軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

335 道と路(みち)

「豊穣祭と新年祭のお茶の時間は、本当に有意義だったな」

「そうだったな。お茶もそうだがワインが入ると口の滑りも良くなるから、また飲むのも良いかもな」

タクシスは空になったティカップをサイドテーブルに戻した。

「あぁ。だが、まずはガラスの街の目処とメーアブルグの近くの新しい街の基礎工事だな」

「新しい街はペルレ島と同じで、最小限の倉庫と官舎を作らせたら稼働させるか」

「そうだな。その頃には新街道も繋がっているのか」

「うむ、新規で街道を造るのは新しい街と隣り合うツィーテン伯の領地とメーアブルグまでだけだ。あとの領は新街道の完成が遅れるなら、完成までの間は従来の街道を使わせよう。多少迂回するがな」

そう言ってタクシスは、新街道が記された地図をテーブルに広げた。元々各領地は街道で繋がっているが、それは各領地の領都とだ。新街道は各領地を通るが必ずしもその領都を通るわけではない。

何もなかった場所に新街道が通る領主は、その場所に通行税を納めさせる関所をつくる。そうすると関所の周りには旅人目当てに自然と人が集まり、宿や食堂ができ栄えてゆく。場合によっては領主が宿屋や食堂の箱物を造り庶民に貸し出す。

新街道に伴う関所は、投資額も大きいが領地が活性化する起爆剤となる為、諸侯の関心も高い。新街道が通らない領主達もいるが、同じ派閥の領主なら資材や人手、食料で利益を分け合える。

テレサが各派閥を考慮し、うまく新街道の原案を引いてくれたお陰で修正は少しで済んだ。

「ところで、新しい街の名前はどうするんだ?」

地図で新街道を確認していたタクシスが、アルヘルムに尋ねた。

「そうだな。いつまでも『新しい街』ではな。メーアブルグの倉庫街のつもりだったのだが、商都として発展させるのが良いかと思ってる」

「ふむ。それにふさわしい名前か。考えておこう。次になんだが…」

その日、タクシスはアルヘルムとの会議を早めに終わらせると別邸に立ち寄り、少しだけ帰宅が遅くなった。

「お父様、ただいま戻りました」

「帰宅が遅くなり申しわけございません」

タクシスの別邸にアメリーを送り届けたコーエンは、帰宅が遅くなった事を書斎で書き物をしていたノイラート卿に詫びた。

マリア達とアメリーは、結婚祝いに贈られるドレスの生地選びとアデライーデのドレスの生地選びで大変に盛り上がり、晩餐をごちそうになっていたのだった。

「なに、夕方には遅くなると知らせがあったからね。アデライーデ様のお引き止めがあったのなら栄誉な事なのだから気にすることはないよ」

そう言ってノイラート卿はアメリーにお帰りのキスを額にすると、二人にソファを勧めた。

一人のメイドがお茶を持ってくる間に、アメリーはいかにアデライーデが持つ生地たちが素晴らしかったか、その中から生地を選ぶのが大変だったかを嬉しそうに父親に話していた。

娘の幸せそうな笑顔に、ノイラート卿の顔もほころぶ。メイドがお茶を配り一息ついた頃にノイラート卿はタクシスの来訪を二人に告げた。

「タクシス様が?」

「うむ。屋敷の件に関しての話だった」

ノイラート卿はティカップをテーブルに置くと、静かに微笑みながら二人に告げる。

正式な話は後日コーエンに直接告げられるが、内示として未来の義父であるノイラート卿に話しに来たとの事であった。

屋敷の建築は費用はタクシスから貸し出される事、金利はなし。返済方法はコーエンの収入に応じ無理のない金額で、返済の最長期限は20年としコーエンの収入を管理するアリシア商会が返済実務を執り行うというものだった。

「あの…それは…貴族では普通なのでしょうか」

「バルクではわからぬが、帝国では破格の条件だな。但し、一つ条件をつけられた」

「条件…とは?」

コーエンの喉がごくりと鳴る。

「先に工房を建て、秋の貴族学院の納品に間に合わせることだよ。それと商人へもだが財務部の要望にできるだけ早く応えて欲しいとの事だ」

「!…。宰相閣下の…国の期待に沿うように、精進いたします」

「コーエン様、応援しておりますわ」

アメリーもコーエンに向けられたバルク国の期待に我が事のように喜んでいる。

ノイラート卿は貴族の笑みを浮かべ、喜ぶ二人を見ていた。

二国の貴族は仕える国、つまり主人を二つ持つ。二重の加護はあるが、言い換えれば二重の枷を背負うことなのだ。

帝国やバルク国が自分達に二国の貴族となる事をすんなり許したのも、自分達が芸術に携わる領地を持たない貴族であり、コーエンが軍事に携わることの無い職人だからこそであると、ノイラート卿は察していた。

バルクもだからこそ、領地ではなく屋敷の土地の下賜なのであろう。

自分もそれを見越しての申し出ではあったが。

いずれこの話は二人に教えねばならない。これから生まれる孫達にもだ。だが、それはこの屋敷-タクシスの別邸-で話す事ではない。

メイド達にちらりと目をやるが、メイド達はこれからの仕事に意欲を燃やす青年貴族と、その婚約者を微笑ましくを見ていた。

--今はまだ…だな。

ノイラート卿は、お茶のおかわりを頼む為にメイドを呼んだ。