軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3話 王の側近

「私はお前たちの報告をいつも楽しみにしていてなぁ。結婚を仲立ちした者としてはやはり、幸せにやっていてほしいと願っている。……うむ、幸せそうでなによりだ」

「この出会いに何より感謝しています。彼女は……俺の、番です」

「ふむ。アルノシュトは番を亡くしたと聞いておったが……」

「実は文化の違いによる勘違いがあり……その相手が彼女でした」

アルノシュトが語る私との馴れ初めを国王は微笑みながら聞いている。しっかりと口角が上がっているので、笑っているのは間違いない。

獣人ははっきりとした笑顔を浮かべられる者が少ないというけれど、猫族のように元から口角の上がっている顔ではないのに笑って見えるということは、彼はその数少ない笑顔を浮かべられる獣人なのだろう。

(国王様は本当におおらかで優しい方で、私たちの結婚を祝福しているのね。……側近の方の視線は痛いけれど……)

謁見の間、国王はずっと優しい顔をして語り掛けてくれた。私がマグノに送っている報告書の複製にも目を通していて、暮らしぶりは知っているが本当に困っていることはないのかなど気にかけてくれている。

一方、無言のまま目で圧力をかけてくる側近の男性の方はまともに見られなかった。それでもずっと睨まれていることだけはたしかだが。

「フェリシアよ、お前は刺繍が上手いと聞く。よければ私にもひとつ、何か贈ってはくれないか?」

「ええ、かしこまりました。……ストールはいかがでしょうか?」

「うむ、楽しみにしておるからな」

ハンカチはアルノシュトにのみ贈るという約束なので別のものを提案した。王の反応からしておかしな贈り物ではないだろう。……側近の彼は歯ぎしりでも聞こえてきそうな形相だが。

その後も特に問題なく謁見を終え、私とアルノシュトは退室した。王へと贈るものを作らなければならなくなったので、気合いをいれる。しっかりしたものを作らなければならない。

「アズラントは相変わらず頭が固いな……ずっと睨まれて、怖くなかったか?」

「大丈夫ですよ、アルノーさまが傍にいてくれましたから」

誰かに嫌われ、疎まれることはたしかに怖い。敵意の視線は心が痛む。けれど私には心強い味方がいるのだ。アルノシュトやミランナ、シンシャやゴルドークにウラナンジュ。仲良くなれたこの国の人々の顔を思い出せば力が湧いてくる。

そしてアルノシュトは夫として、同じ役目を担う仕事仲間として、共に歩んでいける大事な人だ。二人でいれば何も怖くない、と思う。

「うむ、そうか。……謁見も終えたし、宿に戻ってゆっくり休むか。それとも王の献上品に使うものを選びに行くか?」

「ああ、それなら是非買い物に行きたいです」

「うむ。なら街に出よう。……疲れたらすぐ言うんだぞ?」

「ふふ、はい」

勢いよく振られる尻尾から送られてくる風に小さく笑う。さすがに王の屋敷で手をつなぐようなことはできないが、背中にふわりと彼の大きな尻尾を感じるくらいには仲良く並んで廊下を歩いた。

馬車は先に宿へと向かってもらい、私たちは目立たぬよう裏口から街へと出るつもりだった。その裏口に、見覚えのない獣人が待ち構えており、こちらに気づくと軽く手を挙げて挨拶をしてくる。

「やあ、久しぶりだねアルノシュト。初めまして、花嫁さん」

柔らかい口調で話しかけてきた人物は、他の獣人とはずいぶん印象が違う。肌の色がはっきりと白と黒に分かれていて、一目でそれが何の動物なのかが分かった。

(シャチ……よね。尻尾、というか尾びれもあるし……)

物腰は柔らかいが、話すと口の中には鋭い牙が並んでいる。今まであった獣人の中でも祖となる動物の要素が強く出ているように感じた。

「僕はウィルドルン。ウィルドルンと呼んでくれるかな」

「私はフェリシアです。フェリシアと呼んでください。……よろしくお願いします」

「ん、それはたしかマグノの挨拶だったかな。よろしくね」

ウィルドルンと名乗った彼は私が差し出した手に迷いなく自分の手を重ねて握手を交わしてくれた。獣人たちには馴染みのない挨拶なので毎度こういう文化だと伝えてきたのだけれど、彼はすでに知っていたらしい。

