作品タイトル不明
153 自覚と二度寝
「貴女は離宮での暮らしが寂しくないかい」
「え?いいえ…マリアやレナード達もいますし、子供たちもいますわ。毎日賑やかですわよ。アルヘルム様やタクシス様もお忙しい中いらっしゃってくれますし…」
そう言って笑うアデライーデに「そうか…賑やかか…」と言ってアルヘルムは微笑んだ。きっと、どう聞いてもアデライーデは自分から望んだ離宮暮らしを寂しいなどとは言わないだろう。
それでもマリアが「お寂しそうでした」と言うのであれば、自分は少しはアデライーデの心の中に存在するのだろうと思っていても良いかと考えていた。
「少しずつ…だな」
女性が喜ぶような甘い言葉にとても照れる恥ずかしがり屋のアデライーデ。彼女の落ち着きに自分と同じくらいの大人の女性として接してしまいがちになるがまだ少女なのだ。
ゆっくりと2人の間を縮めていけば良い。これから時間はたくさんあるのだから焦る必要はない。
「? なにか?」
「いや、何事も少しずつだなと思ってね」
「あ、島のことですか?そうですね。少しずつ確実にですわね」
「あぁ、そうだね…」
自分の言葉を別の意味に受け取ったアデライーデの言葉に頷くと、彼女の肩を抱きアルヘルムは離宮への道をできるだけゆっくりと歩くことにした。
「お帰りになりましたね」
散歩から帰ると、すぐにアルヘルムは迎えの馬車で王宮に帰っていった。いつもの様にアデライーデを抱きしめ額にキスをして。
「ええ…そうね」
マリアにそう応えると、少し眠いからと自室に戻った。マリアにコルセットも外してもらいストンとした夏用の部屋着に着替えさせてもらうと、マリアはカーテンを閉めて部屋を出ていった。
ベッドに横たわり目を閉じてゴロゴロする。
「………大事にされてるわよねぇ」
日本人的にはものすごく積極的に感じるが、きっとこの世界の基準ではアルヘルムのハグもキスも紳士的なのだと思う。
未だに慣れないが、さっきみたいな別れの時のハグも離宮の皆から微笑ましいものを見る目で毎回見られている。
「額へのキスは可愛いものや愛らしいものへのキスだったわよね」
親が子にしたりするおでこやほっぺたにキスする、あれだ。
「うーーん」
1人赤くなりながら、枕を抱きしめて湖畔での出来事を頭の中で反芻する。
少年っぽい笑顔でバルクの未来を話しながら笑うアルヘルムの顔が浮かんた時に枕を抱く手に力が入った。
「ダメだわ…。なんか…おかしいわ…。そうよ…こんな時は寝よう!寝るべきだわ」
陽子さんは、何かに気がつく前に寝るべきだと目をしっかりと閉じてベッドの中に潜り込んだ。