軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

361 報告と聞き取り調査

「それで、帝国でのアメリーの披露宴はどうだったの」

「とても華やかで、温かく和やかな披露宴でございました。帝国の『瑠璃とクリスタル』は、バルクとはまた趣きの違った屋敷を使われていて、人気があるのも頷けます。給仕達もよく訓練されていましたな」

それでそれでと、アデライーデはレナードに土産話をねだった。

ややもすれば、業務報告っぽくなりがちなレナードの話の中からスイートな部分を「そこを詳しく!」「その時の二人の表情は?」「どんな風な雰囲気だったの?」と抽出し、「その時、コーエン優しく見つめていた?」足りない情報を具体例を出しながら聞いて補完しつつ、事情聴取を陽子さんは繰り広げた。

大抵の男性は、女性の聞きたいそういう部分をすっ飛ばす。聞きたい事は、こちらからグイグイと積極的に聞かないとダメなのだ。かつての雅人さんもそうだったように。

「今日の子供たちの様子はどうだった?」と、薫達を預けて一人でお出かけした時の答えはいつも「大丈夫だったよ」だった。

でも、薫がしっかり喋れるようになってから裏取りすると、全然大丈夫じゃなかった事の方が多かったからだ。

その時以来、聞きたい事ははっきり具体的に口にする事を心がけている。女性の聞きたい事やって欲しい事に大抵の男性は気が付かない。

こうやってお嬢さんは男性に、おばちゃんやお母ちゃんとして育てられていく。

中身がしっかりおばちゃんな陽子さんは、遠慮なく聞きたい事を聞いていった。

一緒にいたマリア達もレナードの話が「大変良い披露宴でした」で終わりそうになり、一瞬愕然とした表情になったが、アデライーデの微に入り細を穿つ「聞き取り調査」で満足いく話を聞けたようだった。

「はぁ…羨ましいですわ。愛するお方との結婚をみなに祝福されて『瑠璃とクリスタル』で披露宴を挙げられるなんて」

「バルクの…いえ、全貴族令嬢の憧れですわ」

いささか主語が大きいが、ミア達はこくこくと頷いていた。

「皇女様からの御下賜品のドレスを身に纏い、愛する方と『瑠璃とクリスタル』でみなに祝福されての披露宴。しかもバルクと帝国でだなんて、他の誰にもできない事です」

みんな心の中でアメリーとコーエンの幸せそうな姿を想像しつつ、こっそり二人を自分と自分の好きな小説の「推し」と引き換えて、うっとりと尋問されているレナードの話に聞き入っていた。

「良かったわ。詳しく聞けて。無事に帝国での披露宴も終わったのね。二人はしばらく帝国でゆっくりしてから帰って来るの?」

「はい、帝国でのシリングス夫人の思い出の場所を二人で巡られるそうです。その後にライエン伯領にできるシリングス卿の工房予定地を視察されてからの帰国となるそうです」

「ちょっと長い 新婚旅行(ハネムーン) なのね」

「はい、 一月(ひとつき) もすればお帰りになるかと」

「はぁ〜」と、皆からため息が溢れる。

王族も高位貴族も結婚式から3日ほどは仕事を休む。

裕福な子爵もそれに習うが、大抵の男爵は庶民と同じように翌日から日常が始まる。

結婚後、新婦は義母や新郎に連れられて茶会や夜会に出席し派閥内の親しい家へと挨拶回りをしたり、個別に下位の者を招いての茶会を催したりする。人付き合いの大事な貴族にとって、派閥の家への次代の夫人の顔繋ぎは外せない重要な仕事なのである。

それは地位が高くなればなるほど長期わたり、ゆうに数カ月はかかる。

なので、結婚後すぐに旅行に行くなどもってのほかで、大抵の新婚貴族にとって顔繋ぎが終わったあとに領地へ行くのが新婚旅行代わりとなる。

結婚後すぐに帝国を巡り、他領地に二人きりでいけるなんて事は滅多になく、ミア達は羨ましさにため息をもらした。

そんなレナードの帰国報告が済んだ日の午後、王宮から手紙を携えて使者がやってきた。

「あら、思っていたより早かったのね」

「何が早かったのですか」

手紙を見て呟いたアデライーデに、マリアが尋ねた。

「ガラスの街が完成したそうよ」

「え、もうですか?」

マリアは驚いて、お茶を注ぐ手を一旦とめた。

「まぁ…大きな建物は温室くらいだったものね。あとは小さな家ばかりだし、劇場は来年にこけら落としをするから、まだ建築中らしいわ」

「確かに貴族向け劇場は内装にも凝りますから、すぐにはできませんわね」

「来週あたりに植えたお花が咲き始めるから、一緒に見に行こうって書いてあるわ」

「まぁ…、それは念入りにお支度の準備をしませんと」

マリアがティカップを差し出しながらにんまりと微笑む。

アデライーデは、レナードが帝国に行っている間は村と王宮以外に外出しないと約束させられていたが、レナードも戻ってきたし、アルヘルムからのお誘いなので側にいるレナードも黙って聞いていた。

「あら、ドレスコードが書いてあるわ」

「珍しいですわね。どのようなドレスコードですか」

「白いドレスを贈るから、それを着てほしいって」

「素敵ですわね。白いドレスは結婚式以来ではありませんか。ドレスに合わせたお飾りを厳選しませんといけませんわね」

マリアは浮き浮きとしているが、陽子さんは心の中で

ドレスを汚さないかしらと、心配しながら手紙を畳んだ。