手前で。謎の部隊に襲われて、王様と一緒に」

「おい、カイル。だから、それだとおかしいって言っているだろ。遠く離れた王領近くでカルロス様が殺されたんだとしたら、その情報をカイルが手に入れるのは無理なはずだ。追尾鳥でもそこまではやく情報を持ってこられないんだからな」

「これは追尾鳥からの伝令じゃないよ、アルス兄さん。【念話】の呪文を使ったんだ」

「……は? もしかして、もう【念話】の呪文化に成功したのか、カイル?」

「うん、そうだよ。実は今日、呪文化が完成したんだけどね。間違いなく、リード家の人は【念話】を使えるようになったんだ。で、その【念話】を使ってカルロス様に同行していた人から連絡があったんだよ。カルロス様が殺害されたって」

「……まじか。カルロス様は俺よりも魔力量が多いし、【氷精召喚】も使えるんだぞ。そう簡単にやられるとは思えないんだけど」

「リオンさんが言うには、たぶん襲撃してきた人たちは当主級だったらしいんだ。何人もの当主級がいる部隊に急襲されてカルロス様を守ることもできなかったって」

「そ、そうだ。リオンも一緒に行ってたんだったよな。大丈夫なのか、リオンは」

「ボクに連絡をくれたときには怪我はしたけどなんとか無事だって言ってたよ。ただ、護衛部隊は壊滅して、散り散りになって逃げてるって。一緒に生き延びた人がリード姓を持っている人で、【念話】を使えるようになったって聞いたから、とにかくアルス兄さんにだけでも伝えようと思ってボクに伝言してきたんだ」

まじかよ。

さすがにカイルがこんなことで嘘をつくとは思えない。

【念話】があったおかげで、こうしてカルロスが襲撃を受けた当日に、遠く離れたこちらで情報を得られた。

それは間違いないだろう。

……落ち着かないと。

冷静に対応しなければならない。

カルロスが殺された。

この情報が真実であるかどうかの確認が必要だろう。

だが、その可能性が高いように思う。

ならば、それをもとにした行動をしなければならない。

どうするべきなのだろうか。

頭に魔力を集中させて、煙でも上がるのではないかと思うほど思考を高速回転させる。

カルロスが殺された。

それが本当ならばどういう影響が出るだろうか。

襲撃犯が何者かはわからないが、ただの野盗ということはないはずだ。

なにせカルロスが対処できないほどの戦力を王の護衛という移動の最中にぶつけてきたのだから。

つまり、この問題はおそらく今会談を行なっている三貴族同盟が関わっている可能性もある。

ということはだ。

カルロスが死んだことは政治的な問題に発展するかもしれない。

カルロスは言うまでもなくフォンターナ家という貴族家の当主だ。

もしも、襲撃犯が三貴族同盟のどこかであるとすれば、王の死という結果はなんらかの理由をつけてフォンターナの責任問題に持っていくのではないだろうか。

護衛を果たすこともできずに死なせてしまった、などいくらでも言いがかりをつけることができるだろう。

自分たちが犯人側であったとしたら、こちらに罪をなすりつけるくらいはしてもおかしくはないと思う。

フォンターナに責任を問いただす。

その場合、誰が責任者となるのか。

フォンターナ家で対外的に名が通っている人物は誰かという話になる。

ひとりはもちろん今回の事件の犠牲者となった当主カルロスだろう。

そして、もうひとりはカルロスの補佐を務め、王の護送にも付き従ったリオンも他貴族の間では名が広まり始めていた。

が、もうひとりいる。

他の貴族に名が広がりまくっている人物が。

俺だ。

アルス・フォン・バルカの名は間違いなくフォンターナ領の中で大きな意味を持つ存在である。

王の護送に失敗したフォンターナ家に責任追及しようとした場合、もしかして俺が対処しないといけなくなったりするのか?

その場合、どうなるだろうか。

領地を奪われた旧ウルク領や旧アーバレスト領の関係者は俺に責任を押し付けるに違いない。

フォンターナ領の騎士にしても、自分たちの領地が守られるなら俺を生贄にでも捧げるように切り捨てるかもしれない。

もしかして、俺に責任をとって腹を切れとか言い出すんだろうか……。

いや、ハラキリの風習なんて聞いたことはないんだが、ギロチンなり火炙りなりなんかで処刑されるとかあるのか?

わからない。

わからないが、それだけは絶対に避けなければならない。

とにかく、これからのことを乗り切るためには力が必要だ。

三大貴族と対等に交渉することができるだけの力が。

そのためにはバルカ騎士領だけでは小さすぎる。

少なくとも、農民出身の田舎騎士ではなく、貴族の当主に相当する地位や権力が必要になるに違いない。

決まりだ。

カルロスの死が俺の命につながらないように動かなければならない。

カイルがすばやく情報をもたらしてくれたのは僥倖だったと言えるだろう。

今すぐに動くべきだ。

「父さん、いるか?」

「お、おう。ここにいるぞ、アルス。父さんになにかできることはあるのか?」

「ああ、父さんは今すぐ兵を率いてフォンターナの街に戻ってくれ」

「え、フォンターナの街にか?」

「そうだ。フォンターナの街に戻り、カルロス様のお子を、ガロード様を保護してくれ。カルロス様は俺の妻のリリーナとは血がつながっている。そのカルロス様の子どもとなれば俺の甥だ。ガロード様に何かあってはいけない。すぐに保護して匿ってくれ」

