軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百四十九話

川というのは逃れようのない場所なので、権力者によく目をつけられる。

クウォンに向けて川をのぼっていく際も、うんざりするほど関所があった。

「川沿いの領主は楽して大儲けだな」

関所を通過するたびに船頭が通行料を支払うのを見て、クルルが呆れたように言っていた。

もちろん関所の費用は、船賃に含まれている。

とはいえ領主の側も、税金をただ集めているだけではなく、関所では船着き場が整備され、道が通されるおかげで渡し船が常駐して旅人を運んでいるし、それを目当てに商人が露店を開いたり宿ができたりと、賑やかになるよう管理されている。

そんな具合なので、食べるところにも寝るところにも事欠かず、ずっと固い船の上に座りっぱなしなので尻が痛いという問題点を除けば、おおむね良好な旅だった。

ただ、河口から出発して三日目。

船旅も明日で終わって、残りは徒歩か馬で川沿いの道を進むだけ、という頃のこと。

船が急に止まり、先頭の船では貴族の客と船頭がなにやら揉めていた。

「川が封鎖されているとか言ってるな」

クルルが猫の耳をぱたぱたさせて、顔を上げた。手には暇に飽かせて作った即席のトランプがあって、干し肉を賭けてみんなで大富豪をやっていたところだ。

船はゆっくり岸に寄せられ、船を引っ張り上げて川沿いを歩いていた獣人たちが、川沿いの木に縄を結わえている。

本格的に停泊するらしい。

「上流をお偉いさんが横切ってるとか、そういうのだろ」

そう言ったのは、手元の札をじっと見ているゲラリオだ。

歴戦の冒険者はあまりこの手のゲームで強くないらしく、手元の干し肉は少ない。

「お前はお偉いさんじゃないのか?」

クルルがこちらを見て、からかうように言ってくる。

「この船は庶民専用ですよ」

クルルはくすぐったそうに笑ってから、ゲラリオが迂闊に出した7の札に8を置き、場を仕切り直したら最強の2を出して、なにも出せないゲラリオの前に4を置く。

そして呆気にとられるゲラリオの手元から、なけなしの干し肉をとっていく。

尻尾が得意げに揺れているので、師匠をやりこめられて素直に嬉しいのだろう。

「……これ、なにが面白いんだ?」

ついにゲラリオがそんな悔し紛れの台詞を言っていた。

「戦略性があって面白いがね」

そう言うのは、大体自分と一位を争っているファルオーネだ。

「これが古典的なゲームだと言うのだから、ヨリノブ殿の世界は娯楽も充実しているのだな」

「盤や駒を使ったものはもっと複雑で、戦略性の高いものがたくさんありますよ」

とはいえボードゲームはあまり詳しくなく、本当はFPSやMMOの話をしたかったが、さすがに理解してくれないだろう。

ノベルゲーならよく写本を読んでいるクルルも喜んでくれそうだが、シナリオを再現できるほど自分の記憶力は良くないし、この世界にあの画力を再現できる絵師もいない。

「ふむ。貴族たちも盤上にて戦を学ぶと聞く。そんなものだろうか?」

チェスに似たものはあるらしいので、たぶん探せばトランプを用いたゲームもあるはず。

けれど道具が揃わないと遊べないものは、基本的に上流階級向けだ。

この野蛮な世界では、庶民がゲームというと即席の道具で遊べて、かつ、即興性の強い賭け事ばかり。

聞けばゲラリオも、ルアーノとはたまに賭博場に顔を出しているらしい。

他の客から嫌な顔をされるくらいの腕前のようで、それでこの大富豪も、やる前はまあまあ自信があったようだ。

ただ、ゲラリオの場合は知略がどうこうというより、場の流れを掴んだ勝負運が強いようで、大富豪とはとても相性が悪かった。

「へっ。大の男がこんなちまちまやってられるかってんだ」

その割りには、時間が経つともうひと勝負とゲラリオのほうから言ってくるので、クルルが懐くはずだ。

それからも数ゲームしていたら、クルルの腹が可愛く鳴った。

太陽は頭上にあり、昼になっていた。

「川べりで焚火してるな。クルルお嬢様の干し肉スープでも振る舞ってもらえるのかな?」

しこたま負けて不機嫌そうなゲラリオが、そんなことを言っていた。

「旅人の掟で、材料は各自持ち寄りと決まってる。師匠も塩くらいは持ってるだろう?」

「……」

こわもてなのに、ゲラリオはクルルにはなにかと弱かった。

それから火を借り、川べりで焚火を囲んで食事となった。

クルルは道中立ち寄った街で手に入れた新しい食材を使い、楽しそうに干し肉のスープを仕込み、恩着せがましそうにゲラリオに肉をよそってやっては、牙を見せて笑っていた。

みんなでスープに舌鼓を打っていたところ、川で船を運ぶ獣人たちと話をしていたバダダムが戻ってきた。

『川を塞いでいるのは、帝国本土からきた魔導隊だそうですよ』

「へえ。魔導隊とはずいぶんだな。西方大管区の連中か?」

『そこまではなんとも。ただ、豪奢な馬車が鈴なりで、川を横切りクウォンに向かっているようで。有名な湯治場だそうですから、戦の傷を癒しに湯に浸かりに来たのでは』

「ふん……湯に浸かって治療だって? 魔導隊の魔法使い様は、戦でお怪我を召されるような御身分じゃないはずだけどな」

正規の魔法使いの身分は軒並み貴族だそうで、戦に出るとしても後方の輿の上で高みの見物。

対して野良の魔法使いは、雑兵扱いで魔石を手に前線をはいずり回る。

そんな感じらしい。

「魔導隊というのはどういう連中なのだ? 異端審問官ならば連中の食べ物の好みまで分かるが、あまり見識がない」

ファルオーネの問いに、ゲラリオは干し肉を噛みちぎってから答えた。

「宮廷で政治に明け暮れるより、下界で好き放題やるのが好きな連中のことだ。おおかた常日頃から、聖女に対して圧力でもかけてるんだろう。仲間になれとか、ご自慢の回復魔法を見せてみろとかな。ごろつきと同じだよ」

癒しの奇跡、あるいは回復魔法は、ゲラリオでさえ噂でしか聞いたことがないという。

回復魔法だと言い張るもののほとんどが、肉体強化系の魔法だと。

もしも本物の回復魔法の使い手なのだとしたら、確かに戦力として欲しがるだろう。

そこに、猫舌のためにスープが冷めるのを待っていたクルルが言った。

「それとも、回復魔法の刻まれた魔石が狙いとか?」

「それなら職人を締め上げたほうが早い……いや、聖女が針仕事の代わりに魔石を手ずから彫ってるってのはあるかもな」

確かにそれはそれで、敬虔な修道女、という感じがする。

「なんであれ、間の悪いことだ。あいつら本当に態度が悪いからな」

「……そんなに?」

木の椀からスープを啜るゲラリオは、こちらをちらりと見るだけで、なにも言わない。

そして空の椀をクルルに差し出し、「肉をくれないと訓練してやんねえぞ」といじけたように言ったのだった。