たしかアルノシュトは王の側近に鯱の獣人もいると言っていた。それがこのウィルドルンなのかもしれない。

「可愛い奥さんでいいね、アルノシュト」

「ああ。リシィは誰よりもかわいい」

「わあ……君がそれだけ惚気るのか、面白いな。……すごく仲も良いみたいだし」

その台詞で私はミランナに言われたことを思い出した。私とアルノシュトは同じにおいがする、というあの言葉だ。

獣人には初対面の相手にも一瞬で夫婦仲が良いことが伝わってしまう。彼にもそれが分かった、ということだろう。なんだか恥ずかしくなって顔に熱が集まってきた。

「んー……? アルノシュト、大事な奥さんをあまり無理させてはいけないよ」

「うむ。分かっている」

「奥さんが疲れるとお腹の子にも障るよ。じゃあ、長話は負担になるだろうから僕はこの辺で。二人ともまたね」

私は、ウィルドルンの言葉を理解するのに時間がかかって彼の挨拶に応えられぬまま見送ってしまった。それはアルノシュトも同じようで、彼もまた無言である。

(今……お腹の子って……言わなかった?)

混乱しつつアルノシュトを見上げると彼もまた私を見ていた。混乱している私は何も言えないでいたのだが、次第に背後からぶんぶんと振られる尻尾の音が聞こえてきて我に返る。

「あの、アルノーさま……先ほどの、ウィルドルンの言葉は、どういう」

「海獣系の種族には特殊な目を持つ者が生まれることが多くてな。ウィルドルンもその一人だ。その目で見て……子供が宿っていると分かったのだと、思う」

本来の海獣には超音波器官が備わっており、肉眼に見えないものを知覚することができる。鯱の獣人であるウィルドルンにも同じ能力があるということだろうか。

私は自分のおなかにそっと手を置いた。魔法使いと獣人で子供ができるかどうかなんてわからなかったけれど、本当にアルノシュトとの間に子供ができたとするなら――それは、本当に嬉しいことだ。

「俺は言葉が下手で、上手く言えないんだが……今、とても幸せだと思っている」

「ふふ、はい。伝わりますよ。……私も同じ気持ちです」

はっきりと笑みを浮かべられないアルノシュトの感情は、全力で振られているその尻尾に表れているし、弾むような声や、私を見つめるワインレッドの瞳の熱からも伝わってくる。

まだあまり実感はないのだが、本当だったら嬉しい。素直にそう思えた。

「リシィ、無理をしてはいけない。今日は宿に戻ろう。そして医者にも見てもらおう」

「はい、わかりまし、たっ!?」

突然アルノシュトに抱え上げられ、驚きながら間近にある顔を見上げた。表情はいつも通りなのに、やはり興奮気味なのだろう。尻尾も耳もせわしなく動いている。

「あ、あの、アルノーさま。自分で歩けます」

「いや、リシィはゆっくり休むべきだ。謁見なんて慣れないことをして、自覚はなくても疲れているはずだからな」

「けれど……その、目立ちませんか?」

「夫が妻を抱き上げて歩くのはよくある。誰も気にしない」

そう言って彼は歩き出した。獣人たちの文化では当たり前らしい。……マグノではまずお目にかからない行動である。

(……でも恥ずかしいわ……)

せめて人前に出る前に隠そうと、彼の首に腕を回し肩口に顔を埋めた。

アルノシュトがかなり気を付けてくれているのか、しっかりと抱かれているおかげか、感じる揺れが優しくて眠気を誘う。最近やたら眠かったのも妊娠の症状だったのかもしれない。

次に気が付いた時には宿だった。……抱き上げられて運ばれている間の記憶がないのは幸いなのか、どうなのか。周囲の反応を知りたいような、知りたくないような。

宿の部屋に医者がやってくるまで、私は熱を持つ頬を冷ますのに必死だった。