軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

念写

「ふーむ、この紙は一応2枚重ねても下の文字が透けて見えるな。これなら転写も楽にできるか」

カイルが開発した魔法の【念写】は実に便利な魔法だった。

リード家の人間は【念写】という魔法を唱えてから頭の中に書きたい文章を思い浮かべると、まるでタイプライターで書き上げるように文字が焼き付けられるのだ。

等間隔にきれいに整えられた文字列がまたたく間に紙に綴られていく。

正直、羨ましいとすら思ってしまう。

リード家の魔法を俺は使えないからだ。

俺の場合は一文字ごとに魔力をコントロールしないと紙に魔力だけで文字を書くことはできないのだから。

手を動かす手間は省けたもののやはり【念写】の優秀性がすごすぎる。

だが、実はこの【念写】は文字だけには限らなかったのだ。

というのも、文字を書く以外にも【念写】によってインクを使わずに書けるものが見つかったからだ。

というか、書けるではなく描けるか。

なんと【念写】を使うと絵も描くことができたようだ。

頭の中で描きたいものをイメージしていれば紙に写し出すという魔法。

それはつまり、頭でイメージさえできれば何でも紙に表現できるということでもあった。

例えば、家などの建物を見ながらそれをそのまま【念写】するとその家を紙に写し出すことができるのだ。

これは別に建物だけには限らない。

例えば人物であっても可能だ。

ほかにも風景であっても問題なくできる。

つまり、カイルの【念写】という魔法は文字を書き上げるタイプライターでもあり、また、風景を切り取るカメラとしての機能も備えていたのだ。

まさかこんなことができるとは夢にも思わなかった。

カイルには本当に驚かされる。

どうやったらこんな呪文が作れるのだろうか。

「なにを言っているのですか、バルカ様。これは大変重要な問題なのですよ。一大事と言っても過言ではありません」

「あー、まあ、画家くんにとっては死活問題かもしれないよな。これからはリード家の人間であれば誰でも正確な風景なんかも描けるんだから。目を閉じていても精密な絵を描けるっていう画家くんの長所は完全に消えてしまったわけだ」

「な、何を言っているのですか! そんなことはありません。そこらのド素人が適当な風景を切り取っただけで名画が誕生するわけないではありませんか。いいですか、名画というのはですね、いかにその情景を表現するかを計算して作り出す必要がですね……」

「ああ、残念だけど水は低きに流れるって言うからね。カメラのスナップ写真がプロの技術を凌駕することもあり得るんだよ」

「か、カメラ? スナップ? 何のことを言っているのですか、バルカ様。そんな訳のわからない言葉でごまかそうとしないでください」

「ごまかしているわけじゃないけどね。まあ、画家くんにとってはこれから大変であるのは確かかもしれないね。というか、画家を名乗るんならいい加減に現実にあるものを正確に描くだけじゃなくて抽象化して描く必要もあるんじゃないの? 知らんけど」

「ちゅ、抽象化ですか。実は昔から本物そっくりに描くことはできても、簡略化して描くのは苦手なんです……。どうしたらいいんでしょうか」

「知らないよ。芸術家なんだから自分で模索してもらわないと。さて、できた。成功だな」

「はあ……、カイル様もとんでもない魔法を作ってしまわれたものです。こんなの本当に商売上がったりですよ」

「いや、案外画家くんにとってもいいかもしれないよ。複製が簡単にたくさんできるようになるんだから」

カイルが作った【念写】の魔法が絵にも活用できると気がついたのは人体解剖図を描く仕事を任せていた画家のモッシュだった。

彼は毎日人体の臓器を描く生活に嫌気がさしており、なんとかこの仕事をすぐにでも終わらせることはできないだろうかと考えたのだ。

そこで、何の気なしに筆を手にしながらも紙を手に持ち【念写】と唱えたのだという。

そうしたらそれが成功してしまった。

リアルすぎる人体の臓器が紙へと描写されていたのだ。

だが、このことを解剖担当のミームに言うと喜んで次々と臓器を手渡してきかねない。

が、だからといって画家として隠しておくわけにもいかなかった。

そこでわざわざ俺に言いにきてくれたのだった。

もっとも、俺にそれを伝えたところで問題解決にはなりえないのだが。

画家としての職業を脅かしかねない魔法には画家くんが自分の力で立ち向かっていってもらわないといけないのだから。

そして、俺はこのなんでも描写できる【念写】の特性に改めて目を向けたのだ。

イメージしたものをそのまま描くことができるのであれば、複製も容易なのではないかという点についてである。

そこで考えたのが紙を重ねてコピーするという方法だった。

バルカで作っている紙は2枚重ねて中へ透かすようにすると下の紙にかかれているものが分かる。

その状態で上の紙に【念写】をするとどうなるか。

実験した結果、見事にトレースしたような文字や絵が描写できたのだ。

「でも、わざわざ複製する意味ってあるんですか、バルカ様?」

「ま、使い方しだいだろ。例えば、画家くんが描いた絵を他の土地にいるリード家のものに見せて【念写】させても全く同じものが出来上がる。風景だって同じだ。っていうことは、敵地を偵察させて【念写】させたものをバルカニアやフォンターナの街でたくさん作って配布することもできる。全く同じ情報を間違いなく共有することができるってことになるな」

「はあ、結局バルカ様は戦のことしか考えていないのですね」

「そんなことはないよ、画家くん。俺はこれを商売に役立てようとも思っているのさ」

「商売ですか? 本を売りたいという話はお聞きしましたけど正直それほど売れはしないのではないですか?」

「いや、売れるはずだ。人物像を【念写】したものを売るんだよ」

「人物の絵ですか。ああ、もしかして」

「そうだ。かわいくて綺麗な女性の姿絵を売ろう。アイドルの写真集っていうのは間違いなく売れるだろ。これなら文字が読めない連中でも喜んで買うに違いない」

なんなら多少のエロ要素を入れてもいい。

新しいものの普及にはエロの力というのはバカに出来ないはずだ。

こうして、俺は女性をモデルとして複数の姿絵を【念写】させたものを販売し始めたのだった。