軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

離脱と合流

「それでは行ってきます、アルス様」

「ああ、気をつけてな、リオン。カルロス様を頼んだぞ」

「わかっています。アルス様の方こそ、無茶をなさらないようにしてくださいね」

アインラッド砦の南にある3つの陣地。

そこからフォンターナ軍が再編されて、移動を開始することになった。

いまだにこの陣地の近くにまで出張ってきたメメント軍がいるのだが、カルロスやリオンが率いる軍が一度引くことになる。

というのも、王を護送するためだった。

どうやら、カルロスはついに王を王領へと戻すことにしたようだ。

王領はフォンターナ領から見て南にあるが、そこに向かうには東からのルートと西からのルートがある。

東側というのはアインラッド砦から下ったこの陣地を通り、さらにメメント領をかすめるようにして移動する必要がある。

さすがに現在軍が派遣されているその東側は通ることはできないだろう。

そして、リオンが聞いてきたように東でも西でもない空を通っていくという選択肢も考えられた。

が、それは飛行船を持つバルカとしてはとても無理だということしか言えなかった。

限られた条件下でしか空を安全には飛べないからだ。

そうして、残された選択肢は西ということになる。

新たにフォンターナに組み込まれたアーバレスト騎士領から南に向かうルートである。

こちらは途中まで川を南下し、途中で陸に上がって移動することになるようだ。

アーバレスト家の操船技術を有効活用しようということになる。

というわけで、王の護送のためにカルロスやリオン、ラグナがフォンターナの街へと戻り、さらに西へと移動を始めたのだ。

あとに残ったのはバルカ軍と旧ウルク領を治める騎士家になってしまった。

今、メメント家に攻めてこられたら結構危ないのではないかと思うのは俺だけだろうか。

「なに心配してんだよ、アルス。カルロス様がいなくなったあとはここの責任者はお前になったんだろ? もっとどっしり構えてろよ」

「そうは言うけどな、相手は本当に強敵なんだよ、バイト兄。魔法も強いし、数も多い。大変な仕事を与えられちまったって感じしかしねえよ」

「なんだよ。お前、俺がいないところでどんぱちやってたんだろ。ずるいぞ、アルス。さあ、早いとこメメント軍と戦おうぜ」

「……言っとくけど、勝手な行動はするなよ、バイト兄。俺達の仕事はメメント軍を抑えるだけでいいんだ。無駄に戦って被害を出す、なんてことはできないんだからな」

当初は新たな領地を手に入れたばかりの旧ウルク領の騎士たちは、その土地を安定化させるためにこの陣地には来られなかった。

だが、少しばかり時間が経過したことで一区切りついたようだった。

そこで必要最小限の人数を領地に残して、離脱するカルロスたちの戦力を補う意味でこの陣地へとやってきたのだった。

バイト兄以外にもキシリア家のワグナーやピーチャなどの軍がこの陣地に残っている。

フォンターナ家の当主であるカルロスが抜けたため、一応この東部方面軍の総指揮官はバルカ騎士家当主の俺が任命された。

やる気満々のバイト兄には悪いが、あとは王が無事に帰還できることを祈って、ここを守るだけにするつもりだ。

陣地からメメント家の軍の動きを逐一情報を得ながら、守りに徹することに努めたのだった。

※ ※ ※

「どう? 聞こえるかな、バイト兄さん?」

「おおっ!! すごいな。本当に頭の中に直接聞こえるぞ、カイル。どうやってんだよ」

「えっとね、相手に伝えたい思いを直接魔力で送り届けているんだよ」

「へー、すごいじゃねえか。……ん〜、駄目だ、全然できねえ。アルスはこの念話ってのはできるのか?」

「いや、無理だよ、バイト兄。練習してみたけどできなかった。よくわからないけど、どうも言語を魔力で送っているわけじゃないみたいなんだ」

「はあ? 言葉じゃない?」

「ああ。もともと、カイルの使っている念話は森の木がカイルに話しかけてきたものだ。けど、当たり前だけど木が人間の言葉をしゃべるわけじゃない。なのにカイルは木の言いたいことが理解できていた。まあ、ようするに人間の言葉以外の思念みたいなものを直接魔力で送っているみたいなんだよな」

「よくわかんねえな。頭の中で声を出しているわけじゃないってことか?」

「どうもそうらしい」

「くそ、できねえ。俺も使えれば便利だったのにな。残念だぜ。カイル、早くリード家の連中も使えるように呪文化しといてくれよ」

「あ、うん。たぶんもうすぐ呪文化に成功すると思うよ、バイト兄さん。ちょっとずつ練習してたから」

陣地にやってきたバイト兄とカイルが仲良く話していた。

俺は鉱山のことなんかでバルト騎士領に行ったりしてバイト兄と会っていたのでそうでもないが、カイルは久々にバイト兄に会うことになる。

やはり、少し寂しかったようだ。

今はこうしてふたりとも楽しそうに話している。

その中で出てきたカイルの新しい魔法について、バイト兄も俺と同じようにすごく驚いていた。

もっとも、それも当然だろう。

離れた位置から相手の頭に直接声を届けることができるのだ。

戦場でも大きな助けになるが、領地運営でも大きな力となる。

そのことをバイト兄もよくわかっているようで、早く呪文化しろとカイルをせっついていた。

「そういうバイト兄も新しい魔法作ったんだってな。【騎乗術】とか言ったっけ?」

「ああ、【武装強化】で呪文化するコツみたいなものを掴んだ気がしたんだよ。けど、ちょっと地味な魔法になっちまったな」

「そんなことはないだろ。バイト兄が名付けしたバルトの騎士たちは、騎乗経験が無くても魔法を使えばヴァルキリーに騎乗できるんだから。練習いらずで最強の騎兵部隊が出来上がるな」

「へへ、よくわかってるじゃねえか、アルス。そうなんだよ、意外とヴァルキリーに乗るのって他の奴らが難しいっていうからさ。ならいっそ呪文にしちまおうかと思ってな」

「確かに騎乗して走らせるだけでも結構大変なのに、戦場では騎乗しながら武器まで使わないといけないからね。ヴァルキリーは言うことをよく聞くからまだ乗りやすいはずだけど、やっぱりすごく練習時間を確保しないと駄目だもんな」

「だろ? さすが、アルスだ。俺の魔法の重要性がよくわかってるみたいだな。そうだろう、いい魔法だろ」

カイルもすごいが、バイト兄もすごい。

なんと、新しく任された領地の運営に四苦八苦しながらも、新たな魔法を開発していたのだ。

その名もズバリ【騎乗術】。

ヴァルキリーに乗るというだけの魔法だった。

が、これが意外と役に立ちそうだった。

なんといっても、バイト兄は俺と同じく幼いときからヴァルキリーに乗りまわっていたので、騎乗スキルが半端なく高いのだ。

人馬一体とでも言おうか、ヴァルキリーの嫌がる乗り方は絶対しないのにもかかわらず、その背中に乗りながら武器をブンブンと振り回すこともできる。

そんな高レベルの騎乗技術を名付けしただけで他人も得られるという。

メメント家の【竜巻】のような派手で高威力な魔法というわけではないが、十分強力な魔法と言えるのではないかと思う。

こうして、バイト兄が当主として君臨するバルト騎士家はあっという間に最強の騎兵集団に生まれ変わり、こうして俺のもとに集まったのだった。