軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

97 名付けと紺の半ズボンとワンピース

「おはよう 朝だぞ。起きな、坊主たち」

いつもなら、夜明けと共に起きて移動していた。

寝ていた軒先から動かないと蹴られたり水をかけられたりするからだ。

窓から入る朝の日差しはいつもよりずっと遅い時間だとわかるし、それに寝ているところは柔らかくて温かい。

かけられた声も怒鳴り声でなく優しい声だ。昨日のおじさんが窓を開けて近づいてきた。

「ここどこ?」

「あ? まだ寝ぼけているな。朝飯だぞ」

「食べ物?」

5人は目をこすりながらも朝飯と言う言葉にすぐに目が覚めたようだ。

「飯の前に、顔を洗って口をゆすぐぞ」

おじさんに言われてベッドから起きて下に行くとおばさんが、昨日と同じように黒パンを薄く切っていた。

「おはよう」

「………」

「おはようって挨拶されたら、おはようって挨拶を返すんだよ」

「うん…おはよう」「おはよー」「おはよー」

おばさんは、あっちで顔を洗ってきなと持っていた包丁で、少し離れた小屋の方を指す。

おじさんに連れられて行った先は馬小屋で、昨日寝る前に口をゆすいだ馬小屋の脇の井戸で顔を洗う事を教わった。顔を洗うとおじさんは持っていたタオルでみんなの顔を拭いてくれた。

テーブルに戻ると、木の大きめのコップには昨日のシチューの具の野菜や肉が細かく刻まれて入っていて、小さめのコップには新鮮な甘いミルクが入っている。

おばさんは、薄く切った黒パンにハムを挟んだサンドイッチを2切れずつ皆の前に置くと「さぁ、食べな」と言ってちびちびの横に座った。

「おばさん達は食べないの?」

「あたしらはもう食べたよ。これからあたしの事はブレンダとお呼び。あっちはハンスだ」

朝食を食べ終わるとハンスが食器を片づけどこかに持って行った。ブレンダが2階からシーツをはがして持って降りたところでにーちゃに声をかけた。

「呼ばれるまで遊んでな」

「え?でも、オレ仕事をするんじゃ…」

「まだだよ。後でアデライーデ様から呼ばれるまで遊んでな。ただし!この小屋の周りから遠くに行くんじゃないよ。呼ばれたらすぐ来るんだ。馬にも近寄るんじゃないよ。危ないからね」

そう言うと、シーツを抱えてブレンダもどこかに行ってしまった。

皆で小屋の周りでしばらく遊んでいると、大きな箱を背負った雑貨屋のおじさんとブレンダおばさんが戻ってきて、おじさんとああだこうだと言いながら子供たちの服を選んでいた。

すぐに大きくなるから、少し大きめがいいとおじさんが選んだ服は、男の子は膝までの紺色の半ズボンに少し大きめの薄茶色のシャツと帽子を。女の子のなぁには紺色のワンピースと薄茶のエプロンと白い子供用のキャップを着せてくれた。

汚れが目立たない紺色のズボンと、紅茶で染め直したシャツは庶民の子供がよく着ている服だ。古着屋でもサイズが取り揃えてあり、おじさんは一通りもってきていた。

みな着せてもらった服に大喜びだった。

ただ、初めて履いた靴はどうにも慣れないがブレンダおばさんの一睨みでみんな静かになった。起きている間は脱いじゃいけないらしい。

「アデライーデ様がみんなに買ってくれたんだ。後でちゃんとありがとうございましたとお礼を言いな。大事にするんだよ」そう言っておじさんから5人分の着替えと下着を受け取ると、ベッドの横のわら束の上に置いた。

