軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コミカライズ開始&書籍2巻発売記念/冥府の元王女-④

とはいえ、ガイルの家がわからない。

彼はたいていアクアマリンより先に出勤して遅く帰るので、どの方向に住んでいるのかすら知らなかった。

(前途は多難ね)

ネリッサが出ていった扉を見つめながら顎に手を当てるアクアマリンだったが、別に彼女を頼らなくても方法はある。

城の清掃仕事を通してどこで誰が働いているのか把握しているので、ほかのガーゴイルに聞けばいい。

薄暗い廊下をどんどん進み、宝物庫の付近まで来ると、屈強な警備兵が並んでいる。何度か挨拶を交わしたことがあるガーゴイル兵に訊ねた。

「ごきげんよう。ガイルの家を知っていたら教えてくださらない?」

「人間殿。ガイル様は今……」

若いガーゴイルは言いにくそうに口ごもる。

「牢にいるのは知っているわ。彼を助けるために無実の証拠を集めているの。魔王には許可をもらっているわ」

「――! そういうことでいらっしゃいましたか!」

ぱっと顔を明るくするガーゴイル兵。

ゴホンと咳払いをした隣の兵士に軽く頭を下げると声をひそめる。

「ガイル様は寮の軒下にお住まいです。この時間なら奥様がいらっしゃるはずだよ」

「魔王の側近なのに、そんなところに住んでいるの?」

「われわれガーゴイル族は屋根や軒下が好きなんです。習性ってやつですね。ちなみに僕はドラゴンの小屋の屋根裏に住んでます」

「そんな場所でよく寝られるわね」

「人間が寝るような、低くて柔らかすぎるベッドでは落ち着きませんよ」

ガーゴイル兵が苦笑する。アクアマリンは改めてここにはいろいろな種族が住んでいるということを感じ、不思議な気持ちになった。

「行ってみるわ。仕事中に悪かったわね」

「ガーゴイル族を代表して感謝します。ガイル様の部下のあなたはわれわれの仲間も同然。手伝えることがあったら教えてください」

「……ありがとう」

ガーゴイル兵の言葉に胸の奥があたたかくなる。

仲間だなんて言葉、初めて掛けられた。

(……ガイルがわたくしを守ってくれたおかげだわ。絶対に無実を証明してあげないと)

寮の下に到着すると、首が痛くなるくらい高い所に巣のようなものが見えた。

高い。高すぎる。いったいどうやって入ったらいいのか。

「もうっ。なんであんな場所に住んでいるのよ。少しは客人のことを考えなさいよっ」

最上階の部屋から身体を乗り出しても届かなさそうだ。そこに誰が住んでいるのか知らないが多分偉い魔物のはずだ。そんな魔物が自分を部屋に入れてくれるとも思えない。

「どうしましょう? 奥様が在宅しているという話だけれど……」

寮はとんがった塔の形状で巣は何十メートルも上。当然、石を投げても届かない。

途方に暮れてあたりを見回すと、夜勤明けかなにかで寮に戻ってきたトロールが目に入った。

(――確かこの魔物、怪力で有名じゃなかったかしら。森で土木工事をしているのを見かけたことがあるわ。木を引っこ抜いたり、大きな岩をどかしたりしていた)

これだ! と閃いたアクアマリンはトロールに駆け寄って丸太のような腕を掴む。

「ごめんあそばせ!」

「ウガ?」

アクアマリンの身体が淡く光り、体内に土色の力が流れ込む。気力がみなぎり、自分の身体が大きくなったかのような錯覚を覚える。

(……模倣できたわ!)

模倣の難易度は相手の能力の特異性によって決まる。

姉の力は自分のものにするのに時間がかかったが、ただのトロールであれば一瞬だ。

「ウガウガッ!!」

「あ、ごめんなさい。少しふらついてしまって」

「……ウガッ」

トロールは変な顔をして去っていく。

足元に落ちている石を手に取ると、アクアマリンは力いっぱい軒下の巣に向かってぶん投げた。

石は直線を描いて命中し、中から一匹のガーゴイルが顔を出してきょろきょろと顔を動かした。

「やったわ! ちょっとあなたーっ! 下よ下! ガイルのことで聞きたいことがあるの!」

「――!」

ガイルの名前を出すと、そのガーゴイルはすぐに羽ばたいて地上に降りてきた。

憔悴した様子でアクアマリンに縋る。

「主人があんなことをするはずがないの! あなた人間でしょう。主人から聞いてるわ。魔王陛下に無実だと説明してくれない!? なにか薬でも盛られたに違いないわ!」

「魔王も無実だと思っているわ。ガイルにはよくしてもらったから、わたくしが調査をしているの。話を詳しく聞かせてくれないかしら」

「もちろん。家に上がってちょうだい」

「え、家って……」

言葉が終わらないうちにガイルの妻はアクアマリンをくわえて背中に乗せた。

「――ちょっと! 高いったら! もっとゆっくり上がって!」

叫び声が薄暗い空に響き渡り、急上昇に合わせて内蔵がひゅっと浮き上がる。

これだから魔物は嫌なのよ――! アクアマリンは必死に背中にしがみつきながら、やっぱり冥府は散々な場所だわと再確認するのだった。