軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

103 ベランダフイッシュアンドチップス

「本日、陛下は晩餐を離宮にて召し上がるそうです」

「それは…仲の良い事で善き哉…善き哉。で、それでお帰りはいつになると?」

「は、お帰りについては特にはございませんでした。離宮で晩餐を楽しみたい。それだけでございました」

ピキッ!

ギュンター・マルツァーンがアルヘルムからタクシスへの伝言を伝えた途端、タクシスは穏やかな笑顔に青筋を立てた…

「あの…タクシス様?」

「……あ?あぁ申し訳ない。伝言ありがとう」

元々タクシスは厳つい顔をしている。

体も大柄で宰相より将軍の方が似合うと言われていると知っているので、普段はできるだけ穏やかな顔をするように心掛けているが、今の伝言を聞いて思わず青筋を立ててしまった。

ギュンター・マルツァーンは、無言で礼をするとくるりと執務室の扉に向かいタクシスを刺激しないように扉をそっと閉める。

触らぬ神に祟りなしだ。

アルヘルムが執務室で寝ているとばかりに、夕方起こしに来たら執務室はもぬけの殻だった。すぐに馬丁の元に向かうと「アルヘルム様はお忍びにお出かけされました。行き先?お聞きしませんでした」と馬丁頭がさらりと言った。

この馬丁頭は、若い頃アルヘルムと二人で城を抜け出していた時に馬を出してくれた馬丁だ。レナードやナッサウ達にどれだけどこに行ったのかと聞かれても、「さぁ?お聞きしませんでした」ととぼけて味方になってくれた馬丁だが、今は自分にも同じ事を言う。

あの時のレナード達の気持ちが今になって分かる。

「どうせ、離宮だ…」

行き先はわかっているが、寝たフリで出し抜かれた感が悔しい。

--わざわざ行かなくても、数日すればアデライーデ様は王宮に来るじゃないか。そんなに待てなかったのか?あいつ…

日も暮れてくると、侍従やメイド達が晩餐や寝所の支度のためにタクシスにアルヘルムの動向を確認してくる。

王様とは言え、毎日正式な晩餐をするわけではない。

大半は執務室の隣の簡易リビングでタクシスと簡単に済まし、週に何度かテレサや子供達と朝食や晩餐を取ることが多い。寝所も基本的に夫婦別室なのでメイド達はその日の予定をアルヘルムかタクシスに確認するのだ。

晩餐は仕事が立て込んでいると言い、簡単なものを執務室の隣に運ばせた。そろそろメイドが寝所の確認をしにくる頃だ。そんな頃にフィリップの乗馬の指南役のギュンター・マルツァーンがアルヘルムからの伝言を 携(たずさ) えてやってきたのだ。

「あいつ…絶対泊まってくるつもりだな。帰ってきたら覚えてろよ!」

王がお忍びで外泊なんて、変な噂でも立ったら面倒くさいのでこの日タクシスはアルヘルムのアリバイ作りの為に仮眠所に仕方なく泊まることとなる。

フィリップを送り出した後、アデライーデはアルヘルムからフイッシュアンドチップスを晩餐に食べたいと強請られていた。

レシピをアルトに教えるのは良いが、すでに晩餐が近いこの時間…

食事直前にメニューの変更を料理人に申し出るのは主婦として、どうしても言いたくない。

まして、初めて作る料理をすぐに出せ…なんて言われた日には愕然とするだろう…。

揚げ物をしたことが無いアルトにレシピだけ渡してもどうかと思い、食後のお酒のおつまみにベランダでお座敷天ぷらならぬ、ベランダフイッシュアンドチップスをしてもいいかとレナードに聞いてみた。

レナードはそれは…と渋ったが、アルヘルムはそれは面白いとすぐさま許可を出したのでレナードは渋々アデライーデが準備して欲しい物を書いたメモを持って下がって行った。

アルヘルムはご機嫌で晩餐を済ますと、ベランダに用意されたラードが入った深鍋を興味津々で見ていた。

アルトはアデライーデに指示してもらいながら用意された小麦粉に卵を1つと水を入れ少量の重曹と酢を足して衣をつくり、棒状に切って水気を拭き取った白身魚を入れ二股の大きな調理用のフォークでそっと油に入れた。

ジャガイモは太めに切っていたものを素揚げにする。

初めて作る料理に失敗しないかアルトは気が気でなかったが、どんなものができるか料理人としては大いに興味がある。

アデライーデの作って欲しいと言うレシピは独創的で作っていて楽しいのだ。

少しするといい匂いが辺りに漂ってきた。ジュワジュワと音を立ててキツネ色に白身魚が揚がると、素揚げのポテトの上にそれを乗せてレモンの串切りとお塩、それにパセリや刻んだ玉ねぎを入れたサワークリームソースを添えてアルヘルムの前に置いた。

「アルヘルム様、これがフイッシュアンドチップスですわ」

「美味しそうだ」

アルヘルムは、揚げたてのフイッシュアンドチップスにレモンをたっぷりとかけ塩とサワークリームソースをつけた。

「これは…!美味い」

「お口に合いましたか?」

「もちろんだよ」

アルヘルムはさっき晩餐を食べたというのに、パクパクとフイッシュアンドチップスを平らげてしまった。

「貴女のレシピのものは、美味しいものばかりだ」

「アルトに覚えてもらって、王宮でも召し上がれるようにしますわ。それに他にもレシピはあるんですよ」

「本当かい?それは…楽しみだな。でも貴女のレシピの料理は最初に私が口にしたいんだ」

「まぁ、そんなに気に入っていただけたのならそうしますわ」

--初めて食べるものって楽しみよね。

陽子さんは、アルヘルムが珍しい料理に夢中になっていると思っているようだ…。

アルヘルムは自分の知らないアデライーデの何かを、自分より先に誰にも知られたく無かった。それが例えフィリップでも兵士たちでも。

微妙にすれ違っているがその晩アルヘルムはアデライーデと長く語らい、レナードの思ったとおりアルヘルムは離宮に泊まって行くのだった。