軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

451 思惑とホール

「ねぇ、マリア。舞踏会の主催って私した事ないんだけど、大変なんじゃない? 軽いお食事会の方が…」

「お食事を伴う賓客のお招きより、舞踏会の方が敷居は低いかと思いますわ」

何でもマリアが言うには、外国の貴賓相手に正式な晩餐会を開催するには主催する 女主人(ホステス) の采配の熟練度がかなり必要らしい。

各人の好みや相手国の禁忌の食材を考慮し、かつ自国の食材を使ったメニュー構成、それに見合う食器の選定、メニューに合わせたワイン選び、部屋に飾る絵画や楽士達が演奏する曲目などだ。

当然、晩餐会の間の話題も主催の女主人がその場の会話の流れを見つつ、リードする事を求められる。

もちろん舞踏会でも軽食や飲み物を用意する際に注意する点は同じだが、少人数で常に会話が続く着座より気楽で客がダンスを踊る時間分、女主人の負担は少ないとマリアは推した。

貴族令嬢達は年頃になると、母親が監修しながらまずは身内や派閥の令嬢達を招き小規模な茶会を催して茶会の作法を教える。婚家では、義母が主催する晩餐会の手伝いをしながらその家独特の細かい約束事を学び次期当主夫人としての経験を積むのだ。

マリアは帝国でカトリーヌや他の皇女に就いていた時にその大変さを侍女として経験しているが、アデライーデにはそういう経験はない。

アデライーデが王宮でアルヘルム達を招いてやった晩餐会や午餐はあくまで身内相手の内輪なものだった。メニューのアイディアは出したが、他のものはアルトや王宮の方たちに丸投げしていたからだ。

無論、この離宮は先王達が各国の要人を招いた場所でもあるし、先王に仕え離宮での晩餐会や午餐会の経験のあるレナードや王宮の料理人だったアルトがいるから的確なサポートは期待できる。晩餐会をやってやれない事ではないかもしれない。

でも…。

「そ…うね。舞踏会…良いかもしれないわ」

マリアの説明にアデライーデは、頷いた。

マリアの説明を聞いていて、陽子さんは中学生の時に母方の本家の法事に呼ばれた事を思い出していたからだ。

菩提寺での弔い上げ(三十三回忌)の法要後、本家の広間では襖が取り払われ、仕出しの足付き膳のお 斎(とき) が二の膳まで並んでいた。

セーラー服を着て足の痺れを誤魔化しながら正座していた陽子さんの隣で実家の女紋の喪服を着た母が言うには、こういう法要は本家のお嫁さんが全て取り仕切っていて、法要の日時調整やお寺との打ち合わせに始まり、庭木の手入れの為の植木職人さんの依頼や広間の準備、タクシーやお斎の手配、お手伝いの方々への細々とした指示が本当に大変なのよと小声で教えてくれた。

確かに席にほとんど着くことなく、上座のご老人達の間を周り挨拶をしていて子供心に大変だなと思って、精進料理を口にしながら本家のお嫁さん…母より年上で貫禄のある 大伯母(おおおば) を眺めていた覚えがある。

現代ではほぼ見なくなったが、当時の田舎の本家では割と見る光景だった。

あれと同じ事をやるのだ。

現代では正統派の結婚式がそれにあたるのだろうが、それすら面倒だと逃げ出した自分に上手く采配できる自信はない。

ーフォルトゥナガルテンのお披露目の席もその後のお茶会もテレサ様が全て取り仕切っていて、私はほとんどお客様状態だったものね。

本来の舞踏会は夕方から深夜まで催され、それに伴い宴半ばには重めのプレートも出されるとマリアは言っていたが、フィリップとリネアがメインの舞踏会であれば、さほど遅くない時間にお開きと決めればいい。

晩餐会前には早めの軽い食事を済ませると聞いたから、用意するものは軽食や菓子がメインとなるだろうし、王宮のメニューとダブらなければ何とかなると陽子さんは判断したのだ。

「じゃ、舞踏会はどうかとアルヘルム様にお返事を書くわ。マリア、お手紙の用意をお願いね。あとなにか冷たい飲み物を持ってきてもらってもいいかしら」

「承知いたしました」

そう言って下がるマリアとレナードを見送って、アデライーデはミア達にバルクの舞踏会はどのようなものかを聞き始めた。

「マリア殿。舞踏会の提案、ありがとうございます」

廊下に出てすぐにレナードはマリアに礼を言った。

「いえ、アデライーデ様に着飾っていただく数少ない機会ですので」

そう言ってマリアは微笑む。

確かに舞踏会を勧めたのはアデライーデを着飾らせたいという個人的な欲望が原動力だが、初めてのアデライーデ単独主催の外交デビューをできるだけ負担の少ないものにしたいというのも本当の気持ちである。

そう。

アデライーデは気がついてないと思うが、今回の離宮へのノアーデン王太子夫妻とリネア王女の招待は、歴とした外交なのだ。

書斎にお手紙セットを取りに行くマリアと別れ、レナードは二階の階段の上からホールを見下ろす。

マリアの提案は、レナードの懸念にとっても都合が良かった。

現社交界を取り仕切っているテレサと、公式な催しを主催した事のないアデライーデの女主人としての力量差は否めない。

豊穣祭の後、数日のうちにテレサ主催で各派閥の夫人達を交えた午餐会が予定されていると手紙にあった。

対して、正妃であるアデライーデが将来の王太子妃であるリネアを離宮に呼んで歓待するのに、今のアデライーデでも主催できるであろう茶会ではもてなしのバランスに欠くと思っていたのだ。

かと言って、同じ午餐会では比べられる。

午餐会より舞踏会の方が格が高いが、舞踏会が初めてであろう年少者のリネア達向けに合わせたものとするならば、午餐会とも格があう。

「またここで舞踏会を開く事になるとは…思っておりませんでした」

そう呟くとレナードは目を閉じ、最後に離宮で開かれた舞踏会を思い浮かべた。