軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

119 ラベルと夜食

日が落ちてしまった頃にアルヘルムが騎士達とともに城からやって来たと聞いたときには、アデライーデはびっくりして玄関まで出迎えに行った。

「アルヘルム様、どうされました?」

「レナードから、手紙をもらってね」

レナードにマントを外して貰いながらアルヘルムは手袋を侍従に渡してそう答えた。

「まさか、手紙を出した当日お越しになるとは思ってませんでした」とレナードも少々呆れ気味にそう言うと、2人を居間へと案内した。

アルヘルムは居間のソファに座ると、ライムモヒートを頼み美味しそうに飲み干した。

「この季節に冷たい飲み物があるのは、ありがたいな。皇后様が皆に紹介したいのもわかるよ。依頼書が入っていたって?」

「ええ、その為にわざわざ申し訳ありません」

「良いんだよ。皇帝陛下からもよろしく頼むと手紙をもらったしね。初めての舅殿からの依頼だし、バルクとしても出来るだけ速やかに対応しようと思う」

アデライーデが渡した依頼書を見ながらアルヘルムは優しく笑ってそう言った。

「500本か…すごいな…それにこの値段。水とは思えないな」

「ええ…。多分、今後も定期的に依頼されると思います。他からの注文が来てもこれ以下の値段では出さないようにと書かれてました。あと、瓶とラベルはちょっと見栄えを良くして欲しいと皇后様がご希望されていて、瓶をどこに頼もうかと…」

「瓶は、工房に心当たりがあるからそこに頼むと良いよ。すぐに用意してくれるはずだ。色や形に希望があるかい?」

「形はワインボトルの形でも良いと思うのですが、その500本とは別に50本ほど小瓶を作ってほしいのです」

「小瓶?」

お茶会で皆に紹介するなら、瓶を手に取れたほうがいい。見栄えの良いものであれば、誰しも手にとってじっくり見たいはずである。しかし、女性の手にはワインボトルのサイズだとちょっと大きすぎる。350mlか500mlくらいのサイズのものがちょうどよいのだ。

「なるほど。それなら小瓶も作ったほうが良いね。瓶の色はどうしたい?」

「色は青が良いかなと思っています。湖とバルクの海をイメージさせるので」

「…良いね。バルクの湖と海の青。それに君の瞳の色だしね」

アルヘルムはアデライーデをじっと見つめ2人で行ったあの花畑を思い出していた。

--あの花も青だったな。

「ラベルなんだが…ちょっと待っててくれるかい」

2杯目のライムモヒートに口をつけ、アルヘルムは居間から出ていくとしばらくして手に数枚の紙を持って帰っきた。

アルヘルムがアデライーデに手渡したのはラベルのデザインだった。

「これは…?」

「昔父上が炭酸水のラベルにと作らせていたものなんだよ。結局貼ることはなく、執務室に眠らせておいたんだ。参考になるかと思う」

そう言うと、アルヘルムはアデライーデの横に座り懐かしそうにラベルのデザインの紙を見始めた。

ラベルのデザインは湖の側に建つ離宮のデザインのものと、村の景色のものが数枚あった。

それぞれに金文字で『Seedorf』とありアルヘルムの父王が泉を見つけた年が書かれていた。

「素敵なデザインですわね。良ければこのラベルをそのまま使いたいですわ」

先王が頼むのならそれなりに名のある工房に依頼したのであろう、まるでワインのラベルの様に凝ったデザインのラベルは、陽子さんが見ても素敵だと思うデザインだった。

「いいのかい?これをそのまま使っても?」

「ええ、せっかく先王様が残して下さったものですしこのままになるのはもったいないですわ。それに先王様があの泉を見つけてくださらなければ、私コーラを飲めませんでしたわ」

「そうか…ありがとう。父も喜ぶよ」

そう言ってアデライーデの額にキスをして、アルヘルムは感謝をした。父が生きていたらどんなに喜んだだろう。

「このラベルに、少し付け加えたいんだ」

「なにをですか」

「この離宮の絵の隅にネモフィラの花をね。このラベルに貴女がこれを世に送り出したという印を残したいんだ」

「そんな…私は何もしていませんわ。たまたま皇后様に気に入っていただけただけで…」

「いや、貴女がいなければこの水もラベルも日の目を見なかったはずだ。私自身もこの水の事はすっかり忘れていたくらいだからね」

「いえ…、でも…」

--コーラやライムモヒートは自分が飲みたかったから作ったのだし、そんな大袈裟に言われても…

「良いじゃないか、ふむ…花だと二人にしかわからないな…。そうだ!君の肖像画をばーんと…」

「やめてぇ!絶対嫌です!」

アデライーデが頬を抑えて絶叫すると、アルヘルムはなぜアデライーデが嫌がっているのかわからないという顔をした。

「え?どうして?」

「どうしてもです!」

すでにアルヘルムとアデライーデの結婚記念の油絵は模写され王都のあちこちに貼られているのだ。もちろんメーアブルグの商店の中にも飾られている。屋台にしか行かなかったアデライーデが知らないだけなのだ。

悲鳴を上げて拒絶するアデライーデと、是非にと勧めるアルヘルムをマリアとミア達がうっとり見つめ、レナードは深い深いため息をついていた。

瓶は青。ラベルは小瓶には離宮の絵を。大瓶には村の景色の2種類と決めた。先王が残したラベルのデザインを全て使いたいとのアデライーデの希望だった。

結局、肖像画はなし。

どんなに小さい肖像画もラベルに描かれるのは嫌だと駄々をこね、最初の案のネモフィラの花に落ち着いた。

レナードのアデライーデ様ひとりだからご遠慮なさるのでしょう。アルヘルム様も何か参加されれば?との声にアルヘルムは「A&A」とネモフィラの反対側にサインをした。もちろん、アデライーデとアルヘルムのイニシャルだ。

やっとこさで、ラベルのデザインが決まった時にはアデライーデはぐったりとしてコークハイを飲み、アルヘルムは夜食のカツサンドをパクつきながら炭酸水の説明書には是非アデライーデの肖像画を入れようと考えていた。