軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

427 カリルとカレー粉

ーカレー粉が手に入ったら、またいろんなものが作れるわ! あ、でも、待って。そもそもカレー粉ってスパイスは無いのよね。確か、あれって食品会社が独自にいろんなスパイスを混ぜたものだったはず…。

陽子さんは、家にあった◯スビーの赤いカレー粉缶の裏の成分表を必死で思い出そうとして頭を捻る。

ーえっと…ターメリックとクミンと…コリアンダー? あとは…うーん。思い出せないわ…

まぁ…普通カレー粉缶の裏側なんて滅多に見ない。

それに陽子さんも普段カレーを作る時はお気に入りのメーカーのカレールーを使う。カレー粉と小麦粉から炒めて作るカレーは小学校か中学校の調理実習で作ったくらいだ。

陽子さんはお安い鶏むね肉のカレーガリバタ焼きや残りご飯で作るドライカレーを作る時にカレー粉を使っていた。

ーカレーガリバタ焼きはこの世界でも作れるわね。まずは…カレー粉を作るところから始めないとね。

と、早速カレー粉製造計画開始の鐘が頭の中で鳴った。スパイスがないからと諦めていたカレーへの執着が、陽子さんの心にめらめらと湧き上がってきたのだ。

「他にも独特な香りのするクミンという香辛料やレッドペッパーと呼ばれる胡椒のような辛い香辛料がありました。こちらはレッドペッパーと呼ばれるものです」

「まぁ…」

ターメリックを見つめ、にまにまと笑うアデライーデにゲオルグが次に手渡した小壺の中には見慣れた赤い粉があった。

ーやったわ! とりあえずカレー粉に最低限必要なものは揃ったわね。

アデライーデは布やタイルにも目を輝かせたが、香辛料を見せた時のアデライーデの目の輝きは明らかに違う。ゲオルグはそんなアデライーデを見てくすくすと笑った。

「ズューデンではこちらのターメリックやレッドペッパーを使った辛くてスパイシーな料理が主流でした。私は美味しいと思ったのですが、使節団の中には辛さに馴染めず少し苦労した者もいたようです」

「食べ慣れないものを毎食だと、確かにお辛いですね」

ゲオルグの話にうんうんとアデライーデは頷いた。

ー食べ慣れない人には香辛料たっぷりの現地料理のインパクトは大きいわよね。日本で食べるエスニック料理もほとんどは日本人好みにローカライズされてたっていうし。

陽子さんもエスニック料理好きだが、以前現地の味そのままという店で出された料理で辛すぎたり、馴染めない香辛料がたっぷり使われていて躓いたことがある。

ーはっ!

「ゲオルグ様。ズューデンの主食は何でしたかっ」

控えているつもりだったが、多少食い気味にアデライーデはゲオルグに尋ねた。

この大陸にはないが、もしかしたらズューデンにはお米があるかもしれない。あってくれと願いながら陽子さんは前のめりになる。

「主食ですか? ズューデンの主食は小麦で作った薄いパンでした」

「薄いパン…」

がーん。初っ端からお米への期待がくじかれた。

「ええ、ズューデンの王宮ではナンと呼ばれる温かなふわふわのパンをちぎって、いろいろな具材別のカリルというソースにつけて食べていました。見た目は大きいのですが、ぺろりと食べられる軽さがありましたよ」

「しょ…庶民の方は?」と、陽子さんは食い下がる。

「庶民はチャパティという薄いクレープに似たものでしたね。全粒粉で作られていて素朴でしたが美味しかったですよ」

ーくぅ…無いのかしら。いや…まだ諦めないわ! お米って名前で売られてないだけかもしれないし…

それからアデライーデはゲオルグに市場で売られている食べ物の話を詳しく聞きだす。市場にはどんな穀物や香辛料が売られていて、それらの形や色を聞き出し小粒で白い色をしたものがないかをだ。

ゲオルグは使節団の使者たちとズューデンで再会したユシュカ商会のナジーン会頭に案内され、王宮の役人だったら案内しないような下町の庶民の市場もいくつか回ったという。

ユシュカ商会はバルクがズューデン国でのクリスタルガラス製品を扱う許可を与えた商会の1つだ。そんな彼らと回ったゲオルグの口から、最後までお米の話はでなかった。

ーんー。…ゲオルグ様の話を聞く限り、お米っぽいものは無いみたいね…。

非常に残念だが、ズューデンの市場に米は無かったようだ。だがしかし、諦めたらそこで試合は終了だ。

「アルヘルム様。私、ズューデン大陸の食文化にとても興味を惹かれましたわ。レシピを研究したいです。特に穀類を…」

「穀類? 香辛料でなく?」

アルヘルムとゲオルグは意外なアデライーデの言葉に首を傾げる。

現代のタンカー船に比べてこの世界の船の積載量は小さい。陸路ならともかく、少量でも大きな利益を産む宝石や香辛料の方に注目するのが船を使った交易の定石なのだ。

「珍しい香辛料も大事ですが、穀類です。主食は大事ですのよ。主食によっておかずは変化しますもの」

えっへんと胸を張って答えるが、それは陽子さんにとって…である。

このおねだりはこの世界での陽子さんとお米との出会いの正念場だ。アルトはこの大陸で米のようなものは聞いたことがないと言っていた。

ズューデン大陸はこの大陸の南で、気候は元いた世界の中東やインドに近いと思う。だったらズューデン大陸のどこかでお米を栽培している可能性はゼロじゃない。

「そうだな。香辛料もだが、今後も使者たちに珍しい穀類があったら手に入れるように指示しておくよ」

「ありがとうございます!」

目をキラキラさせてアルヘルムに感謝するアデライーデを見てゲオルグは笑いながら懐から数枚の紙を取り出した。

「そうそう、義姉上にこちらを」

「これは?」

「さすがにズューデン王宮料理のレシピは手に入れられなかったですが、カリルのレシピは手に入れておきました」

そう言って手渡された紙にはナジーン会頭の家のカリルのレシピが書いてあった。