軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

禁輸措置の功罪

「お嬢様は用意していただいたお宿にて体を休めておられます。本来であれば、すぐにでも治療をお願いしたいところなのですが……」

エリザベスを心配していると告げるとヴァンデンブルグ家執事のセバスが言葉を濁す。

彼女はやはり不治の病という呪いに犯されているようだ。

が、さすがにすぐに治療に取り掛かるというわけにもいかないだろう。

なんせ、高貴な身分の令嬢なのだから、話に聞いただけの内容をそのまま信じて体を触らせるということはまずないからだ。

「ヴァンデンブルグ家に宛てて書いた手紙は読んだ? あれが不治の病じゃないってことは、もう理解しているのかな?」

「はい。拝読させていただきました。驚くべき内容でしたが、たしかにお嬢様はソーマ教国製の化粧品も使用されておられました。また、こちらで行った調査では、やはりあの病と化粧品の使用には関係性があると考えられる結果が出ています」

「そっか。そこまでしっかり調べてくれているんだね。正直、ちょっと心配だったよ。いきなりそんな内容の手紙を送っても理解されないんじゃないかと思っていたんだ」

「もちろん、普通の手紙にそのようなことが書かれていただけでは、ヴァンデンブルグ家も動かなかったかもしれません。ですが、オリエント国で実際に診られた症例とそれに付随した情報をきちんとした論文という形であったのがヴァンデンブルグ家をも動かすこととなりました。あの論文を読んで、その内容を一顧だにしないほど我々は愚かではありません」

どうやらセバスもしっかりと手紙を見てくれていたようだ。

セシリーとの手紙ではかつての友人という形で書いたものを送っていた。

が、さすがに婚姻相手の伯爵家にそれと同じものを送るわけにはいかないだろうと、少し難しい内容で書いていたのだ。

貴族院では各生徒が自由に研究をし、その研究結果を発表することもある。

俺が在籍していた時にはそんな講義を受けたことはなかったけれど、アイが受けていたのだ。

当時、俺の訓練をつけてくれていたアイだが、それとは別にアイ自身が生徒の付き人として講義に行くことができた。

複数の体で同時に行動できるアイは、俺が在籍していた短い期間にもかかわらず数多くの講義を受けて、その知識を得ていたことで論文形式の書き方なども覚えていてくれたのだ。

アイに教わりながら、ブリリア魔導国式の論文発表のような堅苦しい内容でソーマ教国の化粧品がいかに人体に害をなしているかを説明した手紙を送りつけた。

それが功を奏したようだ。

こちらが提示した情報をもとに、ブリリア魔導国でも調査が行われたようで、そして確かに化粧品がよくないだろうと判断するに至ったという。

わざわざセバスがその追跡調査の報告書を持ってきてくれたようなので、それを見せてもらうと俺が書いた内容のものよりもさらに詳しく書かれていた。

短い期間にもかかわらず、広範な人を対象に調べているのが分かる。

「……ここまで詳しく調べたとなると、ヴァンデンブルグ家もソーマ教国製の化粧品は禁止したりするのかな?」

「そうなるかもしれません。ただ、我々が出立する時には、まだ結論が出ておりませんでした」

「なるほど。どうやら、ソーマ教国との関係性が難しいみたいだね。表立って禁止するのはやりにくいかもしれないね」

オリエント国でもいろいろあったからな。

ソーマ教国は大国だ。

あの化粧品は命に係わるので、禁止したほうがいいと俺は思う。

が、しがらみなんかもあるのだろう。

というのも、ソーマ教国でしか手に入らないものも実際にあるのだ。

延命薬だってそうだろう。

あれは不治の病に陥った者がいずれよりよい治療法が見つかるかもしれないと希望を求めて使い続ける薬という側面だけを持つわけではない。

戦場で致命傷を負った者を一時的にでも延命させて連れ帰り、適切な治療を行うことで一命をとりとめるなんてこともあるのだ。

つまりは使い方次第で非常に有用な薬であるのは間違いない。

ソーマ教国だけが使える禁呪はそんな有用な薬づくりにも使われている。

延命薬以外にも、ほかの国では手に入らないような効果の高い薬がもたらされるのだ。

こういってはなんだが、不良品の化粧品があったくらいで事を荒立てて、より有用なものが手に入らなくなるようなことがあれば損だと考える者がいてもおかしくはない。

オリエント国が禁止にしたときにも、ほかの小国では禁止にしないところが多かったのもそれが理由だ。

ようするにソーマ教国と揉めることになるのを嫌う者がいるということだ。

もしかしたら、俺が送った手紙がきっかけとなってソーマ教国とヴァンデンブルグ家、あるいはブリリア魔導国の関係に変化が出るかと思ったけど、微妙なところか。

ただ、魔力量の多い女性ほど、呪いにかかる可能性が高いというのも問題だろう。

いずれは、国力の低下にもつながりかねない。

その辺も考えてソーマ教国にどう詰め寄るか、慎重に考えているといったところだろうか。

「まあ、それはおいておこうか。それよりも、エリザベスのことだね。彼女を治療する前に、ほかの患者がいるのであればその人を治療してみようか?」

「ありがたいお言葉です。でしたら、この者の治療をお願いできますでしょうか? 今はまだ立って歩くことは可能ですが、だんだんと体力が低下してきており、軽い動きでも息切れが起こるのです。症状と状況から考えて、お嬢様と同じ病の初期状態であると思います」

ソーマ教国への対応について、俺からなにか言うこともないだろう。

それについての話はひとまず終わらせた。

その後、エリザベスの治療を行う前に、実際に治療をするところを見せることにした。

こういうのは、やって見せたほうが早いのは分かり切っているしな。

向こうもそのつもりだったのだろう。

セバスの後方に立っている人の中から一人の女性が前に進み出てきた。

どうやら、この人も化粧品愛用者だったようだ。

みんなが見ている前で、俺はその女性を治療することにしたのだった。