軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

405 穏やかな尋問と遣い

「そう、それでリネア姫とはどのようなお話をしたの?」

親子三人でのお茶の時間は、テレサが口火を切った。

「いろんなお話です! ノアーデンでは平民だけでなく貴族女性も剣術をされるそうです。リネア姫の毎日の鍛錬は私とあまり変わらなくて驚きました。あ、それに去年船上での鍛錬もされたそうなんです。父上、私も今度船上での鍛錬というものをやってみたいです。あ、でもリネア姫は、まずは船に乗って酔わないかを確かめた方が良いと………」

フィリップの話が止まらない。

テレサはにこにこと、「そう」「まぁ、それで?」「あら」の3単語を駆使してフィリップに喋らせ、アルヘルムはただ黙って微笑んでいた。

ナッサウがオレンジスカッシュのおかわりをフィリップに出した頃、フィリップがテレサに尋ねた。

「バルクでは剣術をされる令嬢は居ないのですか?」

「さぁ、どうかしら。家にもよるかも。軍閥の家門だと手ほどきくらいはするかしら」

「母上もですか?」

テレサは軍閥の家の出身だ。フィリップも時々将軍であるテレサ方の祖父母達にも会っている。だがそれも年に数度の挨拶程度だ。

家訓の「軍閥が王家と血を理由に近寄りすぎてはならない。軍閥はあくまでも王の剣であり臣下である」との考えの下、薄い付き合いでフィリップはテレサの家の事をあまり知らなかった。

またテレサも実家の事をあまり口にせず、フィリップも将軍家の事は家庭教師のゲルツから聞く以上は知らない。

「ええ、剣術と馬術の手ほどきくらいは習いましたよ」

「え?! 本当ですか?」

そんな話は初めて聞いた。目の前の母が剣を持つ姿など想像できない。いつも優雅に笑って座っているか社交の中心にいて、扇を持っている姿しか見たことがなかったからだ。

「でも、剣術はからきしで早々に見切りをつけられたわ」

テレサはくすりと笑いながら、ティーカップを手に取った。

「え!」

「でも、馬術はなかなかのものだったぞ。多分バルク女性の中でも1、2を争う手綱さばきのはずだ」

「ええ!」

アルヘルムが笑ってそう言うと、フィリップは驚きテレサは頬を赤らめた。

「いやですわ。陛下。もう10年以上昔の話ではありませんか」

「一度身についた馬術だ。少し乗れば感覚はすぐに戻るさ。どうだい、今度オリスに乗ってみないか」

「ありがとうございます。そのうちにでも」

大好きだった乗馬もアルヘルムの婚約者となってからは、たまにアルヘルムから遠乗りを誘われた時以外は控えていた。嫁いだ後はそれもぴたりと辞めた。

いつアルヘルムとの子を授かるかわからないからだ。王家に嫁いだ以上何より王家の子を産む事が求められる。乗馬で子を流す事などあってはならないからだ。

幸いにも嫁いですぐにフィリップを授かった。悲しい出来事もあったがカールとブランシュを授かり、日々の政務や社交と、気づけば10年以上手綱に触ってない。

ー子供達がもう少し大きくなったら…。そうね。フィリップが立太子でもしたら、また始めてもいいかもね。

そう思いつつ、アルヘルムの言葉にテレサは笑って応えた。

初めて聞く自分の知らない母親の一面にびっくりしていたフィリップに、テレサは微笑んでさらにリネアの事を聞いてきた。

「リネア姫も乗馬はされるのかしら?」

「あ、はい。されると聞きました。今回の招待の記念に、ライエン伯爵の馬の中から、初めてご自分の馬を選んでいいとお父上に言われたと話していました」

ちょっと羨ましげにフィリップは答える。フィリップはまだ大人が乗る馬ではなく、それより少し小さめの馬に乗っている。

確かにリネアは1つ年上で、背も自分より少し大きいから仕方ないのかと思いつつ、自分もリネアと同じように大人と同じ馬が欲しいなと、ちらりとアルヘルムを見た。

「確かに王太子殿下も、仔馬を吟味されると話していたな」

そう言ってアルヘルムは、ちらりとテレサを見る。テレサはアルヘルムの視線を受け、ナッサウをちらりと見た。

ナッサウはテレサの視線を目の端で受けたが、表情を変えなかった。それを確かめてからテレサはアルヘルムに微笑みを返した。

「そうだな…。フィリップもそろそろ新しい馬が必要だな」

「父上! 本当ですか?!」

フィリップが飲みかけていたオレンジスカッシュのグラスを置いて、アルヘルムに確かめた。

「あぁ、近いうちに一緒に選ぶか」

「やったー」

アルヘルムの言葉に喜ぶフィリップは、ナッサウに 窘(たしな) められたが、そんな事は気にならないくらいの嬉しさを抱いて部屋に帰っていった。

「なぜ、フィリップはあのような挨拶を?」

フィリップを部屋まで送ってきたナッサウに、居間に残っていたアルヘルムが問うた。

「『正式なご訪問』時に淑女とお別れをするご挨拶とのご認識でした」

「今までも何人かの令嬢や王女との別れの挨拶の時には普通だったが?」

「それは、今までのようなごく短い交流時間だったので、その時と同じ挨拶をされたそうです」

「ふむ。庭園での様子はどうだった」

「大変和やかに楽しそうに、剣術と虫取りや魚捕りのお話をされておりました。フィリップ様のお話通りでございます」

「で、お前の『感想』は?」

「よろしいかと。お付きの女官殿は色々とご心配されていたようですが、フィリップ様にその心配はないかと思います」

内内(ないない) とはいえ、打診を出す以上は下調べをする。ノアーデン国王家の気風やリネアの事もその両親の事も下調べ済みだ。

ノアーデン国だけではなく、今回フィリップと顔合わせをした他の相手達もである。

どの相手と縁を結んでもバルク国としては問題のない国や貴族だった。その上でフィリップと相性の良さげな相手を庭園へと誘わせるように指示したのはアルヘルムとテレサである。

そして、その判断はナッサウに任せた。

本人だけでなく、そのお付きの者達にもナッサウは注意深く目を配った。お互いの親の目がない場で、本人と使用人達だけの時に見せる僅かな物言いや雰囲気を吟味し、ナッサウがフィリップに庭園へと招くように声をかけたのはリネアだけだった。

「どう思う?」

「私もよろしいのではないかと思います。フィリップが、あのように楽しそうに話すご令嬢はアデライーデ様以外初めてですもの」

翌日、ライエン伯爵領へ馬をみたいとの打診の使者がバルクより遣わされた。