軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

136 遊戯室での噂話

「聞きたい事は聞けたか?」

「あぁ、とりあえずは…な」

レナードから遊戯室に案内されソファに腰を下ろしたアルヘルムは、タクシスにそう聞くとニヤリと笑ってソファに深く座り直した。

遊戯室は、隣の喫煙室と繋がっていてカードゲームをしたりビリヤードをしたりする男性の居場所だ。

アルヘルムはレナードにライムモヒートを2つ頼むと、今日1日かけて決めた事を振り返りはじめた。

特別な贈り物である炭酸水の瓶は、午餐の前に工房に使いを出している。他の炭酸水も同じ青で統一感を持たせたワインボトルを既に用意させている。

数日後にはビューローの元に届き、50本の贈り物は1本ずつ特別な飾り箱に詰められて、帝国からの使者と先に帝国の皇后陛下へと贈られる予定だ。

報告によれば帝国からの使者は、監視兼案内役として付けた文官に帝国では珍しい港町を是非見てみたいと願い、毎日のように海を見ているらしい。おっとりとした人好きのする使者は飽きもせず文官と空き時間を散策で過ごし「素晴らしい景色だ」とメーアブルグを楽しんでいるという。

「あとは任せろ。聞くべきことは聞いたからな」

「あぁ、任せる」

「アデライーデ様は、自分のされた事に気がついてないようだ」

「そうだな…。彼女は自分がしたいようにしているはずだよ」

アルヘルムが王宮で振る舞ったフライドポテトのおかげで、貴婦人の間で携帯用のスティックがあっという間に広がった。そのスティックの依頼で、王都の工房が活気づいている事をアデライーデは知らない。

貴族が持つのは、ただのスティックではない。

凝った細工彫りだったり宝石を付けたりと趣向を凝らし、夜会で競い合うように新しいスティックを披露しあい贈りあったりしている。またスティックを仕舞う小型のバッグも流行りだしている。

陽子さんが聞けば「爪楊枝でいいんじゃないかしら」と言うだろうが、そこは貴族としての感覚が違うのだろう。

タクシスが商会を立ち上げようとしたきっかけは、それだ。

「感覚の違い」……

アデライーデの造らせたものは、産業を生み出しバルクを豊かにする力を持つと感じたが、当の本人はどこ吹く風で貴重なレシピや道具をあっさり簡単に教えてしまう。

これが夫であるアルヘルムや離宮の周辺で終わっているから良かったのだ。平和なバルクだが火種が全くないわけではない。アデライーデが生み出す利権を巡り、王宮内が割れないためにもタクシスは、すぐさま商会として利権を抑えたかったのだ。

王権が強大であれば、国の乱れは少ないのだ。

そして正妃であるアデライーデが造らせたものは、否応なく流行を生む。そして貴族が好むものは、いずれ裕福な中流階級に流行り庶民に浸透していくはずだ。

「炭酸水との相性もいいしな」

王宮で少しだけ振る舞ったライムモヒートは、先王に炭酸水を飲まされた高位貴族の1部が気がついて購入したいと打診がきている。帝国への輸出が終わったあとに大々的に売り出す予定だ。

「ビューローのところの準備はどうだ」

「王宮御用達のワイン工房から瓶詰め職人を派遣している。彼女なら間違いはない。帝国への輸出用の炭酸水はすべて彼女の手を通す」

瓶詰め職人のデルマは、女性ながらこの道の熟練の職人だ。今回の帝国へ550本は全て彼女が詰め、雇われた孤児たちは彼女の指導で国内用に売り出す炭酸水を詰めていた。

フライヤーもピーラーも、生産の準備は着々と整っている。

あとは、お披露目をするタイミングさえ測ればいい。

「宝飾のガラスだが…話は聞いた事あるのか?」

「いや、初めてだ」

バルクはガラスの生産はしているが、その殆どは板ガラスや瓶の生産だ。ガラスはどの国でも産出出来るので加工され庶民でも窓ガラスを使う事ができる。

ただ宝石代わりに利用するには、魅力のない輝きである。

そのままではとても使えない。

「しかし、あの瓶は確かにきれいだったな」

「ああ、工房に確かめてみよう。今までと同じ作り方なのか」

「……アデライーデ様と縁があって良かったな」

「うん?」

「いや、当初輿入れの話があったカトリーヌ様…だったかな。最近帝国の侯爵家と婚約されたそうだが、あまり評判が良くないようだ」

「ほぅ」

元々結婚適齢期のカトリーヌをすっ飛ばして、成人前のアデライーデが輿入れしたのだ。

カトリーヌはいつ輿入れしてもおかしくない。

しかし、カトリーヌが婚約を急いだのには訳がある。

バルクに嫁ぐのを嫌がりアデライーデに押し付けたと言う話が囁かれはじめ、それを打ち消すために実は母方の実家の派閥の侯爵家に嫁ぐ話があったとして急いで話を纏めたのだ。

相手は2つほど年下の侯爵子息だ。

長く続いた戦争で帝国に結婚適齢期の男性は少なく、年下とはいえそれでも年が近いのはその子息しかいなかったのだ。

2つくらいどうしたと言うのだ。自分とアデライーデは18離れている。親子と言われてもおかしくない年の差にアルヘルムはちょっと…いや…実は最近かなり気にしているが、誰にも言えないでいる。

その侯爵子息には帝国では珍しく幼い頃より伯爵令嬢の婚約者がいたが、今回のカトリーヌと侯爵子息との婚約で、令嬢との婚約は瑕疵がつかないように白紙撤回になった。

派閥の力関係と皇女降嫁。

皇女降嫁にあたり、子息の侯爵家は陞爵され公爵となり伯爵令嬢の家にも条件の良い商取引がもたらされ見舞金という名の令嬢への個人領地がダランベールから贈られた。

若い2人は、彼らの家にも派閥の長であるカトリーヌの母方の実家であるダランベール侯爵にも歯向かえなかった。

2人は幼い頃より仲が良かったがこれも貴族の定めと泣く泣く受け入れたが、カトリーヌは子息に婚約者がいた事が気に入らなかったようだ。

それも仲が良かったと言うのがもっとも気に入らず、夜会や晩餐会で会えば、子息の目の前で元婚約者の令嬢に辛くあたっているらしい。

帝国に炭酸水の出荷にあたり、国境のライエン伯爵の領地を通過する挨拶と荷車の警備を依頼するために訪れた時に、小耳に挟んだのだ。

社交シーズン真っ盛りの今、国境のライエン伯爵の家令の耳に入るくらいなのだから相当なものなのだろうと、タクシスは思っていた。