軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お金の価値

バルカ教会の信者になった者や、新バルカ街に住む者には必ず装着をするようにさせている腕輪。

この腕輪はきちんとした意匠が凝らされているが、ただの腕輪ではなく魔道具だ。

魔法陣が刻み込まれていて、特殊な機能がついている。

それはアイの魔法陣とよく似ていた。

アイは精霊石という特殊な魔石を使っていて、魔装兵器などと同じように魔力を込めると魔石から体が生み出される。

硬化レンガの体だが、これは普通の魔石ではできない。

そのため、精霊石ではない普通の魔石を用いた腕輪に刻み込まれている魔法陣に魔力を注いでもアイが現れるということはない。

が、カイザーヴァルキリーの中にいるというアイという存在と常に接続した状態ではある。

なので、腕輪を装着している限り、その人物の魔力を自動的に取り込んで、常時アイとつながっている状態なのだそうだ。

これにより、アイは腕輪を装着している個人を魔力の質による微妙な違いを把握し、その人物の位置も特定できてしまうのだ。

これがあるからこそ、アイならば防壁戦術なども完璧に使いこなすことができる。

兵にも腕輪をつけているので、自軍の兵の位置や損耗率が把握できてるのだから。

そして、そんな情報に新たに追加しようというのが所有するお金の残高だそうだ。

個人が持っているお金をアイが完全に把握し、そして各人で行う商取引に関してもそのやり取りをアイが引き受けるということなのだろう。

多分、腕輪を利用することでその場でお金がなくても取引が終了するような形になるんだろう。

これは便利だ。

俺もアルス兄さんに追放される前に天空王国に戻ったときには腕輪をもらって、そういうやり方があると聞いた。

といっても、自分で買い物とかはあまりする必要がなかったのだけど、試しに使ってみたことがあったのを思い出した。

硬貨ってのは結構重たいからな。

いちいち自分で銀貨や金貨を払うようなのは面倒なのだ。

それをしなくてもいいというのは助かると思う。

「けど、受け入れられるかな? あれは天空王国だからこそ通用するやり方なような気もするけど……」

便利だとは思う。

が、それが東方でもできるかどうかというと微妙じゃないだろうか?

天空王国というのは鎖国しているからだ。

空の上という他にはないくらいの特殊な環境で夜逃げするようなこともできず、たくさんある吸氷石の像であたたかな気候に保たれていて、アトモスフィアのおかげで食料にも困らない。

ぶっちゃけて言うと、あそこに住んでいて生活に困るってことはないんじゃないだろうか?

仕事はもちろんあるだろうけど、限界まで働く必要なんてない。

少なくとも、小国家群のように生きるために命を削って働くなんていうようなことは少ないはずだ。

ようするに余裕がある。

そして、その余裕は誰のおかげかというと天空王であるアルス兄さんのおかげだ。

アルス兄さんがいるおかげで安定した生活が送れているからこそ、そのアルス兄さんが始めた硬貨を使わない取引をバルカニアの住人は受け入れている。

なにか問題があっても、きちんと対応してくれるはずだと信頼しているともいえるだろう。

だけど、オリエント国はそうではない。

今だって、独自の通貨というのはなくていろんな国のお金を使っているんだ。

それも大国の通貨が商人たちに気に入られているのは、やっぱり信用があるからに他ならない。

そこに金も銀も使っていない、腕輪だけで管理された数字を見せられても納得しないんじゃないかと思うけど。

「金貨や銀貨の価値が安定している、というのは思い込みです。実際にはどのような貴金属を用いていたとしても貨幣というのは虚像でしかありません。なにを媒介に取引しようとも、一緒です」

「うーん。アイが言うならそうなのかもしれないけど、やっぱりそれは感覚的に受け入れられないんじゃないのかな? 目の前に金貨や銀貨が積み上げられたほうがありがたみがあるって感じる人は多いと思うよ」

「その気持ち自体を否定する気はありません。ですが、貨幣の価値は変動します。そのことは、アルフォンス様も承知していることと思いますが」

「……暴落が起きる、って予想のことをアイは言いたいんだよね? ま、確かにそれがあるんだよなー。魔道具一つに金貨数千枚以上の値がついているって異常な状態になっているんだもんね」

実体のないお金は安心できない。

そう考える人は多いと思う。

多分、俺も天空王国の実例がなかったらそう思ったと思うしね。

アイもそう考える人の気持ちそのものは否定する気はないみたいだ。

だけど、それならば逆に実体のあるお金であれば安心なのかといえば、必ずしもそうじゃない。

アイが俺に対してそう言ってきた。

そして、それは多分あっている。

魔道具の暴騰という異常な相場があるからだ。

極端に値上がりしてしまっている魔道具相場だけど、きっとそのうち崩れることになる。

金貨数千枚、あるいはもっと高い値段で取引されている魔道具がある日突然無価値になる日が来るかもしれない。

そのことは、クリスティナや他の者たちとも何度も話し合ってきた。

ただ、その中に、お金そのものの価値についての内容はなかった。

金貨はいつでも価値がある、と無意識に思い込んでいたからだろう。

が、アイにしてみれば魔道具も金貨も変わらないものなのだ。

魔道具相場が暴落すれば、お金として使われている貨幣そのものの価値が損なわれる可能性がある。

あるいは逆に硬貨を手に入れようと多くの人が必死になるあまりに、硬貨そのものの価値が上がりすぎて手に入らないようになるかもしれない。

つまり、金や銀を使っていても安全性なんてものは実際にはないということなんだろう。

だから、金や銀を使わない目にも見えないお金でも一緒だ、というところがアイらしい考え方だな。

まあ、確かに情報としてだけみれば数字だけの世界だろうしな。

よくわからん。

が、魔道具相場の暴落、および、それに付随した貨幣価値の暴落を利用して腕輪の新機能を使っていこうというのは面白いと思う。

多分、そんな新しい試みをするのは、そういう大きな変動がないと難しいだろうし。

ならば、やってみよう。

アイの話を聞いて、今が絶好の機会なのだと認識した俺は、ひとまず腕輪の改良と活用法をまとめるようにアイに指示を出したのだった。