軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アルフォンスの失敗

「しまったな。これはちょっと失敗したかもしれない」

オリエント軍が到着したパージ街。

もともと、このパージ街はぺリア国に属する街の一つだった。

それが以前バルカ傭兵団との戦いにおいて敗北し、ぺリア国から脱することとなった。

そのため、今回のぺリア国の動きにはパージ街に対しての軍事行動も含まれているため、ここが前線基地として使われる予定になっていたのだ。

そんなパージ街では獣耳を持った連中がたくさんいる。

あちらこちらで、猫耳やウサギ耳を頭に生やした者たちが歩いている光景が広がっていた。

それを見て、はじめて俺は自分の失敗に気が付いた。

あまりにも間抜けだ。

自分自身でしたことの意味を理解していなかったといってもいい。

パージ街に獣化した連中がいるのは、間違いなく俺が原因だ。

それは、この街における傀儡政権が関係していた。

もともと、このパージ街という街にはパージ家という家が存在していた。

【黒死蝶】を使っていたグイードという老人や、その孫でパージ家当主として俺とも戦ったグレアムなどがそうだ。

パージ家が主となって街を運営していたところに、バルカ傭兵団が勝利し、そして、この街には傀儡政権が出来上がった。

もともと、パージ家で実務を行っていた連中の中からバルカ傭兵団に従う意思を示した者だけを起用して作った組織がそうだ。

だが、その組織が戦いに敗北したパージ街をまとめていくには力が必要だった。

そのために使ったのが名付けだ。

傀儡政権組織の人員が街の住人にたいして名付けを行う。

そうすることで、全住民からの魔力を一部の人間に集めることができ、その魔力量の差をうまく使って統治を行わせるというものだった。

この方法はある程度うまくいっていたらしい。

残された住人で不満が一切ないという者は少ないだろうけれど、それでも今まで統治をしていた者が残り、そいつらが力を持った状態でごく普通に街を運営したのだから。

別に、その際にバルカ傭兵団が無理やり税を奪い取っていくわけでもなく、傀儡政権とは言いつつも自治ができていたからだ。

それに、ぺリア国から独立したことで、そちらへの税を納める必要もなくなり、むしろ財政的には以前までよりもいい状態になった。

なので、時間が経つほどに今のパージ街の状態を住人たちは受け入れていったのだ。

ただ、バルカ傭兵団は税を奪い取っていきはしなかったが、かわりに別のものをパージ街からもらっている。

それは魔力だ。

傀儡政権である組織の人間は【命名】という呪文を使って街全体から魔力を集めている。

しかし、その大元である組織の人間にたいして誰が名付けをしたのかというと、バルカ傭兵団だ。

つまり、パージ街の住人から集められた魔力は傀儡組織の人間を通してバルカ傭兵団にも送られてきているというわけだ。

そして、その中には当然パージ街での戦いにも参加していたキクとゼンもいた。

この二人は当時から隊を指揮していたので、魔力量を増やすためにも傀儡組織の人間にしっかりと名付けさせている。

つまり、二人はパージ街と繋がっていたのだ。

そして、そんなキクとゼンに俺は獣化のできる新魔法を身に着けさせた。

その結果、【にゃんにゃん】も【うさ耳ピョンピョン】もパージ街の住人たちが使えることとなってしまったのだ。

「驚きました。本当になんの前触れもなく、突然新しい魔法が使えるようになったんです。急に魔法を手に入れるとこういうこともあるのですね」

驚いている俺たちのもとにやってきてあいさつしながらそんなことを言うパージ街の運営者。

どうやら、新しい魔法を手に入れたことを普通に受け入れているようだ。

まあ、こいつらにしたら魔法を使えるようになる機序もよく知らないだろうからな。

なんだかよくわからないけれど、他者から【命名】されれば魔法が使えるようになる、ということを知っているだけなのだ。

それがある日突然使える魔法が増えたところで、そういうものかと思ってもおかしくはない。

「……【にゃんにゃん】と【うさ耳ピョンピョン】を住人たちが使えるようになったことで、街の運営でなにか問題はないか?」

「そうですね。細々としたことで言えばあるでしょう。ただ、罪を犯せば裁判で真実の証言が分かります。隣近所の会話を兎の耳で盗み聞きしたとかは別として、大きな犯罪は今までどおり取り締まることができているので大丈夫ではないかと」

本当に新しい魔法が攻撃魔法とかでなくてよかったかもな。

もしそうなら、パージ街が大変なことになっていたかもしれないし。

ただ、獣化するだけであれば今のところ大きくは問題になってはいないみたいだ。

これから出てくる可能性はもちろんあるが、それは統治する者に任せるしかないだろう。

「それよりも、ゼンとキク。すぐに動くぞ。オリエント軍を動かせる準備をしておいてくれ」

「あれ? パージ街についたら一度兵を休ませるんじゃなかったんですか、アルフォンス様?」

「そのつもりだったけど、ちょっと予定を変えよう。もしかしたら、ぺリア国でも獣化の魔法を使える者が出現しているかもしれない。相手がそれにあわせて軍の形を変えないうちに、なるべく急いで叩こう」

「なるほど。相手の軍が強化される可能性もあるということですか。分かりました。すぐに準備を整えさせます」

聖光教会が名付けを完全に独占していた西と、アルス兄さんが【命名】を作って広めた東方では全く違う。

そのことが今更になって理解できた。

新しい魔法を手に入れられれば強くなれる。

そう思っていたけれど、案外そうじゃないかもしれない。

手に入れた魔法の持ち主の名付け先次第では、かなり広く、遠くまでその魔法が拡散してしまうかもしれないからだ。

こうなったら、【にゃんにゃん】と【うさ耳ピョンピョン】はすでに他国でも使えるようになったと思っておいたほうがいいだろう。

だが、それを軍として活用できるかどうかは別問題だ。

今ならば先手が取れるかもしれない。

ぺリア国が二つの獣化の魔法を組織として使いこなす前に戦いを挑むことにしたのだった。