軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百九十九話

***頼信⑲***

「おいおいなんだその顔は? それにそんな荷物を持って、どこ――……に?」

ゲラリオの語尾が消え、ちょっとたじろいでいた。

その後ろには、ゲラリオそっくりの雰囲気の男が三人ほどいる。

さらにその背後にいかにも手練れそうな獣人が四人いて、それから、きょろきょろ落ち着きなく周囲を見ている獣人の少年たち。

ゲラリオは約束どおり、信用できる冒険者チームを島に連れてきてくれたのだ。

が、タイミングが悪かった。

「はあ~……」

クルルは手にしていた荷物をこちらに押し付け、師匠には冷たい目を向けた。

「師匠、飯は?」

「ん、え、あ、ああ、腹は減ってるが……」

わけがわからない様子のゲラリオは、こちらとクルルの顔を二度見比べていた。

この屋敷には元来、客に飯を振る舞うという習慣があった。

それにクルルはこれで案外義理堅いから、長旅を終えて帰ってきた師匠を放ったらかしにして外出する、という選択肢もなかったのだろう。

長旅をねぎらい、ゲラリオが連れてきた者たちのために料理を作るのは、クルルの中で従わなければならない厳格なルールなのだ。

しかしだからといって気持ちがついていけるかというとそういうわけでもなく、死ぬほど不機嫌になっていた。

屋敷に引っ込むクルルに首をすくめてから、ゲラリオに向き直る。

「ちょっと、色々ありまして……」

「ふん?」

ゲラリオはほどなくこちらの頬の痣とひっかき傷に気がつき、視線を屋敷の奥、クルルの歩いていったほうに向ける。

「あ~……なるほど。お前がまたなんかクルルを怒らせて、仲直りして、どこかにおでかけするところだったか」

「ぐっ……悔しいですけど、その通りです。ただ、おでかけというか、魔法の研究なんですが」

クルルに押し付けられた荷物を揺すって見せると、ゲラリオの顔も上下した。

「なんだよ、俺がいかに弟子に愛されているかってのを、あいつらに見せたかったのに」

ゲラリオは親指で後ろにいる男たちを示す。

自分が彼らを見やると、総じて半笑いだ。

「ゲラリオ、お前の面白くない冗談はいらん」

そのうちの一人、眼帯をした男が前に進み出てきた。

「あんたが噂のヨリノブか?」

「えっ……と、はい」

眼帯に長い髪の毛という容貌に妙な迫力があり、海賊にも見える。

気圧されていると、相手は上から下までじろじろと、こちらを遠慮なく検分する。

「なるほど、ゲラリオが言ったとおりにへなちょこだ」

眼帯の男はにやりと笑い、こちらの抱えていた荷物をひょいと取り上げた。

「ゲラリオがいきなり俺たちの集落に来てな、どうかあんたの力になってくれって、俺たちに涙目になって頼んできたんだ。戦友がそこまで言うんだからと、俺たちは――」

「こ、の! ヨークン! 誰が涙目だったって⁉」

ゲラリオが眼帯の男の首を絞めに飛び掛かっていた。

「なんだよ、感極まって半泣きだっただろうが。お前は昔っからすぐ泣くからなあ」

飄々として、薄汚れていて、でも情に篤くて頼りになって。

そんなゲラリオが、見たことのない顔をして喚いていた。

首を絞め合い、ごたごたやっている二人と、そんな二人に割って入る呆れ顔の獣人たちに、囃し立てる残りの男たち。

自分はすぐに理解する。

彼らは、昔ながらの友達なのだ。

「皆さん」

自分がそう言うと、ゲラリオたちがぴたりと動きを止める。

「私たちは皆さんを歓迎します」

ゲラリオと、ヨークンと呼ばれていた眼帯の男は、互いにお前のせいだという感じで、ばつが悪そうにしていた。

まるっきり叱られた高校生みたいに。

悪い人たちではない。

それから山ほどの戦を潜り抜けてきただろうことも、その体の端々に見て取れる。

誰も彼もが薄汚れていて、あちこちに傷がある。

歓迎するというのは嘘ではない。

「とりあえず、中で食事でも。ここはなにかというとご飯を食べさせたがる人がいるもので」

