軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

拡散遅延

対ぺリア国戦に備えて準備を整えるオリエント軍。

本来ならば、このパージ街でしばらく逗留するつもりだったが早めに動くことにした。

パージ街で獣化の魔法を使える者が広がっている以上、よその国でもそれが使えるようになっている可能性があるからだ。

実際、どうなんだろうか。

ぶっちゃけて言うとよくわからない。

もともとフォンターナ連合王国にいた俺の感覚とこのあたりに住んでいる者の感覚が違うからだ。

俺なんかは他者から名付けを受けるのは特別な行為だと思っている。

基本的には聖光教会で一定年齢に達した時に行われる洗礼式以外では、王や貴族、あるいは騎士など自分の主になる者から特別に名をつけられる行為だからだ。

ただ、そんな俺の常識はこの東方では通用しない。

というのも、割と気軽に【命名】を使うことがあるらしいからだ。

本来であれば、一度名付けを受ければ魔法を使えるので十分なのだけれど、別に何度名付けをされても目に見える大きな問題はないからだろうか。

何人もから名付けを受けたり、あるいはお互いに名付けをしあったり、なんてことがみられるらしい。

一応、オリエント国や新バルカ街ではそうなりにくいように注意はしている。

というか、新バルカ街にあるバルカ教会では結婚式をあげるときに継承の儀も行うので、そのときに名付けによる魔力の流れもある程度説明するからだ。

今のところ、新バルカ街の住人以外で継承の儀を受けることができる者というのは限られているしな。

オリエント国内でもなんらかの有数の力を持つ者たちなので、そういった連中にはよそに魔力を持っていかれるからこれ以上名付けを受けないようにと言う必要もあったからだ。

だが、そのほかの土地ではそんな事情は一切ない。

名付けを行わなければ魔法を得られない。

そして、名付けをした者が死んだ場合は名付けられた者は魔法を使えなくなるということだけが広く知られているようだった。

まあ、これは戦場などに出れば割と簡単にわかることだしな。

戦いの最中に誰かが命を落とし、そいつが名付けていた連中が一気に魔法を使えなくなったら大幅に戦力が落ちることにもなる。

それを防ぐためにも複数人でそれぞれに名付けしあうという方法が出来上がっていったのだろう。

結局のところ、なにが言いたいのかというとここらの地域で魔力の流れを追跡するのは不可能だということだ。

名付けした、された者たちの関係性が複雑に絡み合いすぎている。

オリエント軍のように縦割りで単純化されているなら、パージ街以外に繋がる魔力の流れを断ち切ることもできただろうけれど、それは無理だ。

ぺリア国でも【にゃんにゃん】と【うさ耳ピョンピョン】を使える者は存在しているだろう。

ただ、そのほかの国はどうなんだろうか。

東方では名付けによる魔力の流れは間違いなく複雑化しているのだけれど、それが他の地域とどの程度連動しているのかも今一つわからない。

意外とその地域に住む住人というのはその土地から離れないことも多いからだ。

ぺリア国で名付けを受けてから、よその土地に行き、さらにそこで名付けをしている者の数というのはあんまり多くないのではないだろうか。

「クリスティナ、聞こえるか?」

『……あ、どうしたの、アルフォンスくん? 今は軍事行動中なんでしょう? 魔導通信器で連絡してきたってことは、なにか不測の事態でもあったのかしら? 食料が足りないとか?』

「いや、違うよ。ちょっと気になることがあってね。質問なんだけど、ぺリア国に住む人がほかの地域に移動してよその土地の人に名付けをすることってあるかな?」

『んん? いきなり変な質問ね。……そうね。基本的には少ないんじゃないかしら。ないとは言わないけれど、数は少ないと思うわ。ただ、例外もいると思う』

「例外?」

『ええ。私もそうだったけど、商人は例外に当たると思うの。あちこちの都市で商品を取引しながら移動する商人という職業を持った人なら、別の地域で名付けをすることもあるんじゃないかしら? 知り合いもいるだろうしね』

「なるほど。商人か……」

『それがどうかしたのかしら? もしかして、商人たちにあんまり勝手に【命名】を使われたくなかった?』

「そうだね。今更遅いかもしれないけど、それができれば魔法の拡散をある程度防げて助かるかも」

『わかったわ。それなら私が何とかしてみるわよ』

「そんなことできるの? クリスティナも商人だけど、小国家群でそんなに顔が広かったっけ?」

『前までなら無理だったかもしれないわね。けど、今は状況が違うわよ、アルフォンスくん。なんていったって、今のオリエント国は小国家群の全部の国からもっとも注目を集めているんだから。魔道具相場を気にしない商人なんて商人といえないわよ』

「なるほど。そういや、魔道具相場があったか。じゃ、頼むよ、クリスティナ。なるべく、魔道具につられて集まってきている商人たちに顔をつないで、可能な限り自分の地元以外で名付けをするのは控えるようにお願いしてみてくれないか。できればでいいけど、バルカ教会で誓いをさせてくれればうれしい」

『あはは。それじゃあ、ほとんど強制みたいになっちゃうわね。でも、分かったわ。やってみるわ、アルフォンスくん』

「ありがとう。頼んだ」

【にゃんにゃん】や【うさ耳ピョンピョン】といった魔法がここら以外にも広がりきる前に少しでも食い止められればそれでいいか。

どの程度効果があるかは分からないけれど、クリスティナの言うとおり、あちこちの地域に顔を出すのは商人が多いだろう。

商人を通しての名付けが制限できれば、急速に新魔法が広がることを防げる、少なくとも遅らせられるかもしれない。

その間に、できればこれらの魔法を使える者がいる地域を制圧してしまおう。

一応の対策はクリスティナに頼み込んでおき、その間にも着々と戦闘準備が進んでいった。

そして、すぐにぺリア国に向けて再度軍を動かしていったのだった。