軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

311 シミと丸ごとかぼちゃプリン

「どれも素敵だったわ…」

「だからと言っても、お時間がかかりすぎです!陛下がお待ちになっているはずですわ」

マリアは、後ろで大きなため息をつきながらアデライーデがまた壁に引っかからないかと、周りをキョロキョロ見回し、アルヘルムの待つ部屋へとアデライーデを急き立てている。

お花を摘み終わって、アルヘルムが待つ部屋に向かう途中の廊下にあるウォールブランケット1つ1つにアデライーデが引っかかり、予想以上に時間がかかってしまっているのだ。

本来このウォールブラケット達も、ヴィドロに紹介されるはずであったのだが、工房で予想の倍以上の時間がかかり説明されずにいた。

「だって、どれも素敵なんだもの」

「だとしてもです!軽食のお時間が大幅に遅れています。さぁ、床だけを見てお急ぎになってください」

「えー。あ、あれは…?」

廊下の曲がり角で、また見ていないウォールブラケットを目ざとく見つけたアデライーデが一瞬立ち止まりかける。

「あれは、壁のシミです!ええ、シミですとも!あれは間違いなくシミで、ウォールブラケットではありません!」

ぐぁしっ

「あぁーー!」

確かに、この廊下のウォールブラケットは素晴らしい。最初の1,2個はマリアも見惚れていたが、ちょっとありすぎじゃないか?普通はもっと間隔が空いているはず。しかも、1つ1つ形が違うので、そのたびにアデライーデが捕まり、角度を変えてじっくり見てしまうのだ。

最初は優しく急かしていたが、優しく言ってもこうなったアデライーデには 埒(らち) が明かないと悟ったマリアは、強硬手段にうってでた。

アデライーデの左腕を左手でガッチリ掴み、右腕で腰をホールドして、すたすたすたとアルヘルムが待つ部屋へとアデライーデを強制連行した。

さすがマリア、やんちゃな弟達を持つ長女は強い。

マリアは、扉の前に着くと手を離し小声でアデライーデに笑顔で説教を始めた。

「殿方は貴婦人のお支度の時間には寛容でございますが、唯一の例外はお腹が空いた時でございます。すでにご予定のお時間は大幅に過ぎ、お茶の時間と言ってもいい程でございます」

マリアの笑顔が怖い。確かに言われれば、お腹がかなり空いている。慣れないコルセットで気が付かなかったが、コルセットをしていないアルヘルムはかなり空腹を感じているはずである。

‐‐はしゃぎすぎちゃった…わよね。夢中になると時間を忘れる悪い癖、いくつになっても直らないわね。

小さい頃から言われ続けている事を、 異世界(ここ) でも言われるとは、反省するしかない。

「はい…。ごめんなさい」

「では、扉をあけますね」

もっと小言を言いたいが、ぐっとこらえたマリアは軽くノックをして、アルヘルムが待つ部屋の扉を開けた。

アデライーデが入った部屋は、アルヘルムがタクシスと一緒に初めてシャンデリアを見た部屋だ。あの時のシャンデリアは今は離宮の居間で輝いていて、今はまた別のシャンデリアが飾られている。

「大変お待たせいたしました」

「大丈夫だよ。さぁ座って」

すでにテーブルの席に着いていたアルヘルムに進められ隣の席に座るが、少しだけ元気のないアデライーデに、アルヘルムがどうかしたのかと優しく尋ねた。

「お食事の時間が遅れてしまいましたね。お腹空かれたでしょう。私、夢中になると時間を忘れる悪い癖が小さい頃からあって…。申し訳ないです」

「なんだ、そんな事か。大丈夫だよ。はしゃいでいる貴女を見るのは楽しかったからね」

優しくアルヘルムが微笑んで紅茶のカップに手をかけた。

「それに、ご婦人の身支度に時間がかかるのは当然だ。その間少しここの警備隊長と話していたからね。空腹は感じなかったなぁ」

アデライーデにはそう言ったが、実はかなり空腹だった。婦人のお花摘みに時間がかかる事を知っているアルヘルムはエマーユ工房の前でアデライーデと別れ、その間にこの工房村の警備隊長からの警備報告を聞くべく広場によった。

話の途中で、ふと少し離れた馬車の陰にいる警備兵達に目をやると、何やら片手に持った物にかぶりついていた。

「あれは?」

「正妃様からの差し入れの丸ごとかぼちゃプリンでございます。先程離宮の調理師が配ってくれたのですが、みな喜んでおります。まこと細やかなお心配りを頂き……陛下?」

アルヘルムの目線の先をみて説明する警備隊長を置いて、アルヘルムはすたすたと警備兵達に近寄っていく。

「!」

アルヘルムに気がついた警備兵は、すぐさま敬礼をしようとしたが、まだ手には食べかけの丸ごとかぼちゃプリンがある。

口の中に放り込むには大きすぎるし、正妃様の差し入れを投げ捨てるわけにもいかない。口の中のかぼちゃプリンを急いで飲み込んで、左手に食べかけを持ったままの、しまらない敬礼をした。

「いや、楽にしてくれ。休憩中なのだろう?」

「はっ!」

確かに休憩中だが、王からそう言われても楽はできない。緊張しつつ、とりあえず敬礼を解いた。

「どうだい?旨いかい」

「はい、とても。それに食べごたえがあります」

気さくな口調でアルヘルムが問いかけると、年長の警備兵が代表して答えた。

「そうか、うんうん。アデライーデの作るものは何でも旨いからな。うん。そうか食べごたえがあるのか」

「……あ、あの、いただいて参りましょうか?」

何かを感じ取った年長の警備兵がおずおずと進言すると、アルヘルムはいい笑顔で警備隊長に振り返る。

「隊長、君も一緒にどうだい?」