「後でハンスが棚を作ってくれるからそれまで置いておきな。さぁ、アデライーデ様のとこに挨拶に行くよ」

ブレンダおばさんに連れられて、昨日の場所に行くとアデライーデが待っていた。

「アリシア様、服をありがとうございます」

「まぁ…、みんなよく似合うわ」

皆で礼を言うと、アデライーデはそう言ってみんなの服を褒めてくれた。

「今日はね。みんなにお名前を考えたの」

「名前?名前がもらえるの?」

「そうよ。私がつけてもいいかしら」

アデライーデか聞くと、なぁがコクコクと頷いた。

「気に入ってもらえるといいのだけど」

そう言って、アデライーデは一人ずつ名前を呼んだ。

「にーちゃがアベル」

「にぃにがデール」

「なぁがアンジー」

「ちびがエデル」

「ちびちびがルーディ」

「私のアデライーデの名前から文字を1つずつとってつけたのよ」

「うわぁ!」

子供たちが声を上げて喜んだ。

「オレ、デールだ」

「オレはエデル」

「あたしはアンジーよ!」

「…アベル、オレ…アベルなんだ」

「ブレンダおばちゃん、ルーディって呼んで!」

ちびちびはブレンダのスカートにしがみついて、もらった名前を呼ぶようにねだっていた。

「あぁ、なんだい?ルーディ」

「うん!オレ、ルーディだよ!」

ブレンダがルーディをそう呼ぶと、ルーディは満面の笑顔で自慢げに答えた。

「良かったねぇ あんた達」

ブレンダはエプロンの裾で鼻を拭いていた。

しばらく子供たちはお互いに名前を呼び合い、全身で新しい名前を喜んでいた。アデライーデは喜んでもらえたことにホッとしていると、アベルがアデライーデに近寄って来た。

「アリシア様、オレ何したらいい?」

「何って?」

「仕事。名前ももらって食べ物も服ももらった。オレ仕事するよ!」

「……みんなに仕事をしてもらうわ」

「え?でもコイツらまだ仕事できないから!オレがするよ」

「今までアベルがやってきたような仕事じゃないのよ」

アベルは不思議そうな顔をした。アベルがやってきた仕事は港の荷揚げされた魚を運んだり掃除をしたり薪を拾ったりだ。1日やるとパンが1つもらえた。

「リトルスクールに通って、文字や計算を覚える仕事をして欲しいの。それを覚えてから、別の仕事をしてもらうわ」

「覚えたら、いいの?」

「そうよ、ゆっくりでいいのよ」

「コイツラは…」

「同じように覚えてもらうけど、アベルよりもっとゆっくりで簡単なことから覚えてもらおうと思っているの。だから一緒にみんなで通ってもらうわ。今ね、どんな事を覚えてもらうか色々話してるの。だから決まるまで待っててくれる?」

「うん…あ、はい…。それまで何をしていたら…」

「まずね、ブレンダに教わってちゃんときれいにテーブルでご飯を食べられるようになって、お部屋をきれいにしたりお風呂に入れるようになる事から覚えてね」

「でも、それで良いの?仕事をしないで?」

そんな事で良いのだろうかと、アベルがブレンダを見るとブレンダは、アベルの背中をどんと叩いて「まずはしっかり食べてこの細っこい腕を太くさせてからじゃないと仕事なんか出来ないよ。あんた達はまずはしっかり食べる事だ!」とニヤリと笑った。

「そうよ、ブレンダの言うとおりね。しばらくはしっかり食べて遊んで体を作らないと」

「ほら、アデライーデ様も、あぁ仰っているんだ。わかったね?」

「う…はい」

「ブレンダもハンスも、仕事が増えてごめんなさいね。子供たちのお世話の分、今までやってきた仕事は人を増やしてもらうようにレナードにお願いしてるから、子供たちのお世話をお願いしてもいいかしら」

「お任せ下さい。しっかり躾けますし、しっかり食べさせて太らせますよ。あたしみたいに!」

そう言うとブレンダは胸をどんと叩いて笑った。

そこまでで無くてもいいのよ…

アデライーデはそう思ったが、口には出せなかった。