軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

表示の変更

「では、腕輪に表示するエンの金額は千分の一単位までといたします。ここに新たな法案が可決されました」

ずっと見ていたオリエント国議会。

その中で話し合われていた内容はさまざまだが、そのなかでもこちらにとって最大の争点となった法案が可決された。

それはエンに関係した内容だった。

今年から運用が開始されたエンという新貨幣。

それにさっそく手が加えられることになったのだ。

といっても、エンを否定するような内容ではない。

むしろ、もっと使いやすいように変えるためのものだった。

それまで腕輪に表示させていたエンを千分の一まで表示できるように変える。

ただそれだけの内容だ。

だが、これが今のオリエント国にとっては非常に大きな影響がある。

というのも、一時的な貨幣不足を引き起こすきっかけにもなったエンではあるが、こちらもまだまだ不足気味だということが関係している。

それは銀の量に応じてしかエンを発行できないということが関係していた。

新バルカ街ではエルちゃんたちが日夜鉄を銀に変えている。

が、その速度と量には限界があった。

それはエルちゃんたちの魔力量だ。

いくら大雪山に住む魔物とはいえ、犬人一匹あたりの魔力量には上限がある。

それは一日で魔法を使える回数にも限界があるということを意味していた。

つまり、いくら大量の鉄を集めようともそれをすべて銀に変えられているというわけではなかったのだ。

新バルカ街で備蓄している銀の量は実はまだ多くはない。

オリエント国をはじめとした周辺諸国でも取引できるだけのエンの量には到底足りなかったのだ。

なので、それを解消するために表示方法を一部変える。

今までは一エンは銀何グラムに相当する価値であると法律によって規定され、腕輪には何エンと表示されていた。

が、これからは小数点以下のエンも表示もできるようになったのだ。

多分、議員の中にもそれがいったいどうしたのかと思う者も多いんじゃないだろうか。

議会での話し合いでも、あんまりピンときていなさそうな顔をしている者も見られた。

が、これはかなり大きな変化だと思う。

というのも、日常での使いやすさがグッとあがり、しかも流動性が上がるからだ。

そもそもの話として銀を単位にしての買い物なんて庶民には額が大きすぎるのだ。

実際に今までだって銀貨を日常的に使うよりは、鉄貨や銅貨などを用いる者のほうが圧倒的に多かった。

金貨や銀貨は一枚でも大金であるという認識だったのだ。

その銀を基本にした貨幣はどうしても普通の人にとっては扱いにくいものに見えていた。

だが、それを表示を変えるだけで千分の一単位で使うことができたらどうだろうか。

言ってみれば、今までのように銅貨のような気軽さで日常品を買うためにエンを使えるようになる。

そうなると、自然と取引が行いやすくなり、エンの流動性は高まるだろうというのが今回の法案の狙いだった。

この魔道具相場の一番の問題は結局のところお金が動かなくなってしまったというところだろう。

どこの誰が借金で身を持ち崩そうと、その分、ほかの人がお金を使っていれば問題なかったのだ。

だが、だれもがお金を大事にするあまり、金貨や銀貨を手放さなくなってしまった。

そして、日常的に使っていた鉄貨の多くは新バルカ街で回収し、市場には戻らなくなってしまっている。

だからこそ、それまでは普通にできていた買い物ができなくなってしまい、その結果、仕事までなくなってしまったのだ。

ならば、この問題を解決するために一番手っ取り早いのは貨幣の流通量を増やすことだ。

硬直した貨幣を動かすために、大量に現金を市場にばらまけば多少は良くなるだろう。

だが、それをできる国は小国家群にはなかった。

主に使用している貨幣を自国ではなくほかの大国の発行している通貨によって取引していたからだ。

急にお金を用立てて、流動性を上げるほどに用意する手立てがなかったのだ。

その点、エンは表示を変えるだけで変化を与えることができた。

別に銀の保有量は増えていないので、総額としてはあまり変わりないのかもしれないが、それでも鉄貨や銅貨の代わりとなるものを大量に用意するのと同じ効果があるだろう。

それも別に新しく硬貨を作る必要もなく、表示を変えるだけでできるのだ。

そのために新しく費用が掛かるというわけでもない。

ほんと便利なものをだなと感心してしまう。

まあ、その分、エンの価値にも気を付けないといけないとかなんとかアイが言っていたけど。

「お金ってのは怖いね。難しすぎるよ。ま、それはそれとしてそろそろ金貨も放出していこうかな? 通貨不足で困っている国に交渉よろしくね、バナージ」

「金貨で銀貨を買い取る、でござるか。また、荒れそうでござるな」

「そうかな? 金貨がほしいって人はいるだろうし、喜んでくれるんじゃないかな?」

エンの表示単位が変わることが決まった後、俺のそばにきたバナージ。

そのバナージに金貨を放出するように頼んだ。

エンをさらに使いやすくするためには表示単位を変えるというだけではなく、やはり総額も増やしたい。

そして、そのためには銀が必要だった。

逆に言うと金は別に必要なかった。

というわけで、俺は大量に売り抜けた魔道具の販売利益で得た多額の金貨を使って銀貨を回収することにした。

世間一般では今も銀貨よりも金貨のほうが価値が高いという認識だし、お金をため込もうとしている人が多いからな。

銀貨と金貨を交換すると言えば応じる人もいるんじゃないだろうか。

その結果、さらに小国家群のなかで鉄貨だけではなく銀貨不足が加速するかもしれないけどまあいいだろう。

さっそく、そのための行動を他国にも顔がきくバナージにお願いしたのだった。