軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第74話 豪胆!パパは白馬の王子様?

南部の男たちが野営地で賑やかに夕食を囲む頃、フェルメール家の屋敷では、もう一つの再会が静かに行われていた。

「旦那様、奥様。改めて、妻のアメリアと娘のマリーです」

新居の荷解きを終えたロバートが家族を伴って現れると、エレナは穏やかな笑みを浮かべてアメリアを迎え入れた。

「まあ、アメリアさん。本当にお久しぶりね。……私たちの結婚式の時にお会いして以来かしら? 遠いところ、よく無事で来てくれたわね」

「奥様、お久しぶりです。あの日、アルベルト様と並ばれた奥様の美しさは、今でもはっきりと覚えています。またこうしてお会いできて、本当に嬉しいです」

アメリアは緊張しつつも、エレナの気取らない歓迎にようやく安堵の吐息をもらした。

その背後では、五歳のマリーが母親のスカートの裾をぎゅっと握り、怯えたような瞳で屋敷の中を伺っている。

一方、アルベルトは小さく固まっている少女に視線を落とした。

「マリーちゃん。君が赤ん坊の頃に一度か二度会ったきりだが……。いやはや、立派なお嬢さんになったな。ロバートから君の話はよく聞いていたよ」

「…………マリーです。よろしく、おねがいします……」

引っ込み思案なマリーは、消え入りそうな小さな声で挨拶し、またすぐに母親の陰に隠れてしまった。

すると、エレナが傍らで様子を伺っていた息子へ優しく声をかけた。

「カイト。あなたも、ロバートさんたちにご挨拶しなさい?」

「……はーい!」

カイトは元気よく返事をすると、近くでヨチヨチと歩いていた一歳のミレーヌに歩み寄った。そして、その小さな手をそっと握ってエスコートするように、ロバート一家の前へとトテトテと進み出たのだ。

「ロバートおじちゃん、アメリアおばちゃん、はじめまして! カイトです。マリーちゃんも、よろしくね!」

(……ふぉふぉふぉ。ロバートの家族もこれで泥靴村の住人じゃ。工兵隊が本格的に形になるわい。王都から辺境への転勤、環境の変化は大きいが、家庭が安定して、皆が上手く馴染んでくれれば良いがの)

カイトが「お兄ちゃん」らしくミレーヌを連れて微笑む。

すると、マリーは自分より小さな子が一生懸命歩いている姿に少しだけ緊張が解けたのか、母親の影から少しだけ顔を出した。

「……マリーです。よろしくね……」

消え入りそうな声ではあったが、マリーはカイトとミレーヌを見て小さく手を振った。

その微笑ましい光景を見て、アメリアがふと、可笑しそうに口元を綻ばせた。

「主人が『何もない泥沼だ』と脅すので覚悟していましたが、家も新築だし、お店や立派なお風呂もあって安心しました」

微笑むアメリアの横で、ロバートは顔を引きつらせつつ、安堵の息を吐いた。

こうして穏やかな空気が流れる中、カイトはクッキーを飲み込むと、ふと首を傾げてロバートに尋ねた。

前世の知識と、これまでの観察から、カイトはこの家がかつて「カツカツ」だったことをよく知っている。そんな貧乏男爵家に、子爵家の令嬢であるエレナが嫁いできた。政略結婚だとしても、どうにも不思議だった。

「ねぇ、ロブおじちゃん。パパとママって……どこで会ったの?」

その瞬間、部屋の空気がわずかに震えた。アルベルトは飲んでいた茶にむせ、エレナは頬を赤らめて視線を落とす。

だが、その問いに、さっきまでの引きつった顔から一転、ニヤリと口端を吊り上げて応じる男が一人いた。ロバートである。

「……フッ。おや若様、良い質問ですね。それはどんな御伽噺よりも熱く、美しい『運命』のお話ですよ」

ロバートは居住まいを正すと、まるで吟遊詩人のように、だが彼特有の少し斜に構えた演劇がかった口調で語り始めた。

引っ込み思案なマリーも、良くわかっていないミレーヌも、キラキラとした瞳でロバートを注視する。

大人たちにとっては周知の事実だが、子供たちにとっては初めて聞く英雄譚であった。

「あれは七年前、王都での出来事でした。ある店から出てきた一人の令嬢……その姿を一目見た瞬間、若き日のアルベルト様は、雷に打たれたように立ち尽くしてしまったのです」

ロバートはもったいぶるように間をあけ、子供たちの顔を見渡した。

「『……ロブ。あの方は、どこのどなただろうか』。隣で馬に跨るアルベルト様は、そう呟かれました。そして我々は、どうしてもそのお名前を知りたくて……そっと馬車の後を追ったのです」

(……クックック。 親父(パパ) それ、日本だったらストーカー行為じゃわい。まあここではそれが『純愛の情熱』だったわけじゃな)

「馬車は王都を抜け、穀倉地帯へと続く街道へ向かいました。『領地に戻るようだし、さすがにこの辺で引き返そう』。そう我らが馬の手綱を引こうとした……その時です。突然、街道脇の茂みから、三十人近い野盗の群れが飛び出してきたのです」

ロバートの声に熱がこもる。マリーがハッとして息を呑んだ。

「彼らは令嬢の乗る馬車を包囲し、襲いかかりました。護衛は居ましたが多勢に無勢、圧倒的に不利な状況。ですが、アルベルト様は迷わず腰の剣を抜き放たれた!」

『ロバート、行くぞ! ご令嬢をお守りするんだ!』

「アルベルト様は、まさに白馬に乗った王子様のように敵陣へと突っ込んでいかれました。我々もあちこちに傷を負う泥臭い死闘でしたが……守るべき人の前で、旦那様の剣が折れることはなかったのです」

ロバートはそこでふっと表情を和らげた。

「野盗を追い払い、血を拭いながら馬車の扉を開けた時、そこには不安げな、しかし凛とした瞳のエレナ様がいらっしゃいました。これが、お二人の初めての出会いだったのです」

「すごーい! パパ、かっこいい!」

カイトがパチパチと手を叩き、マリーもうっとりしたように「……王子さまみたい」と小さな声を漏らす。

だが、ロバートはそこでニヤリと笑みを深めた。

「……ですが、ここからが旦那様の真骨頂です。エレナ様から『なぜここに?』と問われた旦那様は、なんと……『あまりに綺麗なご令嬢だったので、不躾ながら追いかけてきてしまったのです』と、己の非を正直に白状してしまったのですよ。……フッ、格好をつけることすら忘れた、ただの正直すぎる告白です」

「まあ、正直者ねぇ」

アメリアがクスクスと笑い、アルベルトはたまらず顔を覆って椅子に沈み込んだ。

「けれど、その飾り気のない誠実さが、子爵家の令嬢であったエレナ様の心を射止めたのですよ」

(……ふむ。ピンチを救う武勇だけでなく、己の非を認めてさらけ出す素直さ。それが、格差を跳ね返す最大の武器になったわけか。長年の謎が解けたわい。パパの人間力による一点突破とは。……まさに豪胆な『白馬の王子様事件』じゃわい)

カイトは満足げにクッキーを齧りながら、恥ずかしそうに微笑み合う両親を見つめた。主従再会の夜は和やかに更けていくのであった。