軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29話

コーディーの誘いに二つ返事で乗ったハロルドだが、普通に考えれば子どもの独断で好きにできるものではない。

その辺りが気になったのかコーディーと別れた後もイツキはしきりにどうやって両親を説得するつもりなのか、と問い詰めてきた。

しかしハロルドとしてはあまり障害になるとは思っていなかった。

ハロルドの両親は見栄や肩書きに執着する人種だ。そして聖王騎士団に入るということはそれだけで名誉なこととされている。

なにせ騎士団は国の軍隊とはまた違い、国王直属の精鋭部隊なのだ。父親のヘイデンも若かりし頃に目指していた、という過去がある。

溺愛している息子がエリート集団たる騎士団にスカウトされたらあの両親はどうなるか、その答えは火を見るよりも明らかだろう。

コーディーの連絡先を入手したハロルドは、もうこの街に用はないと言わんばかりに翌日にはデルフィトを発った。

道中スメラギ領に立ち寄ることもなく、2週間ほどの旅路を終えてストークスの邸に舞い戻ったハロルドは、すぐさま両親へと報告した。

「改まって話とはどうしたんだ?」

「父さんと母さんに伝えておきたいことがあってね。デルフィト滞在中に聖王騎士団の人間にスカウトされたんだ」

「何!それは本当か!?」

「うん。俺が望めばすぐにでも、だってさ。史上最年少での入団だよ」

「すごいわハロルド!」

「俺は騎士団に入りたい。いいかな?」

「もちろんだ!」

予想通り、話を聞いた二人の反応は上々。特にヘイデンの喜びようは半端ではなかった。

昔叶わなかった自分の夢を息子が成し遂げてくれた、とでも思っているのかもしれない。

エリカと一緒にデルフィトの闘技大会を観光しに行ったら騒ぎを起こしている暴徒に遭遇し、それをものの見事に鎮圧したらスカウトされた、という都合の良いところを抜き出して経緯を説明してもまるで疑いもされなかった。

それどころか「祝宴だ!」とすぐさま祝賀会の準備に取りかかる。分かっていたことだが止める気は皆無らしい。

(騎士団って危険地帯にもガンガン出張るんだけどなぁ。仮にも嫡男が死んだらどうするんだか)

昂る両親を見ながらそんなことを考える。

まあ危険だろうと元から騎士団には入るつもりだったので止められた方が困るのだが。それにヘイデンも軍人なのだからその辺りは諸々承知の上なのだろう。

こうして早々に了承を得たハロルドは、急遽開催されることになった祝宴の準備で慌ただしくなった邸内を我関せずと歩き回り、ノーマンとジェイク、ついでにゼンを自室へと呼び寄せた。

顔を揃えた3人にハロルドは告げる。

「俺は王都に行って聖王騎士団の一員になる。LP農法はスメラギの主導にはなったが、何か動きがなくてもこっちの状況は定期的に知らせろ」

「王都となるとかなり遠方ですね」

「早馬で駆けられる距離ではありませんし、定期的に連絡を取るのであれば手紙に限られますな」

「それだと少々時間がかかってしまいますね」

「構わない。どうしても早急に報せを届けたい場合はスメラギと連携を図れ。話はつけておく」

「畏まりました」

不在となる間もストークス家の動きが把握できるようにあらかじめ連絡手段を取り決める。万が一にもこちらで不穏な動きの兆候が表れたり、状況が変化した時に、可能な限り迅速な対応が取れるようにするためだ。

しかしそこに介入する者が一人。

「って、ちょっと待ってくださいよ!ハロルド様、騎士団に入るんですか?」

「そう言ってるだろう。貴様の耳は飾りなのか?」

「いやいやいや、ノーマンさんとジェイクさんもさらっと受け流してますけど!普通にとんでもないことですよね!?」

やたらと興奮しているゼン。普通にとんでもないこと、というのが文章的に正しいかは置いておくにして、ゼンが言いたいことは分かる。

だが面倒なので無視することにした。

「話は以上だ。さっさと仕事に戻れ」

「はっ」

ノーマンとジェイクは頭を下げて退出し、まだ話を聞きたそうにしていたゼンもそれに倣った。

一人となった部屋で、ハロルドは大きく息を吐く。それは深呼吸とも、ため息ともとれるものだった。

そこに込められた意味は慣れ親しんだ家を離れる寂寥感なのか、親の目から逃れられる解放感なのか、ハロルド自身も定かではない。

3年。

それがわけも分からずこの世界に来てから経過した年月。その中で最も長い時間を過ごしてきたのがこの邸、そしてこの部屋だ。

そこから離れることに関して何も思うところがない、というわけではないのだろう。

とはいえ騎士団に入るのは原作を踏襲するための既定路線だ。予定が少し前倒しになっただけである。

こうして揺らめく心にサクッと踏ん切りをつけたハロルドは、後日大々的に開催された自身の騎士団入団を記念した祝賀会を両親の前でのみ発動する敬語と愛想笑いで適当にやり過ごし、スカウトから1ヶ月を待たずして早々に邸から出立することにした。

すっかり慣れた手つきで手綱を握り、馬を走らせること数時間。コーディーと落ち合うため、指定された街道の途中に構えている関所に到着する。

関所とはいっても税金や物品を徴収するのではなく、不審人物や危険物・禁止物を持ち込もうとしていないか等をチェックするための施設だ。街道を遮断するように石垣が建てられており、ここを通過しないことには先へ進めないようになっている。

