軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

316 ケールとソーセージの煮込みと砂糖壺

「そろばんの件は、コーエンに相談したいと思いますわ」

サラダ用のカトラリーを置きながら、アデライーデはタクシスに告げた。

「なにか妙案でも?」

「案はございますが、妙案かどうかはわかりません。まずはコーエンに確認したいと思います」

飲みかけた白ワインのグラスを置いてタクシスが聞き返すと、アデライーデは少し考えつつ答えた。

「そうだな。現状を確認してからだな。レナード、午後の茶の時間にシリングスを呼べるか?」

「承知いたしました。使いの者を出しましょう」

レナードは手配の為に、下がっていった。

そのレナードの入れ違いに給仕が、ワゴンを押して食堂に入ってきた。

「ケールの煮込みと3種の肉添えでございます」

置かれたプレートには、くたくたに煮込まれたくすんだ緑のケールの上に豚肉の塊2種と太いピンケルソーセージがのっている。

肉類は男性陣には大きめで、アデライーデには小ぶりの大きさだ。

ケールは「まずーい」の青汁のCMで日本で有名になった野菜だが、不味くない。

日本名の「ちりめんキャベツ」の名の通り、いたって普通のキャベツの味がする。しいて言うなら、ちょっと味が濃いくらいだ。

太めのピンケルソーセージには豚肉の他に麦やラード、刻んだ玉ねぎなどがたっぷり入っていて、これだけでも食べごたえがある。あとの2種類は、豚肩肉の燻製と豚バラ肉の燻製だ。

よく下洗いしたケールを細かく刻み、玉ねぎと一緒に炒めてからソーセージと燻製肉を入れ半日ほどコトコトと煮込めばケールの煮込みが出来上がる。

太いソーセージだけでも十分なボリュームだが、アルトに言わせると、この3種類が入らないと正統派のケールの煮込みではないらしい。

なので、アデライーデは種類を減らさずに量を減らしてもらっている。

「おや、アデライーデは砂糖をかけないのかい?」

「ええ、このままで十分美味しいですわ」

好みなのだが、ケールの煮込みに砂糖をかけて食べる人もいる。

もしくは、人参のグラッセのようにキャラメリゼされたじゃがいもを添えるのだが、陽子さんの好みではないので、今日はアルヘルム達のプレートには砂糖壺が添えられたようである。

--本当に好みなんだけど、甘くない方が美味しいと思うのよね。

見ると、アルヘルムはケールの煮込みの端のほうにお砂糖をかけて、時々その砂糖のかかったところを食べている。タクシスは砂糖を使わないようだ。

「ところで、陛下からお聞きしたのですが、何やらいろいろとお話をされたとか…」

「えっと…。どのお話でしょうか?」

「まずは、ガラス工房で頼んだものから話してやってくれないか」

「ほう」

タクシスは、いい笑顔でソーセージにナイフを入れる。

「えっと…まずは、ステンドグラスの蝋燭カバーです。ステンドグラスって窓一面とか壁一面と大きいので、1度取り付けたら簡単に交換とかできないし、高額じゃないですか? 大きなステンドグラスを作った端材を使って蝋燭カバーにして買いやすくすれば、手軽に楽しめますし、庶民でも買いやすいかなと思ったのですわ」

「なるほど。庶民にも買いやすく…ですか」

「それと、ガラスペンをお願いしました」

「ガラスペン?ペンをガラスで作るのですか?」

「えぇ、ガラスで色々なものを作れるようでしたので、できないかなと思ったのですわ。ペン先がガラスで出来たら、きれいじゃないですか」

--インクのもちが羽ペンより良いから…とは、アルヘルム様にもだけどタクシス様にも言えないわね。職人さんには、ポロッと言っちゃったけど、お二人にはどうしてそんな事を知ってるのかって、突っ込まれそうだし。聞かれても説明できないし…。単にきれいだからって事にしておこう。

驚いているタクシスをアデライーデは笑顔で押し切り、すぐに話題を変えた。

「あと、ショーケースですね」

「ショーケース?」

「お店で商品を入れて、お客様に見せるガラス製の飾り棚ですね。お菓子やきれいに飾られたタルトを入れておけば埃よけにもなりますし、小物なんかは盗難除けにもなると思います。これは少し厚いクリスタルの板ガラスで作れば、そんなに難しくはないと思うんです」

「ふむ…。板ガラスの販路が増えますね」

「あとですね」

「あと?」

まだあるのかと、タクシスは驚いて聞き返した。

「暇つぶし用のペグ・ソリテールのペグ(杭)を大きなガラスビーズ(とんぼ玉)で作ってもらうように頼みました」

ペグ・ソリテール。この世界でも、前世でも昔からあるボードゲームだ。

木製の盤上の穴にペグ(杭)をさし、隣の隣にペグがない時にペグは飛び越えて移動でき、飛び越えたペグをとることが出来る。そうやってペグが最後に1つ残れば成功。中央に1つ残すのが最善とされる。

が、これがなかなか難しい。

飛び越えれなくて、たくさんペグが盤上に残ってしまう事がほとんどなのである。

陽子さんの家にも「ビーナスゲーム」(商品名 今は廃盤)という名で、ボールタイプのものがある。離宮の遊戯室でペグタイプの同じものを見つけた時には驚いた。

このボードゲームは、終身刑の囚人が監獄の中の小石で作ったとも言われるだけあって、暇つぶしにはもってこいなのである。きっと、先王もこのボードゲームで遊んでいたに違いない。

「アデライーデ様、とても『楽しいお話』ですね」

「楽しいかどうかは…」

「いえ、とても楽しいです。なので、他の話も、今、ここで、全部、お聞きしたいですね。今後のためにも」

いつの間にかケールの煮込みを食べ終えていたタクシスは、若干黒い笑顔でカトラリーを置いた。