「わ、わかった。父さんはガロード様を保護すればいいんだな、アルス?」

「そうだ。ああ、ついでにしばらくはガロード様の身を安全にするためにも俺のバルカ城で匿うことにしよう。リリーナと一緒に避難してくれ」

「わ、わかった。今すぐ行ってくるよ、アルス」

「ああ、頼んだよ、父さん。あと、バルガスもフォンターナの街に戻ってくれ」

「俺もか、大将。一緒に戻ってガロード様の保護に当たればいいのか?」

「いや、バルガスには別の仕事を頼みたい。信頼できる部下を集めてパウロ司教のもとに行ってくれ」

「パウロ司教? なんで今、教会に行く必要があるんだよ、大将?」

「教会が主導した会談に向かった王が途中で狙われたんだ。教会に責任をどうとるのか追及しておいてくれ。ただ、無理に突っ込む必要はない。それよりもしてほしいことがある。バルガスは新たな家をたてろ」

「はあ? 俺が新たな家を? それこそ、今必要なのか?」

「ああ。連れていった信頼できる部下に名付けを行い、さらに軍を率いて西に行ってほしい」

「西? フォンターナの街の西へか? ……もしかして、アーバレストか?」

「そうだ。アーバレスト領にある川は他の貴族領とつながる交通網でもある。万が一、王やカルロス様が生きていた場合、川を安全に通ることができるかどうかが問題になる。その地をきっちりと確保してほしい」

「わかった。けど、あそこはアーバレスト家の領地だぞ、大将。俺が行くのはいいが問題にはならないのか?」

「アーバレスト家の当主ラグナ殿もカルロス様に同行して今回の襲撃を受けているはずだ。つまり、アーバレスト領には当主がいないということになる。当主不在のアーバレスト領に残っている連中がなにか言ってきたらこの証文を見せればいい」

「……それはアーバレスト家と交わした証文だな。たしか、戦争賠償請求についての。それで相手が黙るのか?」

「ああ、この証文には期日以内に賠償金を返済すること、あるいは緊急事態にはバルカによって新たな条件の追加、および変更が可能となる、と記されている。そして、今はフォンターナ家にとって非常事態であり、その項目の適用となる。つまり、こう言うんだよ。規約変更になってアーバレスト家はすぐに賠償金を支払う必要があり、それができない場合は領地を没収することになる、ってな」

「……おいおい、本当に変更できるとか書いてるじゃねえか。しかも、こんなちっさな字で。こんな小細工していたのか、大将。気づかなかったぜ」

「契約書は隅から隅まで読んでサインしないほうが悪いんだよ。というわけで、バルガスはフォンターナの西を抑えておいてくれ。頼んだぞ」

「わかったぜ、大将。俺もすぐに兵をまとめて出発する」

「よし、次だ。おっさんはどこだ?」

「ここにいるぞ、坊主。俺には何をさせる気なんだ?」

「おっさんはすぐに商人に声をかけろ。商人を通して情報を集めてくれ。あとは使役獣の卵をありったけ買い付けてくれ。ヴァルキリーの数を増やしておきたい」

「なるほど。東ではメメント家と睨み合っているからな。バルガスに西を抑えさせたのは商人の移動を確保するためでもあるのか。わかった。俺もこれまでより商人たちに顔が利くようになっているからな。任せてくれ」

「頼んだ。あとは、ペイン。お前にも仕事を頼みたい」

「はい、アルス様。なんなりとお命じください」

「ペインはカルロス様が本当にお亡くなりになったのかの確認を頼みたい。できればカイルの【念話】以外で確度の高い情報を。そして、カルロス様の死が確定したと判断したらフォンターナ領にいる騎士たちに伝令を走らせてくれ」

「はっ。どのような伝令でしょうか」

「新たな当主となったガロード様に挨拶に来るように、と伝えてくれ」

「……場所はバルカニアのバルカ城、でよろしいのですか?」

「そうだ。ガロード様はまだ2歳前後の幼子だ。俺が後見人としてフォンターナ家を守る。挨拶は幼いガロード様に代わって俺が受けることになる。いいな?」

「はい。もちろんです。アルス様は教会より聖騎士として認定されており、カルロス様より東部方面軍司令官として任命されているお方。フォンターナ家を支えるに足る資格があると愚考いたします」

「よし、バイト兄はこの陣地に入ってメメント軍を相手していてくれ。おそらくしばらくすればメメント軍にも今回の件の情報が入るはずだ。その時、動きがあると思う。決して無理せず守るように心がけてくれ」

「ああ、わかった。ここは任せてくれよ、アルス」

やってやる。

こうなったら自分が死なないためにはなんだってやってやる。

そのためにはフォンターナ家という組織は絶対に必要だ。

大貴族の集まりである三貴族同盟がなにを言ってくるのかわからない。

そのために対応するにはいくら悪名轟くアルス・フォン・バルカの名でも一人の個人では不足だ。

だからこそ、フォンターナ家という歴史ある貴族の名を利用する。

まだ、物の判断すらまともにつかない幼いガロードを保護という名のもとに管理下に置いたとしてもだ。

くそったれ。

今になってよく分かる。

レイモンド。

あんたもこんな気持ちだったのかもしれないな。

不当に家を乗っ取っていると言われかねない状況であっても、カルロスを手元においてフォンターナ家の運営をしていたフォンターナ家家宰のレイモンド。

なんだったか。

たしか、氷の守護者なんて呼ばれていたんだったか?

フォンターナ家に自分の息のかかった者たちで独占するのも、領地を安定するためには必要な処置だったというわけだ。

こうして、氷の守護者を殺して成り上がった俺はカルロスの死を契機に、自分自身もフォンターナを守るためという名目で第二の氷の守護者として行動せざるを得なくなったのだった。