軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

51 小径

「暇だわ…」

午後のベランダで、ぼーっと庭を眺めながら陽子さんは途方に暮れていた。

昨日はアルヘルムとお食事をした。その後マリアとお散歩もした。

今日は何をしよう…またお散歩に行くべきか…

ちらりと見ると、マリアはドレスのお手入れで3人のメイドさん達は手分けしてお掃除をしている。

--良いな…楽しそう。やる事あるって良いことよね。

朝、マリアにこっそり「お掃除でも手伝おうかしら?」と提案してみたら、怖い顔で絶対だめです!と怒られた…。

マリア曰く、 主(あるじ) が部屋の掃除をするなんてメイド達の仕事がなっていないと暗に言うようなもの。メイドにとっての侮辱、下手をすればメイド達はクビになるかもしれないのですよと、こってり怒られたのでもう言えない…。

しょぼんとしていると、「それでは汚れを見つけたら教えていただければ…」とマリアに言われたが、障子の 桟(さん) を指でつつっーとして「あら、嫁子さん、ここにホコリが…」と言う古典的なお姑様のイメージしか浮かばなかったので、丁重に辞退した…

暇なのよーと言ってみたら、「では、刺繍でも…」と言われ、やる気もなく(陽子さんは針仕事はかなり苦手)針を持ってみたら…

刺繍職人ですか?と、言うくらい素晴らしい茶色のうさぎの刺繍があっと言う間に出来上がっていた…

すごいわね…アデライーデってどれだけ刺繍をしてきたんだろう。

この世界では刺繍って、貴婦人の嗜みらしいし、みんなすごいわね…

私なんてせいぜい体操服のゼッケンをつけるくらいだわ…それもすぐにアイロンゼッケンにしたくらいだもの。

陽子さんは、刺繍枠からうさぎの刺繍のハンカチを外すと刺繍箱の引き出しを開けた。

--あ。これ…持ってきちゃったわね。

刺繍箱の引き出しの中にフローリア帝国の紋章にぐるりと蔦の刺繍がされた

ハンカチを取り出した。

そのうち、手紙と一緒に送ろう。

きっとアデライーデが陛下の為に刺繍したのだろうから…とそっと引き出しにしまった。

「アデライーデ様、何を刺繍されたのですか?」マリアは興味津々で尋ねてきた。

「茶色のうさぎよ」

「まぁ、かわいいですね」マリアはハンカチを見てわらうと「アデライーデ様、アルヘルム様に何か刺繍されたら如何ですか?」と勧めてきた。

「そうね…そのうちね」と答えて、うさぎは引き出しにしまった。

--テレサ様は良い気持ちにはなれないだろうしね…。

マリアは悪意なく言っているんだろうが、陽子さんは家庭不和の原因になりかねない物を贈るのは気が引けた。

午前中はそれでも、何とかうさぎで時間を潰せたが午後は丸々予定なし。

--気軽にウィンドウショッピングと言う訳にもいかないしねぇ

こっそりお忍びって聞くけど、流石に直ぐには無理よね。

貴婦人は基本料理はしないらしいし、家事もしないなら日中は何をするのかしら…刺繍?素晴らしい物ができるけどしたいわけではないし…

貴婦人と言えばお茶会や社交?……人付き合いってそんなに好きじゃないのよねぇ、むしろ苦手……できるだけご遠慮したいわ。

政治?……無理無理。論外だわ。

乗馬や狩り? 乗馬は観光地で馬に乗ったことあるから引いてくれるならいいけど、狩り?鷹狩?それとも弓を使うのかしら…当たらない自信しかないわ。

ひとしきり悩んでみたが今できる事といえば…

--やっぱり、お散歩に行こう。

紅茶を飲み干すと、マリアを伴い庭に出た。

帝国の庭園も広かったが、ここの庭もなかなか広い。

木立もあって、散策するにはいい感じだ。

小鳥やリスもいる。

木漏れ日の落ちる小径を、ゆっくりと歩く。

--薫たちが小さい頃、よく自然公園に行ったわね。懐かしいわ。

陽子さんが思い出に浸っていると脇の茂みがザザッと揺れ何かが飛び出してきた。

--鹿??

「あっ!」

飛び出してきたのは鹿ではなく、葉っぱを頭につけたフィリップだった。