ゲラリオはへっと鼻を鳴らし、さっさと屋敷の中に入っていく。

ヨークンと呼ばれた眼帯の男は、他の男たちと顔を見合わせてから、屋敷に入っていく。

残る獣人たちがやや躊躇っていたので、自分は彼らに対しても屋敷の中を手で示した。

そして、それがヨークンたちのちょっとしたテストだったらしいと気がついたのは、屋敷の中から彼らがこちらを見ていたから。

さっきまでのふざけた態度とは違う、真面目な顔で。

「ゲラリオは馬鹿だが、間抜けじゃない」

ヨークンはそう言ってにやりと笑い、廊下を歩いていった。

馬鹿でもねえ! と怒鳴る声が奥から聞こえてきて、思わず笑う。

新しい魔法使いたちの実力は未知数だが、ジレーヌ領はますます賑やかになりそうだという確信だけはあった。

それと、クルルの機嫌をまた改めて取り直さないとと、少しだけゲラリオの間の悪さに呻いたのだった。

◆◆◆◇◇◇

ヨークン、ハーヴォン、シュレッツ、とそれぞれの魔法使いは名乗った。本当はもう一人いたらしいのだが、長い旅に出てしまっているという。

それから獣人四人に、彼らや彼らの知人の子供だという少年獣人たちも名乗ったが、人付き合いの苦手な自分は、三人目で覚えられなくなった。

というか犬タイプと鹿タイプなら見分けがつくが、同じ犬タイプだともう誰が誰だかまったく分からない。

ちょうど公証人組合から戻ってきたイーリアが、にこにこ顔で挨拶を受け、一瞬で全員覚えたようだったので、あとで教えてもらおうと思う。

なおイーリアがにこにこ顔なのは、渋い見た目の髭のおっさんが増えたからだろう。

しかも全員が、辛い戦いを経て今は丸くなった、みたいないぶし銀なのだ。

雄的な魅力に欠ける自覚のある自分は、いささか卑屈になってしまう。

「これが噂のあれか」

クルルの料理を待っている間、自己紹介やらジレーヌ領の話をしつつ、長テーブルの上には実験で使うつもりだった合成魔石が広げられていた。

「実物を見たらあれだが、案外誰も気がつかないもんだろ」

「だなあ。あー、くそっ。自分でこれを思いついていたらよお!」

ゲラリオが連れてきた三人の中では、一番身なりの綺麗なシュレッツが呻いていた。

「こんなのでいくらでもでかい魔法が撃てるなら、そりゃあここが帝国から目をつけられるってもんだ。ゲラリオが魔導隊を倒したって聞いた時はなんの冗談かと思ったが」

三人の中では年長格っぽいヨークンが言うと、ゲラリオは下唇を突きだす。

「言ったろ。俺は最後を受け持っただけ。思いついたのはそこのへなちょこ大宰相様だし、ぶっつけ本番で作戦を実行しきったのは、あの弟子だ」

ゲラリオが顎でしゃくると、ちょうどクルルが大きな鍋を運んでくるところだった。

自分も手伝おうと椅子から立ち上がりかけたが、すでにヨークンたちの仲間の獣人がさっと手を貸していた。

また気が利かないだのなんだのクルルに言われてしまいそうだ、と椅子に座り直していたら、驚いた様子のヨークンたちの視線に気がついた。

そして彼らは、ゲラリオを見る。

「本当にこいつが大宰相? 身代わりじゃなくて?」

しばらくなんのことかわからなかったが、どうやら、クルルを手伝おうとした素振りが地位のある人間らしくなかったようだ。

「そうだよ。この島で一番腰が低くて、一番危ない奴だ。お前らがへらへら偉そうにしてたら、大宰相様より偉そうにしてる馬鹿がいるって、島中から睨まれるぞ」

ゲラリオの適当な放言は置いておくとして、自分はこう言うしかない。

「自分は前の世界では、普通の民でしたので……」

ヨークンたちは目をぱちぱちとさせ、少し居住まいを糺していた。

そこに、クルルの作った料理がでんと置かれた。

豚の肝を大蒜と焼いた豪快な炒め物と、昨日のパンの残りという簡単なものだが、クウォンから帰る途中に買ってきた唐辛子みたいなものが利かせてあって、ものすごく食欲をそそる匂いがする。

ヨークンたちも生唾を飲んでいたし、獣人の少年たちは尻尾の動きが止まらなくなっていた。

「ここがジレーヌ領だ。どうだ、おままごとだろ?」

ゲラリオがなぜか得意げに言って、食事となった。