軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

次の一手

治療を終えた状態だがベンジャミンはまだ意識を取り戻してはいなかった。

その体を側仕えたちに預ける。

彼らはベンジャミンが無事だったことにことのほか喜んでいた。

こんなところにまでついてくるだけあって、第一王子のことを慕っている連中なのかもしれない。

ただの仕事ではそこまでしないし、喜ばないだろう。

だが、そんな連中でもベンジャミンの様子が変わったことには気づいていなかった。

もともと、ベンジャミンの魔力が外に出ていなかったというのもあるのかもしれない。

圧倒的魔力量を誇るブリリア魔導国の王族でありながらも、外見からではその魔力の多さを測れないのだ。

ゆえに、今の弱体化したベンジャミンのことにも気づくことができなかった。

「……助かったのか? しかし、これは……。ずいぶんと力が落ちたものだね。そうは思わないか、アル?」

けれど、さすがに本人は自分の体の状態をすぐに察知したようだ。

側仕えに支えられていたベンジャミンが目を覚ました。

そして、体の変化について言及する。

「かなり危険な状態でしたからね。一命をとりとめる代償で、魔力量が減じたようです」

「ふむ、そうか。まあ、命あっての物種だからね。助かったよ、アル。君が治してくれたのだろう? 感謝するよ。謝礼を払わねばならないな」

「ご心配なく。すでに彼らから遺失物を拾う権利を得ているので」

「遺失物? ああ、なるほど。いや、それだけでは安すぎるだろう。俺が国に戻った暁にはもう少しきちんとした礼をしよう。あれらはそれまでのつなぎとしてもらっておいてくれ」

大国であるブリリア魔導国の王族。

歴代の王家が婚姻を重ねて築き上げてきた豊富な魔力。

それがベンジャミンから失われた。

今の彼の魔力量はそこらの兵士と同程度くらいしかない。

にもかかわらず、ベンジャミンには余裕があった。

自身の変化に気が付いていないわけではない。

そして、気にしないはずもない。

俺だったら、目が覚めたら魔力量が激減していたら困惑するだろうし、そのきっかけになったであろう相手に激昂するだろう。

なのに、そんな素振りも見せない。

それまでと何ら変わらず、以前までと同じように俺と話している。

「体は大丈夫ですか、殿下?」

「ああ、みんなには心配をかけたな。問題ない。力が落ちているようだが、それくらいだ」

「大問題ではありませんか。それは殿下が王位につくために非常に不利になる要因となるのではないでしょうか」

「いや、問題ないさ。命があるのであれば、いくらでも挽回できるからね。それより、君たちには俺に力を貸してもらいたい。いいか?」

「はい。我々が殿下にできることがあるのであれば、なんでもいたします。遠慮はいりません」

「ありがとう。感謝するよ」

深い積雪の上でベンジャミンを中心として、その側仕えが車座になって話している。

周りが第一王子の魔力量の激減について知り、それを心配するも本人がなだめているような会話が続いた。

中には俺をにらむように視線を向ける者もいた。

が、それをベンジャミンがたしなめながら、みんなに力を貸してほしいと頼む。

それを聞いた側仕えたちは涙を流しながら、喜んで、と言って今後の忠誠を誓っていた。

まるで演劇にでもあるような光景を見せられているようだった。

だが、それはただの感動の物語ではなく、実際にベンジャミンには切り札があったらしい。

彼がそばにいる者たちへと行った行為を見て驚愕する。

「魔法陣? それは【命名】の? いや、違うな。暗号化されているし、多分別ものだよね」

「さすがだね、アル。これは、我が国に持ち込まれた魔法を独自に解読し、改良を施したものだよ」

「改良? 魔法陣をですか?」

「そうだ。【命名】という魔法は魔法陣が展開し、相手に名付けを行い魔法を使用可能状態にさせる。そして、その代わりに相手から魔力を受け取ることができる。そうだね?」

「ええ。そうですね」

「その魔法陣はブリリア魔導国にある魔導文字とは少し違ったんだよ。正確に言えば、はるか昔に失われた古代魔法文字とでも言えばいいかな? そのため、解読には少々手間取ったが、研究は完了した。これは全く新しい魔法陣なのだよ」

ベンジャミンが側仕えに行ったのは魔法陣の行使だった。

すでに一般人程度まで落ちている魔力量だが、これまで鍛えてきた魔力操作の巧みさがあるからだろうか。

なにもない空中に魔力で細かな魔導文字と図形が配置された魔法陣を描き出す。

そして、それによって彼の魔力量が増えた。

しかし、その魔力の上昇量が気になる。

今までいろんな者が【命名】を使うところを見てきたからだろうか。

感覚的に、一度の【命名】でどのくらいの魔力量の上昇が起こるかは想像がつく。

けれど、今、目の前で見たベンジャミンの魔力量上昇は【命名】を使ったとき以上のように感じられた。

もしかすると、魔法陣の改良の結果なのかもしれない。

【命名】により他者から魔力を受け取る量よりも多く移譲されるような設定に魔法陣を作り変えたのだろうか。

なるほど。

だとすれば、ベンジャミンの余裕にも納得がいく。

彼は魔力量の激減という事態にも大きく心を乱していなかった。

それは、それに対しての対策があったということなのか。

まだ、王になることを諦めてはいない。

自身の現状を正確に認識しつつ、それを受け入れ、切り替えて行動するベンジャミンを見て、彼はまだ終わったわけではないと認識させられたのだった。