軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

471 うどんとミートソース

こねこねこねこね…

今日もキッチンで、陽子さんは小麦粉を捏ねている。

来たるべき昆布の到着に向けて、準備をしなければならないからだ。

予想通り、ステンは昆布を知らなかった。

めげずに、それじゃとノアーデンの海藻事情を聞いてみると、ノアーデンもバルクと同じで海藻類は食べられていないらしい。

ただ、浜に打ち上げられた海藻は乾燥させて 竈(かまど) の焚き付けに使ったりしているという。

ノアーデンの海藻にはどんな種類があるのかとアデライーデに詰められて、ステンは焦った。だって、海藻は子供の遊び道具か焚き付けなのだから、それ以上の事は答えられない。

「内陸育ちのアデライーデは海のものにとても関心を持っていてね。何にでも興味を持つんだ」

国王様はそう言って笑うが、正妃様を止める気はないらしい。

答えに窮したステンは、自分は詳しくないのでノアーデンに戻ったら海藻をいくつか採って送ると申し出たのだった。

ー絶対絶対、荷物の中に昆布がありますように!

昔、テレビで北海道や東北地方に「拾い昆布(寄り昆布)」という伝統的な漁法があると放送を見たことがある。

ーサーモンが獲れる国なんだもの。昆布だってあるはず!

ノアーデンに昆布があると陽子さんは固く信じている。ほぼ念じているに近いものがあるが。

ー昆布があればお出汁が作れるのよね。これから寒くなるし、お出汁があって魚醤があれば…ふふっ。あったかいおうどんが作れるじゃない!

まだ昆布が手に入った訳でもないのだが、陽子さんの野望は膨らむ。ただ陽子さんは、大まかな作り方はお料理本からの知識で知っているが、実際にうどんを打ったことがない。

だから昆布が手にはいる前にうどんの研究をしようと、毎日小麦粉を捏ねているのだ。

うどん粉は中力粉と知っている。本には中力粉が手に入らない時は、強力粉と薄力粉を同量混ぜるとあったのは覚えてた。

だからフラムクーヘンを作る強力粉とケーキをつくる薄力粉を混ぜて中力粉を作った。

問題は塩水の配合とこね具合だ。

塩加減はマリアに記録してもらいながら、試行錯誤でうどんに丁度いい塩梅を探り出す。

帆布を用意して貰って、あのうどんのコシをつくる「あし踏み」も試してみた。

マリアに、ものすごく眉を寄せられて「裸足は、はしたのうございます」と止められたが、踏むのが結構楽しくて「大丈夫よー。マリアしかいないでしょ?」と、言っていたら翌日マリアから聞きつけたレナードに「寝室以外での裸足はなりませぬ」と怒られた。

陽子さんには解せないが、この世界の淑女的にはダメなことらしい。

渋々それなら靴下を履くと言ったが、それも却下されて「代わりにパン職人に捏ねさせます」と言われ、上腕二頭筋がムキムキのパン職人が、最初のこねこね以外をやる事になった。

ーむぅ…

納得はしなかったが、これ以上ゴネてうどん作りを止められたら元も子もない。パン職人の力強いコネにうどんのコシを託すことにした。

ボソボソになったり固くなりすぎて失敗したのは、賄いのシチューやスープにちぎって入れてもらい、うどんになれなかった塊は、離宮のみんなのお腹に収まる。

そんなこんなが2週間程過ぎた頃、コシのある四国のうどんに似たうどんが出来上がった。

ー馴染みのあるやわやわうどんも好きなんだけど、コシのあるうどんも好きなのよね! なんで私、今までうどん作ろうと思わなかったのかしら。うっかりしていたわ。

ティーカップに、釜揚げうどんならぬ鍋あげうどんを入れて魚醤をかけ、おろし生姜をちょっと入れてお箸でちゅるちゅると頂いた。

美味しい。

つるつるもちもちでコシのある、おうどん。

ものすごく懐かしい味を噛みしめ、喉を通る心地よい滑らかさにうっとりする。久しぶりのうどんを堪能し二杯目のうどんを取ろうとして、ふと気がついた。

同じテーブルではアルトとマリアが食べにくそうにフォークでうどんを巻いている。

「食べてみて、どう?」

「生姜と魚醤で、小麦の味が際立ちますね」

「…美味しいです」

ーあー、多分…二人とも、それほど美味しいと思ってないわね。

ティーカップのうどんをフォークで食べる食べにくさもあるが、二人とも箸…いやフォークが進んでない。

ーうどんに浮かれてて、配慮が足りなかったわね。

アルトはともかく、マリアは魚醤が苦手である。唐揚げの下味として使うのは大丈夫だが、今日は少量とはいえ、直接うどんに魚醤をかけている。多分ちょっと…いや、かなり無理をしているっぽい。

アルトもマリアを気にしているのか、ちらりと見ている。

試食はもう終わりにしましょうと、声をかけようとした時、アルトに声をかけられた。

「アデライーデ様、他のソースでも試してみて良いでしょうか」

「え? ええ、良いわよ」

「ミートソースがありますのでお持ちします。マリア様もいかがですか?」

「あ、はい」

そう言うと、アルトはさり気なくほとんどうどんが残ったマリアのティーカップを自分の方に寄せた。

ーアルト、紳士ね。フォローありがとう!

アデライーデの顔を潰すことなく、魚醤が苦手なマリアからさり気なくティーカップを遠ざけ、マリアの好物のミートソースをアデライーデに勧めた。

場の収まりは自然で、アルトはアデライーデの顔もマリアの立場も守ったのだ。

「美味しいです!」

先程とは違い、本当に美味しいという顔をしてマリアは半熟たまごがのったミートソースうどんを口に運んでいる。

アルトのマリアを見る目が優しい。

「マリア殿はトマトソースもお好きでしたので、どちらにしようか迷ったのですが、良かったです」

アルトがそう言った時、ノアーデンから荷物が届いたとレナードが告げに来た。