軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

65 巣蜜と蜂蜜酒

夜明け前から起こされ、結婚式、パレード、披露宴が終わってお風呂に入ったのはいつもお風呂に入る時間よりずっと遅い時間だった。

結婚式やパレードはまだ良かった。

支度に時間がかかったが、両方で1時間ちょっと。

披露宴は、延々6時間くらい開催されていたのだ…。

両脇にナッサウ侍従長とマイヤー夫人が控えていて、黒子のように挨拶する貴族達の名前を囁いてくれるし、あまりに長い挨拶には咳払い等で対応してくれていたが、なにせ人が多すぎる。

ファーストダンスの後のダンスの申込みも、マイヤー夫人がサクサク捌いていたがあとからあとから申し込まれる。

アデライーデも随分と頑張ったが最後の1時間は何も覚えていないくらいだった。

途中で退出する事なくやり切った感はあるが、明日は絶対筋肉痛だとお風呂の中で確信していた。

「ふぅ〜〜」お風呂のなかで伸びをすると、メイドさん達が身体を洗ってくれる。今日ほど人に身体を洗ってもらうのが心地良いと感じた事はないくらい疲れていた。

メイド達がアデライーデに嬉しそうに話しかけてくる。

「皆様、アデライーデ様が嫌な顔せず皆とダンスを踊って下さったと言っておりましたわ」

「そう?喜んでもらえたのなら良かったわ…」

--踊りすぎて誰が誰だからわからなかったけど、喜んでもらえたら何よりだわ…

「特例で、皇后陛下から譲られたウェディングドレスを披露して下さったのでドレスの周りはご婦人やご令嬢の人だかりでしたのよ」

「そうそう!マダム・シュナイダーがベック伯爵から『彼女はこのドレスのデザイナーだ』と紹介されてからすごかったですわ〜」

「婚礼を控えたご令嬢やその母君様から引っ張りだこでしたわね」

「それ以外の貴婦人方も負けてなかったですわ」

「え…マダムはもみくちゃにされてなかったの?」

小柄な老婦人が大勢に囲まれて、何かの弾みで骨折でもしたらとアデライーデが心配すると、メイド達はいいえ!と声を揃えた。

「マダムには騎士様がいらっしゃるので!」

「騎士様?」

はて?そんな人いたっけ?

「あの背の高いお針子の方ですわ!」

「黒の騎士服で、マダムを守るようにお立ちになって、ご婦人方やご令嬢方に、カードを配っておいででした」

「マダムにご用命でしたらこちらにご連絡を…と滞在されているホテルのカードを配ってましたわ」

「その姿の凛々しい事! 『可愛らしいご令嬢。貴女の魅力をもっと引き出せる機会を…是非…』なんて囁かれたら…きゃ〜 絶対お伺いいたしますわ」

きゃいきゃいメイド達が盛り上がっているのを見ながら陽子さんは感心していた。

--……流石マダム…女子のツボを心得ていらっしゃる…

男装の麗人効果は素晴らしく、後日マダムの宿泊するホテルのロビーは社交界が移転したかと思われるほどの賑やかさだったらしい。早々にホテルのオーナーに交渉して格安でホテルの一室にメゾンの支店を出したと言う。

「さぁ、準備ができましたわ。アデライーデ様お風呂から上がられてくださいな」

そう、マリアに言われお風呂から上がると寝室のベッドの上でマッサージが始まった。

「眠たくなったら、そのままお休みくださいませ。今日は、お疲れになったでしょう?」

ラベンダーの香りのマッサージオイルを使い、マリアは優しくアデライーデの疲れた身体を揉みほぐす。

「良い香りだわ…」

「アルヘルム様より、先程あちらの巣蜜が贈られてまいりましたわ」

マリアの言葉に、ベッドサイドのテーブルを見ると白いリボンで飾られた小箱とブーケが見える。

「こちらの国では、初夜から3日続けて新婚のご夫婦は蜂蜜酒と一緒に贈られるそうですの。白い結婚なので巣蜜だけとのことですが」

「そうなのね」

--ヨーロッパの方では、結婚して1ヶ月蜂蜜を食べるって風習があったわね。バルクでは養蜂が盛んって言っていたから同じ感じかしら…

日本も昔、 三日夜餅(みかよのもちい) だっけ?3日目にお餅を…って

--結婚したのね。あまり実感はわかないけど。

そう思った時に不意にアルヘルムとのキスを思い出した。

教会の時は、緊張していてあまり思い出せないが扉の前のキスに頬が熱くなる。

--な…何を思い出してるの。アルヘルム様にはテレサ様がいるし!そう!この世界では頬へのキスなんて挨拶代わりなのよ!うん!きっとそう!

ベッドにうつ伏せになったまま、ジタバタしているとマリアが 訝(いぶか) しげに「アデライーデ様?どうかなされましたか?」

「…何でもないの…ちょっと身体を伸ばしていただけ…」

--不審に思われるから止めよう…挨拶よ挨拶。

「本日は、素敵な1日でございましたわ。…陛下の名代のベック伯爵にエスコートされた姿も絵になりましたが、やはりアルヘルム様とお2人並んでいるのがよくお似合いでしたわね ウェディングドレスの時もでしたが、お着替えされたあのはちみつ色のドレスだと、陛下の黒とアデライーデ様の金がお互いよく映えて…絵師をお呼びしていて良かったと思いますわ。今から出来がとても楽しみですわ…。アデライーデ様?」

マリアは、足を重点的にマッサージしながら今日の感想を熱心に喋っていたが、疲れていたアデライーデには心地よい子守唄にしか聞こえず、すぐに眠りについていた。

「やっぱり、すぐにお休みになりましたね…ベッドでマッサージして良かったわ。あのままではお風呂で寝入ってしまいそうでしたからね」

マリアはそう言うと、アデライーデの夜着を整えアデライーデにお布団をかける。

「ご結婚おめでとうございます。そしてお休みなさいませ。良い夢を…」

アデライーデは、ラベンダーの香りに包まれて眠っていた。