軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

304 セイボリータルトと賭け

「どれも美味しかったわ。レシピを良くしてくれてありがとう、トビアス」

「お褒めのお言葉を頂き、光栄でございます」

トビアスは、アデライーデに直接労いの言葉をかけられた事に感動したのか、満面の笑みを浮かべつつも泣き出しそうな顔をくしゃりとさせて深々とお辞儀をした。

アルトはアデライーデにお辞儀をするトビアスを微笑ましく見つつ、こほんと軽く咳払いをした。

「実は、あと一皿お待ちしたものがございます」

「ん? まだなにかかぼちゃのお菓子があるの?」

「いえ、お菓子ではないのですが。甘いものの後には 塩味(えんみ) のある物も良いかと思いまして、お持ちしました」

アルトはティーワゴンの中段から、一抱えもありそうな銀の 丸蓋(クローシュ) の乗った 大銀皿(プレート) を取り出した。

--何かしら? 日本だったら羊羹とお煎餅をセットで出したりするけど。

陽子さんは、わくわくしてアルトの手元を見ていた。マリア達も同様だ。

アデライーデの前に置かれた 大銀皿(プレート) の 丸蓋(クローシュ) がサッと取り払われると「まぁ!」とマリア達から小さな歓声がこぼれる。

そこには、色々な具材が乗ったひと口大の可愛らしいたくさんのタルトがあった。

「今の時期の冬野菜や魚やローストビーフ、チーズをあしらっております」

「もしかして、セイボリータルト?」

「ご存知でしたか。離宮ではお出ししてなかったのですが、王宮の夜会では男女の別なく、ともに人気がございます。色んな種類のものを食べられますし、お酒のおつまみにも良いですので」

そう言ってアルトはセイボリータルト用のプレートを皆の前に配りだした。貴婦人の口のサイズに合わせてあるのか、かなり小さめのセイボリータルトは摘んで食べるようでお水の入ったフィンガーボールとナプキンも添えられた。

「どれから食べようか、迷ってしまいますわ」

「本当に!」

目を輝かせる皆にアルトは、セイボリータルトを説明を始めた。

炒めてコンソメで煮込んだ玉ねぎとベーコンのタルト

小海老と焼いたズッキーニとナスのタルト

かぼちゃのマッシュと焦げ目を付けたカマンベールチーズのタルト

オイルサーディンとほうれん草のタルト

きのこと塩ゆで豚のタルト

生ハムと塩もみ蕪のタルト

牡蠣のオイル漬けと香草のタルト

蒸し鶏とオニオンスライスのタルト

牛フィレステーキときのこソテータルト

刻んだソーセージと蒸したキャベツのタルト

ローストビーフとマッシュポテトのタルト

白身魚のバターソテーとマッシュビーンズのタルト

「どれも夜会で人気のセイボリータルトでございます。どうぞお召し上がりください」

ひとつひとつのタルトを説明し終わると、アルトはトビアスと共に席を立った。

アルトは背中で、アデライーデ達の黄色い歓声を聞きつつ、少し離れた場所に置いてあるドリンクワゴンでアデライーデ達へ出す飲み物を用意し始めた。

お菓子には紅茶だが、セイボリータルトには少し不向きだ。ワインが良いがまだ昼下がり。度数の低いりんご酒を炭酸水で割り軽くステアして、試作の様々な形をしたクリスタルのグラスに注いでゆく。

「おい、良いのか?揃いのグラスじゃなくて」

「良いんだよ。料理長からもこれを使うように頼まれている。何でも陛下から試作のグラスをアデライーデ様にも見て欲しいとのお言葉があったらしいんだ。グラスはそれだけでも美しいが、やっぱりなにか飲み物が入った姿が本来の姿だからな」

そう言うと、さっさとトレイにグラスを乗せた。

「アデライーデ様。りんご酒の炭酸割りをお持ちしました。こちらのグラスは工房より届けられた試作でございます」

「ありがとう、アルト!丁度なにか頼もうと思っていたところなのよ。まぁ…色んな形のグラスなのね」

運ばれてきたグラスは、ワイングラスの形だけでなくタンブラーの形のものもあった。

ガラスの表面を削って、繊細な絵柄が描かれたものや足の部分に細工があったり色をつけてあったりと、大きさだけでなく飾りも様々だ。

運ばれたグラスに様々な『感想』を口にするアデライーデ達をテーブルに残して、アルトはドリンクワゴンのところにいるトビアスの隣に戻ってきた。

「さすがに量が多すぎじゃなかったか?かぼちゃプリンも3種類だったし、あれだけでもかなり腹に来るぞ。しかもさっき昼の賄いを終わらせたばかりだろ」

トビアスはアルトの同期である。小声でアルトに囁くと、アルトは少しトビアスに体を傾けつつ小声でこう答えた。

「よく見ろ。コルセットを誰もしてないだろ?コルセット無しの女の別腹は底なしだぞ。きれいに無くなるはずだ。アデライーデ様はともかく、メイド達は夕食の賄いも普通に腹におさめるぞ。賭けるか?」

「いや、さすがにあれだけ食べて賄いまでは…」

トビアスはそう言ったが、アルトは自信満々だ。

「じゃ、上等のワイン奢れよな」

離宮での彼女らの食べっぷりを知っているアルトは、ここぞとばかりに賭けにでた。

もちろん、この賭けに勝ったのはアルトだ。

トビアスは、とっておきのワインを仕方なく開けることとなる。