軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

101 分厚いパンケーキとスフレパンケーキ

「アルヘルム様?」

寂しげな顔でアデライーデの髪を撫でるアルヘルムを見て、陽子さんは一生懸命考えていた。

--頼ってほしいって…。なにを? 相談が遅かった?試算書作る段階で相談すれば良かったのかしら? 持参金を使わずにお願いするべきだった? うーん、でも急な出費って困るわよね? しかもランニングコストなのよ?

あーでも、今のアルヘルム様って、にゃーごが好きじゃないダイエット用の猫缶出された時の切なげな顔に似ているわ。

アルヘルムはアデライーデの髪を撫でながらお互い見つめ合っている、傍から見れば、なかなかに良い男女の雰囲気なのだが…。その状況でそんな事を考えていた。

アルヘルムは、自分を見つめながら陽子さんちの猫に似ているなんて思われているとは思いもよらぬだろう。

陽子さんは人生経験は豊富だが、恋愛偏差値は低い…。

何人か彼氏はいたが、「俺に全て任せて、女は黙ってついてこい」と言うタイプが多い昭和世代で、相手が思うような甘え方ができずにすぐにお別れになっていたのだ。

そもそも、自分で調べられる事を調べるのは当たり前と思う性格である。夫の雅人さんは昭和の男には珍しく「君はどうしたいの?」と言う人だった。

なにかするにも、事前に調べてこうしたいのと言うと「いいね、よく考えてるね。それでいいんじゃないかな? ここだけこうしたら?」と言われ頼って欲しいと言われたことがない。でも頼っていた。

そもそも今回だって頼っているからアルヘルムに孤児院を運営してもいいかと相談しているのだ。

--聞いた方が良いわよね?

「アルヘルム様? 頼ってほしいってどのように?」

どストレートだ…………

しかもその言い方は、男心に結構『くる』言い方だ…

「………」

「?」

「事前に相談を…して欲しい…かな…」

--今、しているわよ??

陽子さんは、少し困惑して小首をかしげてアルヘルムを見る。陽子さんは無自覚にあざとかわいい攻撃をしているのに気がついていない。

「二人で色々考えたいし…」

少し目を泳がせながら気恥しそうにアルヘルムは呟いた。

--あぁ、やっぱりアルヘルム様は、細かく相談して欲しいタイプなのね!

一人納得して、陽子さんはにっこり笑った。

「わかりましたわ。それでは相談しますね!」

いや、基本的にわかっていない。

「あぁ、どんな事かい?」

アデライーデの笑顔に釣られてアルヘルムはそう答えてしまった。

「子供たちに何を教えたら自立できるか一緒に考えてくださいますか?」

「もちろんだよ」

惚れた弱みなのかもしれないが、「一緒に」という言葉にアルヘルムは嬉しくなったのだ。

アルヘルムに庶民はどのくらいの文字がかけてどのくらいの計算が必要か、庶民の生活はどのようなものかを聞いていたら、レナードがお茶の支度を四阿の隅で始めコーラをデキャンタに入れてテーブルに置いた。

「これは?」

「アデライーデ様のお持ちになったレシピでお作りしたコーラというものです。ぜひ陛下にもお出ししようとお持ちしました」

小さなワイングラスに注がれたコーラの泡を見つめてアルヘルムは「これは…もしかして…」と言うと、レナードは「ええ、炭酸水を使っております。美味しゅうございますよ」と勧めてきた。

「そう言えば、アルヘルム様は炭酸水は苦手でしたわね。まだライムモヒートの方が良いかしら…」

「いや、苦手ではないよ。いただくよ。君のレシピなら是非飲んでみたいな」

そうは言ったが実を言うと飲めるようになったとはいえ、炭酸水は未だに苦手だ。しかしアデライーデが持ってきたレシピのものには興味がある。レナードの報告書でも美味しいと書かれていた。

そっと口をつけると、スパイシーな風味と甘さが癖になる味だった。それに昔飲んだ強烈なシュワシュワ感は無い。程よい炭酸の冷たい喉越しに美味いと驚いた。

「美味しいね、初めて飲んだよ。しかもこれなら炭酸水も飲みやすくていい。帝国ではよく飲むものかい?」

炭酸水が苦手なら無理かもしれないと思っていたが、気に入ってくれたようだ。

「ありがとうございます。多分私しか知らないレシピですわ」

「スパイシーで癖になりそうだ」

ゴクゴクとコーラを飲み干すと、アルヘルムは拳で口を抑えゲップを噛み殺すと「ちょっと注意が必要かな…」と呟いた。

「コーラはアデライーデ様が村の食堂でも飲めるようにして、最近は皆によく飲まれています。それにこちらが最近離宮で流行りのケーキでございます」

バターを乗せた小ぶりな分厚いホットケーキとパウダーシュガーのかかったスフレパンケーキが乗ったプレートをアルヘルムにサーブすると、生クリームをプレートの端に添え、蜂蜜の入ったポットを側に置いた。

アデライーデが料理人のアルトに頼んで作ってもらったパンケーキだ。

この世界のケーキはずっしりとしっかりした生地のケーキがほとんどである。パウンドケーキのような生地にナッツやドライフルーツを入れた甘くて食べごたえのあるケーキが主流なのだが、アデライーデには少々ヘビーすぎるのだ。

ふわふわした柔らかいケーキはスフレチーズケーキだけしかなく、もっと手軽に食べたくて昔よく作った自家製ホットケーキミックスのレシピをアルトに教えた。生地に炭酸水を使って作るとよりふわふわになる。

パンケーキと言えば薄い出来上がりの物しか知らなかったアルトはこのふわふわのパンケーキのレシピに夢中になったのだ。

アルトは試作に試作を重ね、陽子さんがよく知る分厚いパンケーキとスフレパンケーキを完成させた。

「こんなに柔らかいケーキは初めてだ」

「アルヘルム様の好みでバターや蜂蜜をつけてくださいね。果物を添えても美味しいんですよ」

「これも君のレシピかい?」

「えぇ、まぁ」

--ネットで知ったレシピとは言えないわよね。

アルヘルムはバターをたっぷりと生クリームをちょっとつけて食べるのがお好みのようであっと言う間に食べて、レナードにライムモヒートを作ってもらっていた。

「離宮の生活は楽しいようだね」

「ええ、アルヘルム様のお陰ですわ」

「私も一緒に楽しみたいよ」

「今、楽しんでますよ?」

「そうだけど、ここでの時間をもっと作るべきかなと…」

アルヘルムは、王宮にいた時よりここで真剣に孤児院の事を話したり、珍しいレシピを楽しんでいるアデライーデと、もっと一緒に時間を過ごしたいと考えていた。王宮にいる時はどうしても政務に追われる。

--時間を作ってこちらに来たほうがゆっくり過ごせそうだ。それに来る度に面白い話も聞けそうだしな。

アルヘルムがアデライーデを抱き寄せようと手を伸ばしたときに、遠くからアデライーデを呼ぶ声が聞こえた。