軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

370 賢き守護人とお忍び

「次は、姉妹か女友達で楽しみたいからよろしく」

陽子さんが聞けば「わかるわぁ。女同士の旅行とか飲み会って、家族のそれとはまた別物の楽しさよね」と激しく同意するだろう。

メラニアも囁かれた意図を察して「ご一緒されたい方はどなた?」と囁き返している。

「普段マナーに煩いご婦人方に、妖精の言葉遣いが好評だったのは意外だったな」

「あぁ、大抵のご婦人方はほとんどお忍びができないからな。フォルトゥナガルテンでの体験は新鮮だったんだろうな」

貴族男性のお忍びには身分の高低を問わず将来領主となった時や文官となった時の実情把握の為、貴族籍を離れ平民になった時の為にと、名目をつけて出かけられる。

だが、高位貴族の女性、特に未婚の女性はほとんどお忍びができない。結婚までの外出先は国か貴族主催の夜会か茶会と親族の家か親しい友人の家くらいだ。

買い物も、商人たちが彼女達の好みを見繕って家にやってくる。

それ以外の外出は母親と一緒の孤児院への慈善訪問か、貴族専用の看板を掲げる派閥の店か婚約者の家が持っている商会に同伴してもらうくらいがせいぜいである。

身分が下がるにつれ、その縛りは緩くなる。嫁ぎ先が同じ下位貴族か平民になる為だ。逆に玉の輿を狙う家の令嬢は下位貴族でもお忍びはしなくなる。

もしお忍び好きだと噂が流れたりすれば、玉の輿がダメになるからだ。

逆に子どもを数人産んだ夫人は、夫が目を瞑るなら少し自由になる。

テレサはまだ令嬢だった頃にお忍びをしているが、それは「将来の国母として庶民の生活を知る為」という王妃教育の一環として行われた。

「今後は、奏者や芸術関係でも人の育成をせねばな。王宮が空っぽになりそうだ」

「うむ、将来に向け祐筆文官のように民間から登用も考えねばならんかもな」

苦笑するアルヘルムにタクシスは、同意しながらアルヘルムのグラスに蜂蜜酒を注ぐ。

庭妖精や楽しい広場の妖精は貴族専用の劇団員から、音の妖精は王宮所属の音楽団から、旗妖精や守りの妖精は軍からその志願者をそれぞれ募り、身元もだが容姿や口の固さを吟味した上で、採用している。

「そうだな。特に奏者は掘り起こせば音楽の才能を持つ元貴族の子女が眠っていそうだ」

アルヘルムは、そう言って蜂蜜酒に口をつけた。

「うむ。楽器は文字以上に訓練がいるからな。ところでテレサ様のお忍びはもう終わったのか?」

「いや、まだだ。今回の招待の最終日まで続けるようだ。私とはその後にして欲しいと言われたよ」

アルヘルムは苦笑いで、そう応えた。

テレサはフォルトゥナガルテンの守りを楽しんでいた。フォルトゥナガルテンは夜に開かれる。そして国内外の貴族が訪れる場所だ。当然外からの侵入者に対しての警備が重要になる。

外からの侵入者に対してもだが、警戒対象は招待されている貴族達も含まれる。事故や怪我もだが、庭の雰囲気に気が緩み、ついつい行き過ぎてしまう婚約者同士や一夜のアバンチュールを求める既婚者達もである。

「出会いがあるのも良し、仲を深めるのも良し。しかしここは王家の庭。節度は守っていただかないと」

テレサはそう笑って、フォルトゥナガルテンの配置図をティシュラー・ジマーマンと引いた。

ジマーマン家は建国以来、王宮や離宮の秘密の通路や隠し部屋の管理をしている家だ。新しい街もジマーマンとテレサが中心となって街の設計を担っている。

二人は楽しそうに死角のない設計図を引いた。そして夜に繰り返される妖精達の練習に何度も足を運び、図面上だけではわからない「抜け」を見つけに、仮面とウィッグをつけ庭妖精の衣装を着てお忍びをしていた。

「やっぱり図面上だけじゃだめね。あちこちにあるわ」

「確かに植えられた花や、樽や木箱などの置物の高さは設計図ではわかりにくいです。私としては庭の小道の高低差も大変興味深いですね。室内にはない視点です」

「対処だけど、樽は撤去させて花は刈り込ませた方がいいかしら? それともバラか 柊(ヒイラギ) でも植えさせようかしら」

「そこは景観を含めて、庭師と相談かと…」

二人の庭妖精はひそひそと話し合い、テレサは下げている蔦の籠から黒革の手帳を取り出し、メモを取っていった。

開園前にテレサとジマーマンは庭師と話し合い、刈り込みや植え替え、設置物の入れ替えを工夫させた。

どうしてもそれで対処できない所には、キノコを置き、怪我や腰痛などで勤めが厳しくなってきた王宮使用人からなる老人チームに、そこで焚き火を囲んでおしゃべりをしてもらうように配置し、死角を潰していく。

「楽しいですわ! こちらが思いもしなかった場所にいるんですもの。市街地の警備に役に立ちそうですわ!」

「とても勉強になります。初見で見回りの隙を突いてくるとは…若い方や情熱を持った方はさすがですね。我々とは違った視点観点をお持ちなのだと、考えを改めさせられました」

テレサは、警備報告があがるたびに開演後も嬉々として庭妖精に変装し、ジマーマンや 庭師頭(にわしがしら) を従えてフォルトゥナガルテンに夜のお忍びに出かけていくようになった。

フォルトゥナガルテンは、月の女神のような 守護人(ガーディアン) によって守られている。