軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

87 ヨハンの帰国

「薫はレシピノートを見つけたかしら…」

その日の夜、いつもはワインを持ってきてもらうが、瓶に詰めたクラフトコーラのシロップと炭酸水、シュナップスを持ってきてもらった。

--久しぶりのコークハイ。

まぁ…正式にはウィスキーだけど、シュナップスも十分美味しいわ。

シロップとシュナップスを濃い目に入れて2杯目のコークハイを飲みながら薫の事を思い出していた。

--薫は食が細くて胃腸が弱かったわ。みんなが食べて平気なものでも、1人だけお腹を壊したり具合が悪くなったりする子だったし。

薫が高校生になるまで、陽子さんは専業主婦で料理を作り続けた。薫の好物のレシピをつけ、手作りできる物は何でも作った。それこそデザートからホワイトソースまで。裕人は薫の分まで胃腸が丈夫で、陽子さんが心配するくらい何でもよく食べる子だった。

その中でも、このクラフトコーラは薫の大好きなもので仕事に復帰してからも家の冷蔵庫に切らした事は無かった。もらってきたクラフトコーラのレシピは改造に改造を重ね、もはや陽子さんのオリジナルと言ってもいいくらいだ。

「くぅ〜、うちのコーラが1番よ〜」

そう言ってガバガバ飲んでいた薫。

--炭酸水メーカーも発売と同時に買ってきて…高いから値段が落ちるまで待てといったのに「いちいち買いにいくのは面倒!」と言ってすぐにネットで買っていたっけ。

--昔よく一緒に作っていたからコツは覚えているはず…分量さえわかればね。見つけてくれているといいな…。せっかく試行錯誤して作ったレシピなんだから…。

陽子さんのレシピノートはカウンターキッチンの上にある。

今日の試飲会?は大盛況で、ライムモヒートがレモンやオレンジで試されて料理人のアルトは片っ端からメモをとっていた。

試飲会の終わりに、アデライーデが教えたクラフトコーラやライムモヒートのレシピは、この離宮のものになるのでしょうかと聞かれたので、そうだと答えるとアルトは「離宮のレシピ帳にすぐに記載いたします」とアデライーデに渡されたクラフトコーラのレシピを大事そうにしまっていた。

試飲会を終えると、レナードが「アデライーデ様、よろしかったのでしょうか?あのレシピをこの離宮のレシピにして…」と聞いてきた。

「? だめだったかしら」

「いえ、そういう訳ではございませんが…アデライーデ様はそれでよろしいのかと…大事な(母君のご実家の)レシピではございませんか?」

「だって、私はここにずっといるつもりよ?これからも作ってもらうと思うし、この離宮で誰かが飲みたい時に使ってくれればそれでいいと思うけど」

「貴族の家に伝わるレシピはその家だけのものでございます。輿入れ先にレシピを譲るというのはあまりございません」

「構わないわ。むしろみんなに飲んでもらえると嬉しいわ。ね、村のみんなに飲んでもらうことはできる?」

「村のものにですか?」

「ええ、みんなに楽しんでもらえると嬉しいわ。私の村だもの」

「アデライーデ様…ありがたい事でございます」

後日、クラフトコーラのシロップが村の酒場に渡された。この新しい飲み物は最初こそ意見が別れたが段々と村人に馴染んでいき誰もが気軽に飲むようになっていくようになる。

アデライーデが離宮に来て数日。離宮での生活に慣れてき始めた頃、ヨハン・ベックが帰国の挨拶に離宮を訪れた。

「アデライーデ様。お変わりなくお過ごしでしたか?」

「お久しぶりね。ベック伯爵。もう帝国に帰られるの?」

「ええ、残念ですがそろそろ帰国せねば、帝国での仕事がたまる一方ですし…」

ヨハンは帝国とバルクの輸出入の税の取り決めの為にバルクに来たが、アデライーデがバルクに馴染めるか、そしてアデライーデのバルクでの身の安全を見定める役目もあった。

バルク王宮や、離宮に庭師として送り込んでいる影達からもアデライーデは 恙無(つつがな) く過ごしていると報告を受け帰国となったのだ。影達を離宮の改装に送り込むことができ、既に離宮内の調査も終わっている。

ヨハンは庭師達が張り切って手入れをしている、できれば庭が完成するまでで良いので置いてやってほしいとアデライーデに頼んできた。

アデライーデがレナードに良いかと尋ねると、今は専属の庭師がいないのでありがたい事と受け入れられた。

レナードも最初は帝国の者を離宮に入れることを警戒していたが、監視させていても怪しい動きはなかったと報告を受けていた。それに庭師たちはみな老人で、日中離宮内に入ることなく仕事が終われば村の宿屋に帰っていく。

問題はないと、レナードは判断したようだ。

その話が終わる頃、メイドが見慣れぬ飲み物が入ったグラスを2つ、ヨハンの前に置いていった。アデライーデの前にも置かれている。

濃い琥珀色の飲み物はシュワシュワと音をたてグラスに泡をたくさんつけている。シャンパンの一種だろうか…。もう1つの飲み物はライムとミントが入っているので果実水だろうか…

気になって、ちらりと見るヨハンにアデライーデは笑って勧めてきた。

「コーラとライムモヒートと言う飲み物なんです。お口にあえばよろしいのですが」

「ほう…初めて目にする飲み物ですね。それではいただきましょう」

ヨハンは、コーラを手にとって口にすると飲んだことの無いスパイシーな味と炭酸の喉越しに驚いた。シャンパンの炭酸より強く喉をおりていく。

「これは…美味しいですね」

初めての味だが癖になりそうな飲み物だ。

「好みがはっきり分かれるかもしれませんが、コーラと言う私が好きな飲み物なのです」

アデライーデはそう笑うとコーラを飲んだ。

「では、こちらがライムモヒートと言う飲み物ですか」

ライムと蜂蜜の仄かな甘みが爽やかだ。

「両方とも暑い季節には、美味しい飲み物ですわ。レシピを陛下達に届けてくださいませんか?」

アデライーデは、帰国するヨハンにクラフトコーラとライムモヒートのレシピと炭酸水を2箱、それと陛下達への手紙を渡した。

分厚い手紙にヨハンは驚いたが、アデライーデが嬉しそうに書く事が沢山あるのと言うのを微笑ましく思って見ていた。