軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

命の代償

「殿下は? 殿下はご無事ですか?」

「……死にかけている。いや、生きているほうが奇跡と言っていいですね」

「そ、そんな……。なんとか助けることはできないのですか!」

俺が倒れているベンジャミンを発見し、そしてその身に魔剣を突き立てた。

魔剣ノルンを通してベンジャミンの血液が俺の中へと取り込まれる。

その豊富で、かつ鍛え上げられた魔力とともにだ。

きっとイアンのような酒好きなら、美酒、いや、甘露と表するのではないだろうか。

極上の血だ。

それが俺の中に満たされていく。

そんなふうにごちそうを味わっているところに無粋な声がかけられた。

ベンジャミンの側仕えたちだ。

次々と俺とベンジャミンの周りに集まってきて、口々に言葉を発する。

それに対して適当に返答をしているが、ちょっと黙ってほしい。

今は最高の血液を味わっているんだから。

(いや、これは最高の血ではないぞ、アルフォンス。今までで一番うまかったのはアルス・バルカの血だ。こいつの血もかなりうまいが、あれには遠く及ばないぞ)

周囲からの煩わしい声とともに、俺のうちからもそんな声が聞こえる。

俺の血そのものであるノルンの思念だ。

ノルンにとっては自身が魔剣として生まれてから最もうまかった血はアルス兄さんらしいからな。

魔導迷宮で長年放置されてしまっていたことで血液からから状態になり、そんな状態であのアルス兄さんの血を飲んだのだ。

さらに極上の血であったらしい。

が、その時はまだ俺は吸血種になってなかったしな。

アルス兄さんの血のうまさってのは知らない。

なので、俺にとってはこのベンジャミンの血こそが今までで一番うまい血なのだ。

余計なことを言って水を差さないでほしいものだ。

「なんとかならないのですか、アルフォンス・バルカ殿? 貴殿は奇跡の子として名をはせているそうではないですか。たとえ、手足が無くなろうともそれを蘇らせる奇跡を起こせると聞いています。なにとぞ、殿下をお救いください」

「俺に治療しろってことですか? 別にいいですが、報酬はいただきますよ?」

「そんな! 殿下のお命がかかっているのです。そのようなことを言わず、すぐに治してください」

「無理ですね。ただでは治せませんよ。きちんと報酬をいただけないのであれば、治療を行うことはできません」

「……な、なにをお望みなのでしょうか。我々に支払えるものであればいくらでもお支払いいたします。なにとぞ、お願いいたします」

「そうですね。では、ベンの持つ魔法鞄とその中身一式を。さらには白竜のとの戦いで使用した王級魔装兵や魔装兵器もいただきましょうか」

「な、そんな無茶な。あれはどれも国宝級のものです。それを渡すことなどできはしない。無理です」

「そうですか。残念です」

こいつら現状を分かっているんだろうか?

霊峰という人類が踏み入るには厳しすぎる場所にいる。

そのうえさらには白竜という超強力な魔物までもがいる。

そんなところで治療を行う対価としては安いものだと思うんだけどな。

「っぐ。……分かりました。我々は殿下の荷物を見失ってしまいました。どこにあるか分かりません。このような場所だ。二度と見つけることはできないでしょう」

「なるほど。では、もし私がそれを見つけたら……、いいですね?」

「ええ。我らにはアルフォンス・バルカ殿の持ち物についてとやかくいうことはないですし、できない」

「分かりました。それでは治療を行いましょう。が、先に言っておくことがあります。これが成功するかはベンにかかっている。そのことをお忘れなきように」

ベンジャミンの装備品。

それらを手早く外していく。

ちゃっかりしているのか、そばに来たラムダにそれらを手渡していった。

それを側仕えたちは悔しそうに見ている。

が、文句は言わない。

ベンジャミンが霊峰で白竜と戦い、遺失したものであるということで、何も言わないことを選択した。

彼らとしても、勝手に王族の所有物を取引材料として使えないのだから、苦肉の策なのだろう。

その表情を見ながら、俺は治療を開始した。

【回復】、ではない。

一瞬で失われた血液を元に戻す奇跡の魔法ではなく、俺はベンジャミンの体に血を送り込んだのだ。

魔剣ノルンの力を使って。

同じようなことを以前にもしたことがある。

そのときは、オリバにたいしてだった。

炎の矢を放つ魔術を持つグルーガリアの弓兵の血を、オリバの血液と総入れ替えを行ったのだ。

その時、オリバは生死の境をさまよった。

そして、運よく、あるいは根性を見せたことでオリバは生き残り、そして炎の矢を放つ魔術を手に入れることになったのだ。

その時は、かなりの副反応があったように思う。

が、今回はそれほどの激しい反応は出なかった。

というのも、なんらかの魔術の使い手の血液ではなく、ごく一般人の血液をベンジャミンに送り込んだからだ。

一応、血液の型はベンジャミンのものと合わせている。

なので、拒絶反応なく、ベンジャミンはその血で血管が満たされた。

雪の中で倒れていた第一王子の顔は冷たく、真っ白になっていた。

それが輸血を行ったことで血色が元に戻った。

とくんとくんと鼓動も正常に打っている。

それをみて、ベンジャミンの側仕えたちはわあっと声をあげて喜んだ。

だが、彼らはのちに知るだろう。

もはや白竜と戦ったときの力が王子から失われてしまったということに。

こうして、霊峰で竜と戦った王子は激闘を生き残り、けれど大きな代償を支払うこととなったのだった。