軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

226 社交と役者たち

アルヘルムとテレサがアデライーデの元に戻るとタクシス夫妻以外の貴族達は一歩後ろへと下がった。

「メラニア、帝国では大儀であったな」

「臣下として当然のことでございます」

「いや…バルクの為に社交をこなし、バルクの華と言われているようだぞ」

「もったいないお言葉でございます。私など正妃様や王妃様に比べましたら野の花でしかございません」

いやいや、貴女が野の花ならば他の女性は何になるのかと心の中で突っ込んでいたらアルヘルムは上機嫌でタクシスに話を振り始めた。

「シャンデリアはどうだ?もう、屋敷につけたのか?」

「有り難くも陛下の思し召しにて、先日我が家に取り付けましたが困った事に屋敷を建て替えなければならなくなりそうです」

「ん? 建て替えとは?」

「あのような立派なシャンデリアを賜り、それに見合うだけの屋敷ではなかったと痛感しております」

そう言って恭しく頭を下げ礼をするタクシスにアルヘルムは声をあげて笑うと給仕を呼びシャンデリアの話をふたりで始めた。

周りにいた貴族達が聞き耳を立てているのをわかってのアルヘルムとタクシスの三文芝居が繰り広げられるとジリジリと貴族達は距離を詰めていく。

今気がついたと言わんばかりのタクシスが、オイゲン侯爵に声をかけ侯爵領の鉱山から産出された石灰石でクリスタルガラスが作られていると話すと、男性貴族達はその輪の中に自然と入っていき、すぐにクリスタルガラスの話が盛り上がり始めた。

--すごいわ…これが社交なのね。

間近で見る二人は、自然な会話を巧みに繰り広げその場にいるどの貴族にも話を振ってゆくのだ。どの領がどのような特産を持っているのか知っていて自然な形で、これからの産業に関われるのだとにおわせていく。

アルヘルムは王であり、タクシスはその宰相として貴族たちを纏めてゆく。

そんなふたりを眺めているとアデライーデは、テレサから声をかけられた。

「アデライーデ様、メラニア夫人とお話するのは初めてでしょう?」

「え?ええ。ご挨拶以外では初めてですわ」

「アデライーデ様の作らせるお菓子がとても美味しいと、メラニア夫人にお話していましたのよ」

「ええ、帝国の『瑠璃とクリスタル』で出しているものをいただいて、帝国だけでしか頂けないなんて残念すぎると思いましたわ。帝国ではバルクのお菓子となりますのに、このバルクで貴婦人達の口に入らないなんてとても残念ですわ」

「あ…それならば、菓子職人達をメラニア様のお屋敷に…」

「まぁ…。よろしいのですか?それでは早速、お友達の皆様を招待して披露しないと!あぁ、でも私の屋敷だけではとても皆さんをご招待できませんわ」

「そ…そうですか? どうしましょう。皆さんをご招待…」

全員を招待するのであれば、王宮しかないかと思うが勝手に自分が決める事はできないと、チラとテレサを見るとテレサはニコニコ笑いながら、良いことを思いついたとばかりに扇をぱしりと閉じた。

「アデライーデ様。『瑠璃とクリスタル』をバルクにもお造りになればよろしいのではなくて?」

「え?」

「良いお考えですわ!それでしたら、私は『瑠璃とクリスタル』ができるまでの間、皆様をご招待すればよろしいのね。アデライーデ様」

「え?あ…はい…え?」

急な展開についていけず、しどろもどろになるアデライーデを置いてけぼりにしてテレサとメラニアは、楽しそうに頷きあっている。

「ねぇ、皆様。帝国で今話題になっているバルクの『瑠璃とクリスタル』が本国にないのは残念ですわよね?」

「ええ!もちろんですわ」

「どのようなものですの?『瑠璃とクリスタル』とは?」

「帝国に造られたバルクの特産品を扱うカフェですのよ。もうそれはそれは素敵ですの!」

「そのように素敵な場所がバルクにあれば、毎日でも通いますわ」

それまでアデライーデたちの周りで声をかけられたくてたむろしていた貴婦人達は、メラニアの一声で一斉に集まってきた。

そして帝国の『瑠璃とクリスタル』でどのように素晴らしい菓子が出されるかをメラニアは語り始め、テレサはそれに1つ1つ相づちを打ってゆく。

聞いたことのない菓子の話が出るたびに、周りの貴婦人達からため息と小さな歓声が溢れた。

無論これもテレサ達の茶番である。

こうやって貴婦人達の関心を買い、王室が流行らせたい事を知らせてゆくのだ。テレサとメラニアにとってはいつもの事だが、アデライーデにとっては本格的な社交も初めてであるし、何も聞かされていなかったので最初は面食らってしまったが、そこは中身は人生の経験値がある陽子さんである。

すぐにメラニア達の意を汲み取り、にこにこと頷き始めた。

「楽しそうですわね。それでしたらカフェだけでなく、お芝居や美術館やエステサロン等を集めた一大テーマパークにすればいいかも知れませんわね」

アデライーデが、さらりと発したその言葉に周りがしんと静まり返った。