軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

改宗

「お会いできて光栄です。私はメルビーの街を治めているビングと申します」

オリエント国にある議会。

いつも議題を話し合う議事堂の一室に、メルビーとかいう街からやってきた一人の男が声を上げた。

それを聞くのは、俺やアイ、ハンナやローザだ。

そのほかにも何人もの人がいる前で、少し緊張した様子を見せながらもビングと名乗る人物があれこれと言っている。

まだ戻ってきていないバナージを除いた面々と面会しているのには、当然ながら理由がある。

「我がメルビーの街に住む者たちは私自らが説得したことですでに今回の件を承知しています。我々は改宗し、バルカ教会の教えに従って生きていくことをここに誓います」

「分かりました、ビング殿。素晴らしいことですね。これからは私たちと一緒にバルカ教とともに生きていきましょう」

「はい。ありがとうございます、ハンナ様」

メルビーの街のビングが改宗した。

それまでは、あまり聞いたこともないような土着の宗教というか信仰を持っていたようだ。

が、その信仰を捨てバルカ教の教えを受けて改心したのだという。

それをわざわざオリエント国にまできて、伝えたのだ。

まあ、当たり前ながらその改宗には理由がある。

それは、昨今のバルカ傭兵団の活躍があるからだ。

グルーガリア国に派遣されたギース中隊の連中は大きく活躍した。

五百人という人数で、無茶苦茶に多いわけではないが各地で戦って結果を出してくれた。

もっとも、主に大きな戦果をあげるのは地方の独自勢力つぶしのときであり、グルーガリア軍が主体になって戦うときには戦場の一端での活動に終始していたのだが。

それだけならば、ほかの傭兵でも同じようなことをできるところはいくつかある。

なんだかんだで、名門家の三男やそれ以下の家督を継げない者たちが集まって作った傭兵団ならば個の力で大きな戦力足りえるからだ。

だが、バルカ傭兵団の力はその個の力では留まらなかった。

いくつもの独自勢力をつぶし、そこで得た物資を素早く売り払いお金に換え、そしてそのお金で武器や食料を手に入れて、さらに戦っていく。

いうならば収益性が非常に高いのがほかのない傭兵団との違いだった。

それはグルーガリア側にも利益になったらしい。

五百人の人間を賄っても余りある利益を出すギース中隊は、こちらの商人たちから以外ともやり取りをしていたからだ。

グルーガリア側にも儲けが出て、その額はそれなりにあったらしい。

そんな話を聞きつけたのが、ほかの国だった。

オリエント国は今、大きな戦いをしていない。

なぜならば、周辺五か国と次々と戦い、それを撃退し、国境付近に壁を作ったうえで停戦条約を結んだからだ。

つまり、オリエント国と停戦しているグルーガリア国と同じような国がほかにもあるということだ。

そして、それらの国も違いはあれどもグルーガリアと似たようなものだった。

かつてオリエント国と戦い、そして敗北したことで国力の低下があり、ほかの国から狙われる位置にあったのだ。

そんなとき、バルカ傭兵団の話を聞いた。

何度も戦った経緯のあるグルーガリア国へとオリエント国国防長官たる俺の私兵のような傭兵団が派遣され、特に問題も起こすことなく結果を上げ続けている。

しかも、その契約金はしっかりと明記されていて、ふっかけられる心配もなかった。

さらにいえば、積極的に食料や武器を補給する商人の手配もオリエント国側がやっているようであるという。

どの国も戦力を減らし、不況にあい、貨幣不足も解決していない状況で困っていた。

そんな状況で戦力確保できるというのはうまみがあると判断したらしい。

しっかりと訓練された傭兵を数年契約で借り受け、それが普通に働いてくれるのであれば十分だ。

それだけではなく、食料を運ぶ商人を通して、物も動く。

あるいは、自分たちもその商人と取引してもいいだろう。

そして、さらに言えばバルカ傭兵団という戦力を引っ張り出せるというのもよかったのかもしれない。

周辺国が次々と襲い、けれどそのすべてをはねのけたオリエント国。

そのオリエント軍はまだ健在なれども、それと同じような組織化された傭兵団が自国にいるのは、危険性もあるがいい面もある。

五か国が五百人ずつ傭兵を借りれば、それだけでオリエント国からは二千五百の戦力が出払っているということでもあるからだ。

停戦協定があるといっても、やはり不安だったのだろう。

そういう意味もあって、他の国々も数年契約してバルカ傭兵団から中隊規模の派遣を依頼してきたのだ。

そうなると、一番困ることになるのは地方の独自勢力たちだった。

話に聞くだけでも次々と壁で囲んだ街を攻略され、金も物も持ち出されて売られてしまう。

そして、それを助けてくれる国はいない。

なぜなら、自分たちがその国から独立するように自立してしまっていたからだ。

このままでは、その周辺国やさらにその周りの国にあった独自勢力はバルカ傭兵団においしくいただかれてしまう甘い果実となってしまう。

そうなるのは困るが、戦って勝てるかというと分からない。

一か八かで勝負を挑んで敗北した独自勢力の話を聞くからなおさらだろう。

で、メルビーの街のビングのような連中が現れたというわけだ。

きっと頑張って情報を集めて考えたのだろう。

あちこちに派遣されたバルカ傭兵団が大手を振って街を襲撃していくのは、信者の解放という使命を持った聖戦士であるからだ。

魔法を使える者がバルカ教の信者であり、それを悪用するならず者を成敗し解放する正義の味方だということだ。

だったら、どうすればいい?

答えは簡単だ。

自分たちも信者であればいい。

魔法を悪用しているならず者などではなく、バルカ教の信者であれば攻撃される理由は無くなる。

というわけで、一部の独自勢力の中で頭の柔らかさを持った連中は鞍替えをしてきたということだ。

バルカ教会に改宗の意志を示して正式に信者であると認めてもらう。

ついでに街の主要な者も同様だとしておけば、逆にそれは味方をも増やすことにもなる。

なぜなら、バルカ教会には信者を助けるために兵力を出すことをいとわないとあるからだ。

もしも、今後自分たちに危機が迫ればバルカ教会を通して俺やバルカ傭兵団の助けを得られる可能性が出てくるというわけだ。

国という支配から独立し、けれどバルカ教会の傘下に入るということにもなる。

こうして、他人の金でバルカ傭兵団が戦うことによって、バルカ教会の影響力は日々少しずつ増していくこととなったのだった。