軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【命名】への警戒の違い

「まず、最初に説明をしておこうか。心の臓における不治の病と呼ばれる呪いについて治す方法だが、これには二種類存在している。君はどちらを行いたいかな?」

「え? ちょっと待っていただけませんか? それは本当でしょうか? 二種類あるのですか?」

呪いに侵されて心の臓に病がある女性。

その女性に俺が話しかけると、すぐにセバスのほうが反応した。

不治の病と言われるものがすでに治す方法があるというだけでも半信半疑だったのだろう。

それが二つもあるというだけでも驚きだといったところだろうか。

「ああ。簡単に説明しておこうかな。治療する方法のひとつは俺が直接治す方法だ。この病状は心の臓が問題というよりは、穢れた血が悪さをしている。なので、俺がその血を全て除去するという方法だね。これは魔力を用いてやるから、多分できるのは俺だけだと思うよ」

「あ、あなた様が自ら治療を行うのですか? なるほど。魔力を用いての治療ということは、魔法のようなものなのでしょう。しかし、それならもしかしてもう一つの方法というのは、他の者でも治療が行えるやり方が確立されているということでしょうか?」

「惜しいね。ちょっと違うかな、セバス。もう一つの方法っていうのは、俺が名付けをすることになる。【命名】のことは知っているんだろう? あれを使って、彼女に名付けを行う。すると呪いを治すことができるようになるんだよ」

「……それは本当でしょうか? ブリリア魔導国でも【命名】によって魔法を使用できる方はたしかにおられます。ですが、そのような話は聞いたことがないのですが……」

「だろうね。当然だよ。だって、ブリリア魔導国で広がっている魔法の系統には呪いを解くための魔法が含まれていないからね。俺が名付けを行えば、彼女は新たな魔法を得られる。その中にある【解呪】という魔法を使えば、自分の魔力で呪いによる穢れた血を除去することができるようになるんだよ。【解呪】さえ使えれば、正直なところソーマ教国製の化粧品をこれからも使い続けても問題なかったりするんだよね」

呪いが用いられたソーマ教国製の化粧品は使用すると血が穢れることが分かっている。

それを逆用して作ったのが、俺独自の魔法の【解呪】だ。

自分の体に化粧品を塗り付けて、血が穢れた瞬間に「解呪」と言いながら処理していった。

これにより、俺はそれまで存在しなかった呪いに対抗できる魔法を作り上げていたのだ。

たしか、八歳くらいの時に作った俺にとって三番目の魔法だな。

本当はもっといろいろな魔法を作っても面白いと思うけれど、変な物を作ると一瞬で新バルカ街やオリエント軍で広まることになるから作りにくいんだよな。

それはともかく、俺が名付けをした連中は【解呪】という魔法が使える。

この呪文は自分の魔力で内臓機能を高めて穢れた血を除去することができるので、化粧品程度の穢れならば問題なくなってしまうというわけだ。

なので、俺が名付けをしてしまえば、今後は自分で治療ができるというわけだ。

「う、ううむ。なるほど。そのような魔法があるのですね……。ですが、今回は【命名】ではなく治療を行っていただくことにいたします。君もそれでよいな?」

だが、そんな便利な魔法があるというにもかかわらず、セバスは俺に治すように頼んできた。

どうやら、バナージの報告にあったとおりみたいだな。

セバスは、あるいはブリリア魔導国では【命名】を警戒しているのだろう。

東方ではアルス兄さんの影響で魔法を使える者が増えた。

とくにその数を増やしているのは小国家群かもしれない。

こちらは各地域で独自勢力が跋扈するような勢いで魔法を使える者が増えたのだ。

が、逆にブリリア魔導国ではそこまで魔法は広がっていない。

これは多分理由がある。

おそらくだが、最初に名付けられた者の違いだ。

小国家群では一番最初に名付けを受けたのはバナージだった。

そのバナージがオリエント国で身近な関係者に【命名】を使い、そしてそこから徐々に他の者へと派生していった。

が、ブリリア魔導国では当時アトモスの里を占拠していた軍に魔法がもたらされたのだ。

アトモスの里にいたブリリア軍の総指揮官は王女であるシャーロット様だったという。

アルス兄さんによって、シャーロット様とその部下に魔法がもたらされた。

シャーロット様は東方における大国の王族であり、そこに部下としてついていた兵も相当な実力者だったのだろう。

ということは、当然ながらバナージよりもけた違いに魔力量が多いということでもあった。

小国家群ではさほど気にされなかった【命名】されることにより自身の魔力量の減少がブリリア魔導国ではすぐに問題視されたのかもしれない。

名付けは【命名】した親にたいして子にあたる者から魔力が移動してしまう。

それは、もし仮にブリリア魔導国の王たる魔導王に誰かが名付けをしたら、その人は魔導王の豊富な魔力を一部とはいえ奪い取ることができるのだ。

これは例え便利な魔法が使えるからといって許容できる問題ではない。

しかも、魔導国にはもともと魔法陣の知識があった。

【命名】は唱えた瞬間に、手のひらから複雑な魔法陣がでるが、それを見てどの魔導文字がどんな意味を持つのかを解析でもしたのだろう。

貴族の間で無秩序に名付けが行われてしまうと大変なことになる。

それこそ、それまであった高位貴族とそれ以下の貴族や騎士の力関係が大きく変わってしまう無秩序な状態になりかねない。

なので、ブリリア魔導国では魔法は便利なものではあるが、好き勝手に【命名】してはならないとされているようだ。

おかげで、一部の人間しか魔法が使えるようにはなっていない。

そのために、俺が名付けをしようという提案をセバスは受け入れられなかったのだろう。

まあ、それならそれでいいか。

放っておいてもそのうち庶民の間で魔法を使える者なんて広がっていくだろうし。

セバスの要求どおり、俺はその女性の体から穢れた血を取り出すことにしたのだった。