軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

351 ハイニーじいさんとアルト

「おはよう。レナードから大目玉食らったんだって?」

「ど…ど…どうして、アルヘルム様がここに?!」

昨晩、レナードからこってり絞られ寝たのはパン職人が起きてくる明け方前に近かった。

「元の場所に戻してきなさい」というレナードに「連れてかないで! この子たち……美味しいのよ!」と、ウニ達をかばいに庇って?、なんとか海に帰されるのは阻止した。

正妃様の奇行ーレナードにとってのーが外に漏れるのを防ぐ為、この件は警備隊長と発見者の兵士2名、それとレナードとマリアのみが真実を知る。

朝方ベッドに入って目が覚めた時には、とっくにお昼を過ぎていた。にこにこといつも以上に笑うマリアにお支度をされて居間に通されたら、上機嫌に笑うアルヘルムがいたのだった。

離宮に来てから1度も体調を崩した事のないアデライーデが、起きてこない。

レナードは、皆に「アデライーデ様は、少し海風に当たりすぎて体調を崩された」と説明してやり過ごそうとしたが、事情を知らないミア達を始めとした離宮の使用人たちはアデライーデの体調を心配した。

「王宮にお知らせして、御典医を派遣していただいたほうが良いのではありませんか」

「自分が知らせに行って参りましょうか」

「風邪は万病の元です。何かあってからでは…」

「そうですわ。昨日もいつもより早くお休みになったのは、体調が悪かったのをお隠しになっていらっしゃったのかも」

口々にそう言って、レナードに詰め寄った。

「大丈夫だから」と言っても、アデライーデを心配する皆の善意の熱意にレナードは「もはや…これまで」と悟り、王にお知らせするからと皆に伝え手紙を書いたのだ。

そう。アデライーデの奇行も、ウニの事も仔細漏らさず。

手紙を受け取ったアルヘルムは肩を震わせ手紙を読み、御典医を伴って離宮にやってきたのだ。仕事をタクシスに押しつけて。

「一応、典医は連れてきて控えさせているよ。使用人達を安心させたいからね」

「アリガトウゴザイマス。コノタビハ、タイヘンオテスウゴシンパイヲ、オカケシマシタ」

確かに、警備兵達を驚かせはしたと思う。お寝坊もした。でも、寝ていた間にこんな騒ぎにしたのはレナードじゃない?と思ったが、それはヤブヘビになりそうなので、心を無にして社交辞令を口にした。

レナードを見ると、すました顔をしてお茶の準備をしている……。

コンチクショウメ。

「で、体調はどうなんだい?」

「体調は……、元々何ともありませんわ」

「ん。だろうね」

どことなくおもろしがっている風情のアルヘルムが、ちょっとムカつく。

「で、ウニというのはこれかい?」

「はい……」

居間のテーブルの上に置かれた金魚鉢もどきの花瓶の中で、新しいキャベツをウニ達は食んでいた。昨日貰ったキャベツは食べてしまったらしい。意外に大食らいである。

「……美味しいのかい」

「「 ! 」」

アルヘルムの言葉に驚くレナードとマリア。

「それは、もう!」

ぱぁあーっと、顔を輝かせるアデライーデ。

ーやはりご興味を示されたか……。手紙にあれほど「アデライーデ様には、わけのわからぬものを拾い食いされないように厳重にご注意ください」と書いておいたのに。

レナードは眉間にしわを寄せた。

ただ、少し予感はしていた。

なので、この件はできるだけアルヘルムに知らせたくなかった。やんちゃだったアルヘルムは、子供の頃同じように城から抜け出して、城下で城では口にしない屋台の物を口にしていたからだ。

まだ屋台のものならいい。庶民も口にするし気まぐれで選んだ屋台で毒物を仕込まれる可能性は低い。だが、海で拾った生き物をかっさばいて生で口にするなど、どんな危険があるか…。

ーお二人をお止めしなければ!

レナードが口を開こうとした時に、こんこんと扉をノックする音が聞こえた。

「アルトが戻りました」

レナードが朝早くメーアブルクに使いに出していたアルトの帰還を侍従が知らせにきたので、すぐに来るように伝えると、レナードがこほんと咳払いをした。

「アデライーデ様がお休みの間、アルトにウニの事を尋ねました。アルトもウニの事については知らなかったようでしたが、マリア殿から海岸で会った子供たちが口にした『ハイニー』という老人が何か知っているのではとの事でしたので、アルトに調べに行ってもらいました」

レナードの説明が終わると、すぐにアルトが居間に入ってきた。

「ご苦労でした。ハイニーという老人には会えましたか?」

「はい」

アルトは海岸で貝拾いをしている人達からすぐにハイニーという老人を教えてもらったらしい。そのハイニーじいさんは、元漁師で今は船を下り磯釣りや貝拾いで生活をしているという。

恐る恐るウニの事を聞くと「おや、わし以外でもウニを食うお人がおったか」と、豪快に笑われた。

「死んだ女房も子供たちも、気味悪がって口にしなかったんじゃよ。それどころか『絶対、他人には言うな。食べているところを見られるな。後ろ指さされる』と口止めされてのう。食うたらうまいのに。あんたも食べていくかい。ご馳走してやろう」

そう言われ、岩場でウニを拾い家に連れて行かれたという。

「……そ、それで?」

レナードは、そのハイニーじいさんは食べる以外でウニを捕まえていると思っていたのだ。トゲを利用して獣避けの何かに使うのだろうと思っていた。

まさか、本当に食べていたとは…。

「ご馳走になりました。美味しかったです」

食ったんかーい

「いやー、最初はこんなものが食べられるとは思ってなかったんですが、口にすると意外に美味しくて。魚醤のように、そのままでは見た目で敬遠されるかもしれないので、これはソースに使えるんじゃないかと道すがらレシピを考えていたら少し遅くなってしまいました」

ぽりぽりと頭をかきながら照れるように笑って話すアルトに、口をあんぐりあけて驚くレナードをみてアルヘルムは肩を震わせた。