軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第59話 野生の共演、ミスリル大槍の誕生

数日後。

伯爵領から馬を飛ばして帰還したアルベルトの背後には、騎士と工兵隊員達が守る、大八馬車が続いていた。

「パパ、おかえりー!」

「ただいま、カイト。……伯爵閣下が、備蓄だけじゃ足りず、市場に出回っていたミスリルまで買い集めてくれてな。なんとか必要な量は揃えられたぞ。……まあ、道作りが終わったらすべて伯爵家に返却するという、念書を書かされたがな」

「うん、ミスリル、たかいもんね」

(……ナイス!さすがはパパじゃ、ワシと考えることが一致しておるわい! いくら親会社(伯爵)でも、これだけの量を使い捨てにはできん。だが、市場の在庫まで買い占めてリースしてくれるとは、伯爵も相当腹を括ってくれたようじゃな!)

一方、行きはものすごいやる気で出ていった若手工兵のガンタとサジは、長旅の馬車酔いですっかりやられていた。

荷台の脇で青い顔をしてうずくまる二人に、護衛を指揮していたラインハルトが容赦なくゲキを飛ばす。

「だらしないぞお前達! ただ馬車に乗っていただけだろうが! さあ、さっさとミスリルを運べ!」

「えぇーっ……勘弁して欲しいっす、気持ち悪いっす……!」

「つべこべ言わずにやれ! そんなひ弱なことじゃ家族を守れんぞ!」

「ふぇぇ〜っ……」

半べそをかきながら、ガンタとサジがふらふらと立ち上がり、重い荷下ろしを手伝い始める。

(……クカカッ! 現場の若手はこうやってしごかれて育つもんじゃ。ラインハルトの言う通り、これは領民の命を繋ぐ道作りじゃからな。少々酔ったくらいでへばられては困るわい)

若手たちが叱咤されている一方、馬から降りたアルベルトの顔には濃い疲労が滲んでいた。だが、その瞳は燃えるように鋭かった。

彼が持ち帰ったのは、大小さまざまな「ミスリルの塊」だ。中にはミスリルのチェーンや、短剣も混ざっていた。

それを加工するためにカイトたちが向かったのは、領地で一番の腕を持つ鍛冶師、バルカスの工房だった。

大八馬車から下ろされた大小さまざまな大きさのミスリルの塊を見たバルカスは、丸太のような腕を組んで目をひん剥いた。

「こ、こりゃあ……。旦那様、本気でこれを『泥沼に突っ込む杭』にするってんですかい!? 」

「ああ、おかしいと思われるのは承知の上だ。だが、これが必要なんだ。……頼めるか、バルカス」

「へっ、面白え。こんな極上の素材を叩ける機会なんざ、鍛冶師の人生で二度とありません」

そこに、設計図を丸めて持ってきたバッカスが、熊のような巨体を揺らしながら歩み出て、不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「おい、鉄叩きの筋肉熊。ただの鉄を叩くようにやられちゃ困るぜ。この杭は魔法の『芯』になるんだ。内部の魔力伝導率を均一に保つために、俺の指示通りに温度と叩く位置を厳密に調整してもらわねぇとな」

バッカスが中指でインテリ眼鏡を押し上げると、バルカスがガンッと大槌を金床に叩きつけた。

「坊ちゃん、鍛治に関しちゃ、魔導刻印師なんかよりオレのが上ですぜ!

現場に口出しする頭でっかちの指図なんか受けるかよ!

だいたい、チマチマ刻印打ってる奴が、なんでそんな分厚い胸板してんだよ! 刻印師のくせに余計な筋肉つけやがって、このインテリヒグマが!」

「抜かせ! こっちだって硬え魔石を繋げるために、ミスリルなんざ腐るほど削ってきたんだよ! 鉄しか知らねえ野生熊が、ミスリルの魔導計算に口出ししてんじゃねぇ!」

火花を散らしながら、分厚い胸板を押し付け合う二頭の 熊(おっさん) 。

カイトは無邪気な顔で首を傾げた。

「おじちゃんたち、バッカスとバルカスって、なまえ(名前)がにてるよね! あと、どっちもおっきなクマさんみたい!」

「「誰がクマだ!! 一緒にすんな!!」」

眼鏡をかけた熊と、革手袋をつけた熊の怒鳴り声が見事にハモる。

(…ククク、鍛冶の野生熊と魔導のインテリ熊……大工と電気屋みたいにいがみ合っとるわい。だがこの手の奴らは、放っておいても現場入れば『仕事』で語り合うんじゃよな)

「……ちっ、口より手を動かせ。いくぞ、エプロン熊!」

「エプロンはお互い様だろうが、眼鏡ヒグマ! 火を入れるぞ!」

炉の炎がごうごうと吹き上がる。

最初は互いに文句を言い合いながらの作業だった。

「バカ野郎、そこは叩きすぎだ! 魔力の通り道が潰れちまう!」

「うるせぇ! ミスリルの『芯』を出すには、力で一気に叩き上げるしかねぇんだよ! 潰れたって分かったんならお前が元に戻せ!」

だが、数時間が経過し、真っ赤に焼けた巨大なミスリルが徐々に「大槍」の形を帯びてくる頃には、鍛冶場から怒鳴り声は消えていた。

カンッ!……カンッ!……カンッ!

バルカスの振るう大槌の甲高い金属音に重なるように、バッカスが幾度となく魔力を注ぎ込んでは魔力の通り道が潰れていないかチェックしていく。

形を定着させる音が、完璧なリズムを刻み始めていた。

バッカスのあの熊のような体躯は、伊達ではない。バルカスの底なしの体力とハンマーのテンポに、一歩も引かずに魔力を送り続けているのだ。

(……おぉ、やるじゃないか。ちょっと『相互安全確認作業』を思い出したわい。バルカスが形を整え、すぐにバッカスが魔力の通り道を整えておる。二人が技術をぶつけ合う、これぞ正真正銘の融合じゃな!)

そして、夜明け前。

ジュウウウッ……!!

冷却用の油から引き上げられたのは、大人の背丈ほどもある、銀色に輝く巨大な「ミスリルの杭」だった。

表面には魔力を整える幾何学模様が浮かび上がり、圧倒的な存在感を放っている。

「……ふぅ。……やるじゃねえか、野生熊。俺の要求した魔力伝導率に、バッチリ収まるとは、よう!」

バッカスが煤だらけの顔で、リネンで腕の汗を拭いながらニヤリと笑う。

「へっ。……熊眼鏡もな。魔導師ってのはひ弱な連中だと思ってたが、一晩中、俺のテンポに合わせきりやがったじゃねえか。……大した体力だ!」

バルカスもまた、分厚い革手袋の甲で汗を拭いながら、満足げに大槍を見つめた。

二人の熊親父は、煤と汗にまみれた顔を見合わせると、同時にガシッと力強い握手を交わした。

「おじちゃんたち、きょうだい(兄弟)みたいに、なかよしさんだね!」

「「だから、兄弟にすんなっ!!」」

こうして、泥沼の道作りを加速する『ミスリルの大槍(杭)』が完成したのだった。