軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

赤の騎兵

「多いな」

門が開き、都市から出てきたぺリア軍。

真打登場と言わんばかりに堂々とした動きで、けれどこの機を逃さないとばかりに近づいてくるその数を見て、思わずつぶやいてしまった。

ざっと見た感じだけでも、五千くらいの数がいるんじゃないだろうか。

この数は明らかに多すぎる。

おそらく、今のぺリア国から集められる数の上限いっぱいを集めたんじゃないだろうか。

オリエント国も動員可能兵数で言えばそれくらいが限度なので、パージ街という街を失ったぺリア国も似たようなもののはず。

それがこの場に都合よくいるはずはない。

間違いなく、事前の計画なんだろう。

「奴だ! あの赤い馬に乗っているのを狙え!!」

そんなぺリア軍から聞こえてきた声。

どうやら、奴らの狙いは俺みたいだな。

まあ、そりゃそうか。

バルカ傭兵団の団長としてここにきているが、向こうからすれば俺はオリエント国の国防大臣兼護民官だしな。

隣国で軍権を一手に握る相手が目の前にいるのだ。

その相手を倒してしまえば、非常に大きな戦果となる。

それに、俺はどっちかというと守りの人という認識をされているのもある。

オリエント国を守るために防壁戦術を多用して、戦術的な勝利を積み重ねた。

そのため、最前線に出る機会が相対的に減っていて直接狙いにくい。

さらには、オリエント国の主要な国境線はすでに壁で守りを固め、あまり外征するために外に出ることがないのだ。

なので、俺を狙うならば守りで固められた国境線を突破して、オリエント国の首都か新バルカ街のどちらかに攻撃を仕掛けるしかなかった。

だが、そんな俺を引っ張り出すために用意したのが今回の作戦なのだろう。

敵対したことのある隣国に傭兵付きとはいえ、バルカ教会を作ることを許可したのだ。

そのバルカ教会が狙われて、俺が無視できるはずもない。

自国の中にあるいつでも好きな時に攻撃できる教会を襲って、助けに来なければそれでいい。

便利な力のある教会だし、銀が手に入るだろうという考えもあったに違いない。

そして、救援に来たのであれば、それを背後から襲う。

その中に俺がいてもいなくてもいいが、いるのはすぐにわかっただろうな。

なんせ、バルカ傭兵団の中であの【流星】を使えるのは、俺一人しかいないのだから。

あのド派手な弓の攻撃を見て、俺がこの場に直接出向いていることに確証を得られたのだ。

ぺリア国としては、作戦大成功といったところだろう。

攻撃されているバルカ教会を助けるために副官のエルビスが傭兵たちを伴って突撃した。

それを援護するために俺は【流星】を放った。

その結果、教会を攻撃していたぺリア軍も相当な被害が出ているが、それは問題ない。

なぜなら、そこにいるのは鍛えられた兵ではなく、扇動された民衆だからだ。

多少失っても痛くもかゆくもない。

それよりも、援護のために【流星】を使った俺は体力までもを失っている。

そこを五千の軍勢で襲い掛かれば、間違いなく攻略できるというわけだ。

「出ろ、黒死蝶」

エルビスが傭兵たちを連れて突撃したとはいえ、俺の周りに誰一人残っていないなんてことはない。

が、さすがにこれまで鍛えてきた傭兵たちとはいえ、十倍以上の兵数差がある相手に襲い掛かられては太刀打ちできないだろう。

もう、ぺリア軍は近くにまで迫ってきている。

ちょっとこの場にいる者たちだけではどうにもならない。

なので、時間を稼ぐことにした。

疲労した体だが、まだ魔力は十分にある。

その魔力を最大限に使って【黒死蝶】を発動する。

かつて、ぺリア国に仕えていたパージ街の雄であるグイード・パージが使った魔術。

漆黒の蝶を手のひらから次々と出して、俺の周りに飛ばさせた。

本来ならば相手の体にとりついて、流血を強いるのがこの黒死蝶の力だ。

だが、それを自分の周囲に使ったのは別の目的のためだ。

ただの目くらましとして黒死蝶を使用したのだ。

俺と俺が騎乗するワルキューレの周りに黒死蝶が大量に生み出され、それによって空間の視認性が悪くなってしまうほどになった。

ぺリア国から見ると大きな黒い球というか、繭が生み出されたように見えるかもしれないな。

「お次はノルン、お前の出番だ」

その黒死蝶の中で今度は新たに別のものを出現させる。

それはノルンだった。

魔剣ではない。

ブリリア魔導国のヴァンデンブルグ伯爵領から帰ってきたセバスから受け取った赤黒い魔石に俺の血を与えておいたものを使って、鮮血兵を出したのだ。

しかも、その鮮血兵はただの赤い鎧ではなかった。

「散開」

いくつもの魔石から生み出された鮮血兵ノルンは、赤い鎧の人型と赤いワルキューレに似た姿をしていたのだ。

その数は五騎。

俺が騎乗する赤い体毛のワルキューレは赤く色を付けたバルカ鋼の鎧を身に纏っているし、俺自身も自分の体に血の鎧を作り上げている。

つまり、赤の騎兵が俺も入れて六騎いるわけだ。

その六騎の赤い騎兵が漆黒の繭である黒死蝶の群れからそれぞれ別方向に飛び出した。

俺のもとに突き進んできていたぺリア軍がその光景に驚いた気配を感じた。

バルカ傭兵団には白いヴァルキリーが騎兵として用いられていて、ヴァルキリーたちには白い鎧を着せていた。

そんなほかの騎兵とは違って、俺だけが赤いワルキューレに乗っていたのだ。

だからこそ、赤い騎兵を目印に突撃しようと走っていたのに、いきなり黒い蝶がそいつの一帯を包み込んだと思ったら、六つに増えて別々の方向に走ったのだから困惑してもおかしくないだろう。

だが、バルカ傭兵団のほうは違った。

俺が発した散開という言葉を聞き、それに忠実に従った。

さすがはエルビスの訓練が徹底されて行われていただけあるな。

傭兵団は分隊や小隊ごとにそれぞれ指揮官がまとめているのだが、そいつらが何も言わずともきちんと六つに分かれるようにして赤の騎兵についていく。

これで、見た目からはどこに狙いの俺がいるかは分からないだろう。

こうして、五千の軍勢に背後から襲われることになった俺は、自身の守りにおいておいた傭兵たちをさらに六分割して対抗することになったのだった。