軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

303 かぼちゃプリンとトビアス

「アデライーデ様、アルトが参りました」

翌日の昼下がり、アデライーデの王宮の居室にアルトが真新しい白い調理服を着て、ティーワゴンを押した菓子職人を従えて恭しくお辞儀をしながら入ってきた。

離宮では気軽に少し汚れた調理服でもアデライーデに呼ばれればすぐに会えたが、王宮ではそうはいかないらしい。

「やっと納得がいくものができましたので、お持ちしました」

そう言ってアルトは菓子職人に目配せすると、菓子職人がティーワゴンで運んできた「それ」を次々にアデライーデの前に並べてゆく。

高坏(たかつき) に似たシルバープレートコンポートには、ホールの濃い黄金色の大きめのかぼちゃプリンが、焦げ茶色したカラメルソースを頭と裾一面にまとわせ、テーブルに置かれても揺れもせずにいる。

続いて、シャンパンタワーに使われるような口の広いクリスタルグラスに淡い黄金色のかぼちゃプリンが半分ほど入り、上には泡立てた生クリームが注がれており、小花の形にかぼちゃのタネが飾られていた。

最後に出されたのは、形良いかぼちゃをくり抜いて作られたかぼちゃプリンだった。ヘタの部分は蓋としてちょこんとかけられている。

「まぁ…3種類も作ってくれたのね」

「はい、頂いたレシピを改変しても良いとの事でしたので、王宮の菓子職人…こちらのトビアス・ハイマーの協力によりいくつか作ってみました」

アルトに紹介されたトビアスは、緊張気味にアデライーデに初見の挨拶をした。

「正妃様にご挨拶できる栄誉を賜り、この上ない幸せにございます。製菓部門のトビアス・ハイマーと申します」

「初見の挨拶をありがとう、トビアス。でも、これからは堅苦しい挨拶は省いてね。じゃ、お菓子を説明してくれる?」

トビアスの挨拶を受けたアデライーデはにこやかに応えたあと、嬉しそうにテーブルのお菓子達に目を輝かせた。

「はい。頂いたレシピをもとに、こちらのかぼちゃプリンのホールをお作りしました。より濃厚にしたため、かぼちゃケーキと言ってもいいくらいしっかりとした食べごたえのあるものとなっております」

そう言ってトビアスは、手慣れた手つきでホールのかぼちゃプリンを切り分けると、8分立てに泡立てた生クリームをかけてアデライーデの前に差し出した。

「かなり甘みが強いので、生クリームにはお砂糖を加えておりません」

「ありがとう。私だけでなく、ここにいるみんなで試食しましょう。みんなの意見も聞きたいわ」

「は、はい。では」

ここにいるのは、アルトとトビアス。それに侍女のマリアとメイドのミア達だけ。高貴な方と使用人が同じテーブルを囲むことは決してない王宮の慣例に慣れているトビアスはどぎまぎしながら、残りのかぼちゃプリンを切り分ける。

アデライーデなら必ず自分達にも試食をと、言い出すはずだとアルトに言われ、用意しておいたプレートにも同様に、かぼちゃプリンと生クリームが添えられた。

「んんっ! なんて滑らかな口当たりなんでしょう!それにかぼちゃの濃厚な甘みが深いですわね」

「本当ね。私が作ったものより濃厚で滑らかだわ。何かコツがあるの?」

「きょ…恐縮でございます。ヘタの枯れた完熟かぼちゃを使う事と、かぼちゃを蒸す際、途中から弱火でじっくりと蒸し甘みを引き出しました。あと上等の塩を少し使う事と、網目の違うこし器で2度裏ごし致しました」

「さすが本職は違うわね。1つ1つの仕事が丁寧だわ」

--かぼちゃは適当にチンして、裏ごしなんてザルで1回さっとやっただけじゃ、この滑らかさはでないわよね。細かい分量は覚えてなかったから、何度か作ったけど、アレンジを任せて正解だったわ。

そんな事を陽子さんが考えていたら、あっという間にかぼちゃプリンを完食していた。

「次は、夜会でのデザート向けにグラスにかぼちゃプリンを入れてみました。こちらは、より口当たりを軽く良くするために3度の裏ごしと生クリームを多めに入れております」

クリスタルガラスに入れられているので、その淡い黄金色と白い生クリームの層も目を楽しませてくれる。

「さっきのかぼちゃプリンとはまた別物ですわね。貴婦人方に人気が出そうですわ」

「ええ、夜会でコルセットをしていても、これならいくらでも入りそうですわ」

「シナモンとラム酒が入っているのですね!これは大人の味ですわ」

エミリア達もグラス入りのかぼちゃプリンを気に入ったようで、きゃっきゃと感想を言いながらも瞬く間にお腹に収めていった。

「最後に庶民向けにも…とのことでしたので、工程も砂糖も少なめで作ってみました。かぼちゃを丸ごと使うので食べごたえがございます」

少し薄めに切って出されたまるごとかぼちゃプリンは、今までのそれより甘みも抑えられ素朴でシンプルだが、その分かぼちゃを食べているという感じがする。

「良いですわね。これなら屋台で切り分けて手づかみで頂けそうですわ」

「甘みが少ない分、ちょっとした食事代わりにも良いですね。甘みが欲しかったらお砂糖やはちみつをかけてもいいですわ」

いつの間にか、ミア達の前にあった薄く切った丸ごとかぼちゃプリンは姿を消し、片手で持てるくらいに切り分けられたかぼちゃプリンを齧りながらパクつく彼女らをトビアスは引きつった笑顔で見ていた。

--かなりの量があったはずだぞ。特に丸ごとの奴は、どんと腹にくるはずなんだが…。

彼女達の別腹が、底なし沼のようにかぼちゃプリン達を平らげていくのに驚いているトビアスを、アルトはにやにやと笑いながら眺めていた。