軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊使役

「あれ? なんか雰囲気変わりましたか?」

白一面の世界をヴァルキリーの背に乗って移動している俺たち。

そのなかで、最初に周囲の変化に気が付いたのはラムダだった。

なんとなく、今までとは周囲の雰囲気が違うと言い始めた。

そして、それは間違いではない。

実際に、この雪で閉ざされた空間はそれまでとは違っていたからだ。

「よく気が付いたな、ラムダ。多分、あれのおかげだ」

「あれ、ですか? あれってまさか、アルフォンス様と王子様が言っていた吸氷石ってやつじゃないですか。へえー、でっかいですね」

猛吹雪の中を移動し続けていたからだろうか。

このときはその吹雪が少し落ち着いていた。

が、それだけではなく、今までよりも寒さがましになっていた。

それはきっと、眼前に現れた吸氷石のおかげだろう。

俺が持って移動できる程度の小さな吸氷石でも周囲の寒さを吸い取ってくれてはいた。

しかし、大きいのは正義だ。

地面から突き出たように直立している氷の柱のような石。

人の背丈よりも大きなその吸氷石のおかげで、より寒さを吸い取ってくれるためか、肌寒さを感じることもないくらいだった。

「これは結構しっかりした吸氷石だね。像にするならもうちょっと大きいほうがいいんだけど、十分な大きさだな。それで、どうするんですか、ベン? お目当ての吸氷石を見つけましたけど、これで何をするんですか?」

俺とラムダ、それに他の者も興味深げに発見した吸氷石を取り囲んでみていた。

ラムダはこの大きさのものを見るのが初めてだったようだが、他の者は違う。

新バルカ街やバリアントで設置していた吸氷石はもっと大きかった。

それこそ、アルス兄さんがヴァルキリーに騎乗している姿を模した像を作れるくらいだからな。

しかし、それでも実際に霊峰という厳しい環境下でこのようなかわったものを自らの目で見られたことに全員が興奮しているようだった。

そして、その輪には加わっていないものの、それでもそれまでとは違う顔をしているのがベンジャミンだ。

白竜と戦う前に吸氷石を見る。

そう言い出したからには、この見つけた吸氷石になにか目的があるのだろう。

「すごいね。この吸氷石というものには強い力を感じるよ。吸氷石というのは、大きいほどよいということなのかな?」

「基本的にはそうですね。ただ、大きいだけでは駄目です。吸氷石は周囲の寒さを吸い取るという特性があります。そのため、質の高い吸氷石というのは大きさだけではなく、どのくらい寒さを吸い取っているかという点が重要になるようですよ」

「どのくらい寒さを吸い取る、か。これはどうなんだろう?」

「俺たちがここまで通ったところは、比較的吹雪きやすいところのようです。そんな吹雪が日常的にあるところに存在する吸氷石なので、質は高いんじゃないかと思いますよ。まあ、少なくとも俺たち以外にはこれを手にすることができる人ってのはいないでしょうね」

例外が一人だけいるけど。

当然その例外というのはアルス兄さんだ。

しかも、その例外のアルス兄さんは自分で吸氷石を作り出せる。

なので、自分で作った吸氷石を霊峰の中でも一番高い山の頂に設置しているらしい。

さすがにそれと比べるとここはまだまだ寒さが足りないと言えるかもしれないが、それでも他では手に入れることはできない代物だろう。

この吸氷石は間違いなく貴重な逸品である。

そう説明した俺の言葉を聞いて、ベンジャミンはうなずきながらその吸氷石に近づいていった。

「素晴らしいね。分かるかい、アル? 君はこの吸氷石が寒さを吸収していると言ったが、それだけではない。こいつには力がある。この世にある自然界の力の源がね」

「自然界の力の源? ……それってもしかして、精霊とか、そういうことですか?」

「さすがだね。精霊を知っているのか。そのとおりだ。世界には精霊と呼ばれる高位の存在がいる。その精霊がこの石の中にいるんだよ。そして、俺はその精霊を使うことができる」

「え? 精霊を使う? それってもしかして、精霊契約できるとかそういうことですか、ベン?」

「契約? 違うな。それじゃあ俺が精霊と対等の関係のようじゃないか。そうじゃなく、使うんだよ。使役と言ってもいいだろう。この吸氷石に入った精霊を俺が使役するんだよ」

俺との話でそんなことを言い出したベンジャミン。

精霊契約ではなく、精霊使役。

どう違うのか、言葉だけを聞いても今一つピンとこなかった。

だが、ベンジャミンが吸氷石に手を伸ばし、そこに触れる。

そこで、初めてベンジャミンの体に魔力を感じた。

それまでは、ほとんどなにも感じなかった彼の体から一気に魔力が流れ出し、それが吸氷石の中へと入っていく。

そうして、しばらくその魔力が吸氷石内を動き回っているように感じられた。

その魔力の動きは、なんと言えばいいのか分からないものだった。

あえて言うならば、生物的な動き、とでも言えばいいんだろうか。

俺の流動のような体の動きにあわせて動かせるのでもなければ、【鋭刃】のように剣身で微細な振動をするわけでもない。

ベンジャミンのそれは、まるで咀嚼しているみたいだった。

吸氷石内に入り込んだベンジャミンの魔力が、吸氷石の中にいるであろう精霊を食べるために動く。

そんな不思議な、気味の悪さすら感じる気配がしばらくした後、ふたたびその魔力が吸氷石からベンジャミンへと戻っていった。

そして、その後は以前までと同じく、魔力そのものが希薄になってしまった。

使役、したのだろうか。

吸氷石の中の精霊を。

全く予想もしなかった光景を見せられて、俺はなにひとつ言えずにいたのだった。