軽装備のハロルドはちょっとした手荷物検査をクリアして難なく関所内に入ることができた。

体を休める簡易的なテントや、道中の商人が休憩ついでにこじんまりとした露店を開いていたりと中々に賑わっている。

その一角に白い甲冑をまとった一団を発見し、馬から降りてそちらへと歩いていく。ある程度近づくと向こうもハロルドの存在に気付いて、コーディーが「おーい!」と手を振りながら声を上げた。

それにより一団の視線がハロルドへと集中する。

「やあやあハロルド君。予想より早い再会だね」

「貴様に会いに来たわけじゃない。それよりも騎士団に入れるという約束を反故にするなよ?」

「大丈夫だってー」

念押しをしてみても手応えがない。

正直スカウトの話が本当の話なのかまだ疑っている。コーディーという人間の性格を知っている分余計にその思いは拭えない。

まあ騙しはするが真っ赤な嘘をつくというわけではないので、スカウト自体が偽りという可能性は低いだろうが。

「ねぇ、まさか隊長が話してたのってこの子のこと?」

会話に割り込むように、コーディーの横に立っていた、同じく白い甲冑を着込んだ少女がハロルドを値踏みするように観察する。

「ん?そうだけど?」

「冗談でしょ?まだまだ子どもじゃないですか」

そういう少女も17、18歳ほどの見た目である。この国では16歳を過ぎれば成人という扱いになるため少女の言い分はもっともだが、ハロルドが持ち合わせている感性からすれば彼女もまだ子どもだ。

むしろ精神年齢が20歳を超える自分の方が大人に近いのではないだろうか、と感じてしまうのは当然でもあった。

「はっ、なら貴様はさしずめ子ども以下の惨めな雑魚か?」

だからついポロっとこんなセリフがまろび出てしまった。

「な、なんですって!?」

まさかここまではっきりと口答えされると思っていなかったらしい少女は面食らって一歩後ろに下がった。そこで少女の背は何者かにぶつかる。

その存在に思い至った少女は素早く後ろに回ると、自分の代わりと言わんばかりにハロルドの眼前へ突き出した。

でかい。ハロルドはまずそう思った。

次いでその顔が見るからに凶悪そうな強面だということに気が付く。その眼光に晒されただけで無条件降伏したくなるような迫力だった。

変な声が出そうになるほどビビりつつ、何か言いたげな男の機嫌を伺う。

「貴様も俺に文句があるのか?だったら女共々その体に分からせてやろう」

無論、内心のビビり具合など表沙汰にはならないのだが。

だがこれにコーディーを除いた騎士団の面々が驚いた様子を見せた。口が悪すぎて引かれたか?と思案するハロルドに、強面の男がこんなことを尋ねる。

「き、きみは……私が怖くないのかい?」

「貴様のどこを恐れる必要があるのか俺には理解できないな。どうせ戦っても勝つのは俺だ」

ハロルドの口は本人の意思とは関係なく男の疑問をバッサリ切り捨てる。

勝ち負けの話はしていないし、この男も騎士団の人間だ。それだけの実力を持っているのだから見かけ倒しということもないだろう。

これから同じ職場の同僚になる相手に攻撃性のある言葉は吐くのはなるべく控えてほしい。

まあこの口にそんな配慮など期待できないことはハロルドが1番よく分かっているのだが。

「君達さ、ハロルド君は勧誘しただけでまだ正式な騎士団員じゃないからね?まずは自己紹介くらいしたらどう?」

「こ、これは失礼を。私はロビンソンと申します」

「……アイリーンよ」

「シドだ!オレは歓迎するぜ、ハロルド!」

長身の強面がロビンソン、当たりのキツい少女がアイリーン、獅子のたてがみを連想させる橙色の髪をしているのがシド、とそれぞれが名乗る。

そして彼らの名前を聞いたハロルドの体は硬直した。

(こいつらも死にキャラじゃねーか!)

という理由からである。

コーディーが騎士団を辞める、つまりはフリエリを設立する動機。それはとある戦いによって直属の部下であるロビンソン達を死なせてしまったことに起因する。

原作のコーディーは飄々とした外面とは裏腹に、その胸の内では己の力の無さを責め、騎士団を見限った自分の選択が間違いだったのではないかと常に悩んでいた。

ゲーム終盤でそういった迷いや葛藤に蹴りをつけることができるのだが、問題はそうした原作通りに事が進むならロビンソン達が死ぬことになる、という点だ。

作中では彼らの死に対して詳細な説明がなされていない。ゲームのワンシーンでコーディーが月を見上げながら彼らの名を口にしたり、イベントで部下を亡くしたコーディーの過去が明らかになったりと、断片的な情報でしか登場しないのだ。無論キャラクターとしての設定などあるはずもなく、ビジュアルについても今初めて目にした。

仮に彼らを救おうとしても情報が少なすぎて対策の打ちようがない。分かっているのはどんな戦闘に参加して死ぬかくらいだ。

そして何より、もし彼らが生き残ってしまえば、それは原作の更なる崩壊を意味する。なぜならロビンソン達を救えば、コーディーの騎士団脱退とフリエリの設立というストーリーを破壊する可能性が極めて高い。

そうなると本来コーディーやフリエリの力を借りてクリアするイベントが消化できなくなってしまう。最悪詰むかもしれない。

つまりハロルドは選択を迫られることになった。

自分が生存する確率を優先して彼らを見殺しにするか。

もしくは原作崩壊を覚悟して、ロビンソン達を待ち受ける死の未来を回避するか。

不確定でも世界の行く先を知っているからこそ、己の決断が文字通り自身を殺すか、他人を殺すか、分かってしまう。分かっていながら、それでも選ばなければならない。

それがハロルド・ストークスとして生きると決めた瞬間に定められた、決して逃れることのできない呪縛にも等しい運命なのかもしれない、とハロルドは痛感するのだった。