軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

315 じゃがいもと冬の白アスパラガス

「昨日ぶりだね」

「いらっしゃいませ。今日はタクシス様もご一緒に?」

「あぁ」

「急な訪問を快くお受け下さり、ありがとうございます」

そう言ってお辞儀をするタクシスにアデライーデは微笑んだ。

「いつでも大歓迎ですわ」

午餐の時間の少し前に、タクシスを伴ってやってきたアルヘルムを玄関ポーチで出迎えたアデライーデは、すぐに2人を食堂に通した。

「少し早いですが、お食事を始めましょうか」

「そうでございますな。お待たせするより早い方がよろしいかと…」

ぎくっ

昨日はアルヘルムと晩餐後におしゃべりをして、王宮に送り出したのはかなり遅かった。その後すぐに休んだので、レナードにはガラス工房での話はしてないはずだが…。

どきどきして横目でレナードを見ると、レナードはすました顔で「では、さっそくご用意をさせましょう」と食堂を出ていった。

皆、給仕に椅子を引いてもらい席につくと、食前酒に蜂蜜酒が出された。いただきます代わりに軽くグラスを上げ、口をつける。

すぐに給仕が冬のスープの定番のじゃがいものスープを、サーブしてきた。

「昨日、帝国よりシリングスをノイラート卿の後継と認めると使者が来てね」

--シリングス…。あ、コーエンの男爵名ね。

「おめでたいですわね。すぐに帝国でなにか式でもあるんですか?」

「あぁ。こちらで結婚をしたら帝国の陛下への報告と披露宴がある」

--そっか、アデライーデも帝国とバルクで披露宴を2回したしね。2回披露宴ともなると、かなりお金がかかるわよね。コーエンは男爵になったばかりだし、ご祝儀をはずんだ方が良いわよね?お祝いの品は何がいいかしら?

そんな事を考えながら、スープを口にしていた。

「皇后陛下からも、祝いと助力をすると手紙が添えられていたんだ。父親のノイラート卿の為にも結婚式は出来るだけ早くとね」

「確かに、ノイラート卿はアメリーの将来を心配されていましたわ。ノイラート卿の為にも二人の為にも、お式はなるたけ早い方が良いですわね」

「そうだね。で、皇后陛下はノイラート卿から聞いたシリングスが名誉男爵になったきっかけのそろばんに、興味をもたれていてね…」

「なるほど…。そう言えば、皇后様にそろばんをお贈りしていなかったですわね。コーエンに頼んで陛下とお揃いのそろばんをお贈りすれば良いでしょうか?」

「お揃い。うん…。それは素敵だね。とても喜ばれると思うんだが」

少し影を落とした声で、アルヘルムはスプーンを置く。

「?」

アルヘルムの表情の意味がわからず、アデライーデはナプキンで口を拭いた。

「冬の白アスパラガスのクリーム煮でございます」

給仕がスープ皿を下げ、ラプンツェルに取り囲まれたそれを供した。

ゴボウに似た根菜類のそれは火を通すと、バルク人が大好きな白アスパラガスの味がするので「冬の白アスパラガス」と呼ばれクリーム煮にして冬によく食べられる。今日は温野菜サラダの代わりに出されたようだ。

「アデライーデ様、去年炭酸水をお贈りしてからの事を考えますと…」

タクシスがカトラリーを取りながら話を続ける。

「あ!」

「炭酸水と同じく、そろばんも帝国からの大量発注が考えられます。しかし、炭酸水と違い作る者が限られるそろばんは、すぐには量産が難しいです。それにバルク国内でも需要が高まっており、シリングスには秋くらいまでは今以上に増産依頼を予定しております」

「ん?待ってください。増産依頼って?」

貴族学院でそろばんが採用されたのはフィリップからの話で知っている。王宮でも一部で使われ始めているとは聞いていた。でも消耗品でもないし、そうそう壊れるものではないから、1度納品すればそれで終わりじゃないのか?

「春には王宮の財務課での正式採用と計算課創設にあたり、採用する予定がございます。そして秋の貴族学院からの依頼。それと今も国内の貴族、そろばんの話を聞きつけた王宮に出入りする主だった商会からの注文が来ています」

「………」

確かにコーエンから、たくさん注文が入り弟子を雇っているとは聞いてはいたが、タクシスの話を聞く限り秋まで仕事の予定がみっちりになるだろう。

--まずいわよね。確かマリアやエマたちの話だと、婚約パーティをして婚約期間は2人で新居を決めたり、家具や食器とかを選んだり結婚式の準備をするって聞いたわ。とっても楽しい時間よね。それがコーエンが仕事まみれになると…

表情は崩さず、冬アスパラのクリーム煮を口にする。こんな時だが美味しい。もぐもぐと口を動かしながら、頭をフル回転して自分の経験や、友人知人・会社の同僚後輩からの相談を思い出していた。

--仕事の忙しさからのすれ違いでの喧嘩からの結婚直前の破談、もしくは多忙が原因の新婚生活の 諍(いさか) いやワンオペ育児からの離婚……いやいやいや。あの2人に限って、そんな事はないはず。

もぐもぐ。

--真面目なコーエンが過労で倒れる…。あり得る…、そっちは十二分にあり得るわ。それにコーエンはこれからノイラート卿の後継として覚える事も沢山あるはず。

もぐもぐ。

増える国内からの仕事に、 二国(ふたこく) の貴族となる事の重圧。帝国からのさらなる注文。

そして、真面目さ故の長時間労働による過労死…。

なまじ人生経験と友人知人、ネットやテレビからの情報量の多さゆえ、陽子さんは確信した。

--それだわ!

なんとかしないと!