軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

135 午餐と中座

「お話も長くなってきましたし、一旦休憩とされてそろそろ午餐に移られてはいかがでしょうか」

レナードの勧めで、アデライーデ達は食堂に移動した。

思ったより話が長引き、気がつけばとっくにお昼の時間となっていた。

いつもマリアと2人で食事をとる食堂は、緊張気味の侍従達が準備をして待っていた。

主の席には当然アルヘルムが座る。両脇にアデライーデとタクシスが座ると食前酒に炭酸水で割った蜂蜜酒が出てきた。

冷たく冷やした蜂蜜酒の炭酸水割は、最近のアデライーデのお気に入りだ。

前菜にはハーブとラディッシュを散らし、縦にピーラーでスライスしてくるくると巻いたきゅうりに飾られたポークパテが出された。

夏の前菜らしく目に涼やかな1品だ。

「この緑のものは……きゅうり?なのかな…」

「ええ、スライサーの使い方の1つですわ」

「食材の皮むきだけでなく、盛り付けにも使えるのですね」

アルヘルムとタクシスは物珍しげにきゅうりを口にした。

「食べ慣れていても、見た目が違うとまた面白いな」

「ええ、スライサーを購入する良いきっかけですね」

「ああ、料理が映えるな。これも購入したいと飛びつくだろう」

2人はにこにこしながら前菜を口にした。食事の時にまでスライサーの販売のことを考えているのかしらと、陽子さんは少々呆れ気味に見ていたが、実際に自身が料理する訳ではない貴族がスライサーを購入したいと考えるのは料理にどのように使われるかだ。

盛り付けを華やかにするのであれば、主催する晩餐会や夜会で使いたいと思うはずである。

スープは、冷製の海老のビスク。

ひんやりと冷やしてあり濃厚な海老の味わいが、なんとも言えずに美味しい。アルトの得意料理の1つでよく離宮でも口にする。そのオレンジ色のクリーミーで濃厚なスープにはたっぷりの海老が使われていてアデライーデの好物の1つだ。

本日は海老がメインのコースで、これに小エビのサラダと鶏モモ肉と大エビのフリカッセと続く。

鶏モモ肉と車エビのフリカッセは、白ワインのアルコールをとばしたものに甲殻類のソースと生クリームを入れて作ったソースに、カリッと焼いた鳥もも肉を入れて焦がさないように芯まで火を通して引き上げたあと、エビを入れてさっと火を通した料理で1皿で肉とエビを楽しめる贅沢な1品だ。

いつもなら海老だけだがアルヘルムとタクシスがいるので、アルトは鶏モモ肉と車エビのフリカッセをメインにしたのである。

付け合せには、ポテトカッターで均一に揃えられたフライドポテトが少々添えられたボリュームのある皿に、2人は大いに満足して午餐を終えた。

食後は居間に移り食後のお茶をしながら、タクシスから財務部にそろばんの導入が決まったと聞いて、アデライーデは飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。この前アルヘルム達が試作を城に持っていったばかりである。

王宮で使っていいかと聞かれて、確かにどうぞと言った覚えはあるが早すぎじゃなかろうか…。

「決定って、早くありませんか? 試作をお持ちになったのは先月ではなかったですか」

「そうですが、財務部長からの強い依頼がありまして」

タクシスも苦笑いをしながら説明してくれた。

アルヘルムは前回試作のそろばんを城に持って帰ると財務部の部長を呼び、簡単な足し算をして見せ「試してみよ」と渡したらしい。

その時、部長はアルヘルムから本当に簡単に使い方を聞いただけだという。

数日後、部長は秋の予算申請の時に枠を作るので、是非このそろばんを財務部に入れて欲しいと興奮気味に言ってきた。

財務部長は、アルヘルムが見せた簡単な足し算と引き算を見てすぐにそろばんで計算をしてみた。

過去の帳簿をひっぱり出してきて、数年分の確かめ算をすると使い方のコツを掴んだようで面白いように計算が進む。

そろばんがあれば、今まで計算の為に大量に使っていた計算用紙と残業代を削減できると申し出たのだ。

「文官にそろばんを使わせたいので、導入したいが一体いくらで購入できるか早くアデライーデ様に聞いてくれと矢の催促でして…」

「私が自分で使いたいから作らせただけでしたし…子供たちに使わせようとは思っていましたが、売値など…考えてませんでしたわ」

「アデライーデ様、計算にはとても便利だと財務部長も太鼓判を押しております。そろばんもいずれ広く国内外に広がると思いますので商会で取り扱ってもよろしいのでしょうか」

「構いませんが…。庶民に売る時にはできるだけ安く売ってほしいのです」

元々自分用に作らせ、アベル達が自立する時に少しでも役に立てればと良いと思って作ってもらったそろばんだ。高額で売り出され庶民の手に届かなくなるのは避けたい。

「しかし、このような価値ある物はそれなりの価格で売り出すべきですが…」

価値ある物は当然その価値に見合うだけの価格にする。それは当然の事だとタクシスは主張したが、アルヘルムによってアデライーデの希望が通った。

国民全体に奨励してそろばんを普及させれば、それ程単価をあげなくても良いだろうと…。なによりアデライーデがもたらしたものなのだからと言われればタクシスも引かざるをえなかった。

結局、庶民が使うそろばんは価格を抑えるが、貴族用の装飾を施したオーダー品はそれなりの価格と言う事で落ち着いた。

長かった商会の話もやっと終わり、アデライーデは晩餐の着替えの為にマリアに連れられ中座した。どうにも慣れないが晩餐にはそれに相応しい装いが必要らしい。

アルヘルムとタクシスは、その間遊戯室に案内され晩餐を待つこととなった。