作品タイトル不明
242 久しぶりの離宮
「ただいま…」
「おかえりなさいませ!!」
「おかえりなさいませ、アデライーデ様。お早いお帰りでございましたな」
レナードをはじめ、離宮の皆の出迎えを受けて懐かしい離宮にやっと帰ってきた。
早い帰りと言われても、予定より5日も遅れての帰宅である。ソープカービングの茶会から、夜会が2回と茶会が3回開かれた。テレサが絞りに絞って、これ以上は社交のバランスが取れない最低の回数の開催数まで絞ったという。
どの会も盛況でアデライーデはテレサと社交をし、マリアがバルク国の貴族録を頭に叩き込んでいてくれたおかげで挨拶も滞りなく受ける事ができた。
社交の合間には、フィリップやカール、ブランシュ達とも存分に遊ぶ事ができ、アデライーデ的には今回の王宮訪問は大成功だったと思う。
別れ際に、カールとブランシュに「アリシア姉様、帰っちゃイヤだ」と泣かれた事だけが心残りではある。幼い二人はアデライーデが自分達の義母であるという事をまだ理解できない。
ただ、たくさん遊んでくれる優しい姉様という認識だ。
駄々をこねる2人に「またすぐに会えますよ」と、約束をして離宮に帰ってきた。
「孫がいたらあんな感じなのかしら…」
「はい?」
「いえ…なんでもないのよ」
帰りの馬車の中で思わずボソリと、呟いてしまうほどであった。
使用人達の出迎えを受けて居間に行き、久しぶりにレナードの入れてくれたお茶を飲んでやっと離宮に帰ってきたと実感する。
--この世界で自分の帰る場所はここなのね。王宮の暮らしも悪くないけど、ここに帰ってきてレナードが入れてくれたお茶を飲むとホッとするわ。ほんの少し前までは家のキッチンで入れたコーヒーを飲んでいたのが嘘みたい。
そんなことを考えながらお茶を飲んでいると、従僕の1人がやってきてレナードに耳打ちした。どうやらアデライーデが離宮に帰って来たのを知って孤児院の子ども達が会いにやってきたらしい。
10日程度の予定で王宮に出かけたが、予定は伸びて3週間近く子ども達には会わなかったのだ。
「アリシア様!」
「アリシア姫様ー、おかえり!」
庭に出ると、ルーディとエデルが飛びつくようにアデライーデを出迎えた。勢いがあって受け止めるのに驚くほどである。
「アデライーデ様、おかえりなさいませ」
アベルとデールとアンジーは挨拶を教えられたのか、きちんと挨拶をし、お辞儀をした。
「あら、ちゃんとしたご挨拶ができるようになったのね。偉いわ」
ここに来た時の面影はなく、アデライーデが王宮に行っていた間に散髪をされたのか、皆髪がきちんと整えられていた。アンジーは被っていた帽子を外して、おかっぱに整えられていた髪は天使の輪をつくって艶々と輝いている。
「アンジー、髪を整えてもらったのね。その髪型似合うわ。帽子はもういらないわね。可愛いわよ」
そう言って髪を撫でると、はにかんだような笑顔で「ありがとうございます」と笑った。
「ボクも切ってもらったんだよ?!可愛い?アンジーばっかり、ずるいよー」すかさず、ルーディが自分の頭も撫でろとばかりにしがみついてくる。
「えぇ、もちろん可愛いわ。とっても似合うわよ」
クスクスと笑いながら、順番にエデルとデールを撫でてアベルを撫でようとしたらアベルはちょっと拗ねた顔をした。
「?」
「俺…可愛くなんかない…」
「……あ。そうね。アベルはかっこよく整えてもらったのね」
「………」
ぷいと赤い顔をして横を向くアベルは少年の顔をし始めていた。正確な年齢はわからないが、フィリップとそう違わないだろう。
ふっくらとした頬が、あと数年でスッと伸びて凛々しい青年になるんだろうな…。その前に反抗期が来てこんな風に撫でることもできなくなるのかと少し寂しくなりながらウェーブのある柔らかい髪をそっと撫でた。
「アリシア様のパレードを見たよ。僕たちも布を振ったんだよ」
「まぁ…ありがとう。」
「すごく小さくて髪の色しかわからなかったんだ。すごく人がたくさんいたよ」
「その後で、ドーナツの屋台で砂糖まぶしをかってもらったの」
子ども達は口々に、アデライーデが離宮にいなかった間の事を話し始めた。ガーデンテーブルに用意されたお菓子を頬張りながらの子ども達の報告によれば、村はいつもと変わらず平和であったがアリシア商会の者の家族が引越してきて友達が増えた事が子ども達のビッグニュースでわいわいとその姉妹の話をしていた。
「アリシア様、アメリー様からアリシア様がいつ帰ってくるのかって聞かれたよ」
「アメリー様から?」
「うん。村であった時に」
「あ、私も2回聞かれました」
「そう…なにか頼んでいた事があったかしら…。ありがとう。アメリーと話してみるわね」
アメリーは、エデルとアンジーにアデライーデの帰りを聞いたようだ。仕事の話であればレナードに聞くはずなので、それほど急ぎの話ではないのだろうがアメリーがアデライーデの帰りを待っているのは確かなようだ。
「ねぇ、レナード。なにか聞いてる?」
「いえ、私は何も」
「そう。明日にでもアメリーと会えるかしら」
「承知しました。使いの者を出しておきましょう」
レナードはそう言うと側の従僕に指示を出してアデライーデのお茶を差し替えた。