軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28.魔獣

馬を駆けさせ騎士団とともに北の砦に着いた頃には、日はすっかり落ちていた。

すぐに戦闘に参加すべく戦場に出たが、まだ戦闘中ではあるものの魔獣はそう多くなかった。

この程度なら砦にいる騎士だけで対応するのが普通だが、なぜ呼ばれたのか。

そう思っているところに、砦の現在の責任者が駆け寄って来た。

「わざわざお越しいただき申し訳ありません」

「それはいい。どうした」

「何かがおかしいのです。ワイバーンが現れたのかもしれません」

「それはかなり厄介だが、かもしれないというのはどういうことだ」

「かなり上空にいるのか、姿が見えないのです。時折空から岩が落ちてくるのですが……」

そう言っている間にも、戦っている騎士たちの頭上に岩が落ちてきた。騎士がギリギリで避ける。

たしかに、上空にかろうじて捉えられるほどの魔獣の気配がある。かなり高い位置にいるな。

魔力がある俺は、魔力を大量に帯びた生物である魔獣の気配を多少感知できるが、それはさほど精度のいいものではない。

魔獣がいる方向と距離があいまいにわかる程度だ。

自分から遠いほど感じられる気配も薄くなる。

防壁の上の弓兵が岩が落ちてきた上空に向かって矢を射るが、手応えはなさそうだ。

「かがり火をもっと焚け! 地上の魔獣を短時間で倒し、弓での集中攻撃に切り替える! 弓兵は準備を!」

俺は声を張り上げると、愛馬を駆って魔獣の群れに突っ込んでいった。

漆黒の毛並みが美しい、ほかの軍馬よりもかなり大きい俺の愛馬は、魔獣をまったく恐れない。それどころか小さな魔獣なら踏みつぶしてしまうほどだ。

馬を乗り回しながら騎士たちとともに槍で魔獣を屠っていく。今回はワイバーン以外はそう強い魔獣はいないようだ。

ほぼ片付いた……そう思ったところで、ぶわりと突風が起きた。魔獣の気配が濃くなる。

少し離れた場所にいた兵士が突然空中に浮く。浮いた兵士の叫び声と魔獣の気配が上方に消えていく。

騎士や兵士たちの間で、どよめきが起こった。

ワイバーンに連れ去られた!?

兵士は叫び声をあげながら落下してきて、防壁の上にどさりと落ちた。

魔獣の気配が再度濃くなる。かすかに羽ばたきの音も聞こえる。

かがり火が明々と周囲を照らす中、もう目視できてもおかしくない距離にいるはずなのに、その姿はまったく見えない。

全身に鳥肌が立つ。

――まさか。

「インビジブル……」

インビジブル。ワイバーンの変異種。

強さや大きさはワイバーンと同じで特別強くはないと言われているが、何よりも厄介なのはその姿が見えないこと。そしてワイバーンよりも格段に知能が上であること。

五十年ほど前にも現れ、大きな被害を出した。

「インビジブルだ!」

俺の声に、驚愕の声があちこちからあがる。

「騎兵歩兵は防壁まで下がれ! 弓兵、インビジブルは防壁の北側上空をウロついている。そこに向かって集中射撃! 住民避難指示の鐘を鳴らし、城に向け光の信号で“インビジブル”と知らせろ! “雨”の準備も急げ!」

俺の号令に皆が一斉に動いた。

俺たちが防壁まで下がったところで、矢の雨が絶え間なく漆黒の空に降り注ぐ。

その間に、住民たちに避難指示を知らせる鐘が鳴り響く。

兵の一人が松明を持って望楼に駆け上り、光を発する魔道具で信号を送り続ける。

俺を含め皆が防壁の上に上がった。

くそっ……対応が遅れた!

“雨”の発動にはかなり時間がかかる。もっと早く気づいていれば……!

見えない相手に一斉射撃は効率が悪く効果も薄いが、発動まで足止めできればそれでいい。なんとしてでもここで食い止めなければ。

インビジブルは空を飛べる。城や街に行かせるわけにはいかない!

手応えも感じないまま矢を射ち続ける。まだやつはここにいるか? 気配は……!?

「……真上だ!」

気配が急速に近づいてくる。

「伏せろ!」

皆が伏せたところで、またぶわりと風が吹く。

少し離れた場所にいた数人が防壁の上から落ちた。

やつはどこだ。動いているほど気配を感じられる。俺しか感知はできない、どこだ。

インビジブルは……

「南側上空四十五度、一斉射撃!」

俺の号令で矢の雨が降る。

だが当たった様子もなく、気配はどんどん遠ざかっていく……城や街がある、南側へと。

「まずい……やつは南へ向かった。城に向かって知らせろ! 俺とともに来た騎士は城に戻れ! 城に戻る一団はウェインが率いろ、俺は先に行く!」

「はっ!」

つないであった愛馬にまたがり、城に向かって駆けさせる。

城にはカインを残してある。だが、いくらカインが弓の名手でも、見えない魔獣相手に戦えない。

魔力があるのは俺だけだ。城の“雨”も発動までまだまだ時間がかかる。急がなくては……!

インビジブルの気配はまっすぐ南に向かっていて、ほとんど捉えられないほど離れてしまった。スピードはワイバーン以上だ。かなり速い。

――魔眼。

魔眼なら。

五十年前にインビジブルを倒せたのは、当時辺境伯だった曽祖父の活躍によるところが大きい。そろそろ息子に爵位を譲る年齢だったにもかかわらず、その弓の腕は神のごとしと言われていた。そして何より、彼は魔眼持ちだった。

……フローラにも魔眼がある。だが彼女を魔獣の前に出すなど論外だ。

最低でも、俺が傍にいてなおかつ彼女の守りを万全にした状態でなければ協力をあおぐことなどできない。

彼女は騎士じゃない。いくら狩りが得意でも、インビジブルが見えても、魔獣には対応できない。

ひとまず俺が城に戻って城の騎士たちと合流しなければ。そしてなんとしてでもそこでくい止める。

城で止められなければ街へ行ってしまう。皆避難はしているが、そこで暴れられれば被害は出るはずだ。何より、そこすら通り過ぎてさらに南に行かれては大惨事になる。

だが城で食い止めるということはフローラがいる城で戦闘になるということだ。そんなことを言っている場合ではないとわかっているのに、彼女のことが心配でたまらなくなる。

いや、大丈夫だ。

彼女は戦闘に出るわけじゃない。

城は頑丈なつくりだ、先ほどの様子からするにインビジブルは城を破壊しつくせるほどの強さじゃない。地下にでも避難していれば問題ない。

大丈夫、大丈夫だ。この胸騒ぎも気のせいだ。

自分にそう言い聞かせながら、魔獣の血を半分引く愛馬を必死に駆けさせた。