軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

371 ジャイヴォロノクとうさぎ

「そうか。テレサ様に任せておけば、まず間違いないだろう」

タクシスは、こほんと咳払いをしてグラスに口をつけた。

「ところで国外からの招待客なんだが、、」

グラスを置いてタクシスはサイドテーブルから招待客リストを手に取った。

「あぁ。決まったか」

「まずは帝国をはじめ国交のある近隣の王族に招待状を送る。あとの招待状は各国にそれぞれ任す。どう使うかはそこの国の使い方次第だ。上手く使うだろう」

今回、バルクは各国の王族宛にフォルトゥナガルテンへの招待状を送る。そしてそれ以外にも数枚の招待状を同封し「ご推薦の方々へ」と添え状をつける予定だ。

来年からは新年の挨拶の使者に招待状を持たせるが、今回の急な招待に各国の王や王妃がバルクに来る可能性は低い。まずは王太子夫妻や王弟夫妻などの王族が王の名代としてやってくるだろう。

あとは、「ご推薦の方々へ」の招待状でその国の有力な貴族がやってくるはずだ。その招待客からフォルトゥナガルテンの噂はその国の貴族社会へ、そしてゆっくりとバルクと直接国交の無い各国に広がっていくとアルヘルム達は考えている。

「失礼致します」

ナッサウが小鳥と白うさぎが並んだ銀のプレートと茶を載せたティワゴンを押して執務室に入ってきた。

小鳥を模した白パンのお腹には黄身が多めの濃厚なカスタードクリームが詰まっていて、うさぎの形に焼いたフィナンシェには粉砂糖が振ってあった。

「こちらは菓子職人が試作しましたフォルトゥナガルテンの持ち帰り用の菓子でございます」

ナッサウはそう言って、小鳥とうさぎを二つずつプレートに盛りアルヘルムとタクシスの前に差し出した。

「ずいぶんと可愛らしいな」

「ご婦人用でございますからね。男性向けにはメロンパンを海ガメに見立てて作るそうでございます」

ナッサウはティカップに紅茶を注ぐ。

「招待客はフォルトゥナガルテンを体験し、そこで扱われているガラス製品を実際に手にとる。手に取れば我が国と商取引を結びたいと考えるはずだ」

アルヘルムは小鳥のパンを手に取るとぱくりとかぶりついた。アルヘルムは頭から食べる派のようで、中にたっぷり詰まったカスタードクリームが垂れないように上手に食べている。

「うむ。美しい我が国のガラス製品を最高の舞台で、他国の王族や高位貴族に売り込める絶好の機会だ」

タクシスはお尻から派のようで、がぶりと小鳥のお尻にかぶりついた。

ーこいつ、昔から変わらないな。

小鳥のパンはバルクでは春を告げるパンで、春の花が咲きはじめた頃に小鳥を模したパンを作って春の訪れを祝う。

幼い頃のタクシスは「目が合うとかわいそうで食べられない」と言ってお尻から食べていた。どのみち食べてしまうのだが、それは今も変わらないようだった。

少年がそれをするのは可愛いが、今はいい年をした強面の男が目の前で小鳥のお尻にかぶりいている図はちょっと笑える。

「しかも、相手からその舞台に飛び込んできてくれるのだ。こんなチャンスを逃す手はない。そうだろう?」

タクシスは、齧りかけの小鳥パンの頭をぐっとアルヘルムに突き出して問うてくる。

「ふっ。そうだな」

腹筋が震えるが、何とか誤魔化した。ちらりと横を見ると同じ光景を見ているはずのナッサウはポーカーフェイスで微動だにしない。流石である。

「そう言えば、王族でも一つの家で一つしか選べないようにするのは変えないつもりか」

「そのつもりだ。自国の王族がその妖精の決まりを守るなら、その国の貴族も決まりを守らざるを得ないからな。破るなら自国の王族の顔に泥を塗る事になる。自然と推薦する貴族はそれなりのモラルと遊び心の分かる人選になるはずだ」

タクシスはうさぎのお尻に齧りつきながらアルヘルムの問いに答えた。

「よろしいでしょうか」

「なんだ」

それまで黙って二人の話を聞いていたナッサウが、アルヘルムに発言の許可を求めた。

「ご婦人が最後まで二つの物を迷われた場合ですが、選ばれなかった物を後日『妖精からの贈り物』と称してお届けになるのもよろしいかと」

「王族に限り…か?」

「さようでございます。ご婦人の笑顔やお願いに夫は弱いものでございます」

ナッサウはそう言って、二杯目のお茶の用意を始めた。

「特に、北のノアーデン国の王太子ご夫妻は仲睦まじいとお聞きしております」

「ふむ」

大陸の北側にあるノアーデン国は、今度バルクが沿岸警備を補強する為、軍船を数艘依頼しようと打診をしている小国だ。

寒い気候のためトナカイや乳牛、羊などの畜産とその関連産業が盛んで、あとは高い造船技術を誇る国である。

「ところで、お前の舅様は招待に応じるかな」

タクシスが今回の招待での一番の懸案事項を口にした。

「どうだろうな。皇帝陛下が帝国の地から離れる…とは聞いたことがないな。ナッサウはあるか?」

「いえ、私の記憶にもございません」

「……皇后陛下は?」

「公式には…無いと記憶しております。ただ先の大戦では皇帝陛下の名代で、帝国内で何ヶ所か 行啓(ぎょうけい) されております」

「ふむ」

「いずれにしろ他国の事でごさいます。我々が知るには限りがあるかと」

「そうだな。返事を待つか」

アルヘルムはそう言うと、うさぎのフィナンシェを頭からかぶりついた。