作品タイトル不明
第18話 システムにアクセスしてみました
あのあと、俺は中サイズ二個と大サイズ三個の箱をすべて開けたが、ウロボロスリングや綻び石ほど、俺の頭を悩ませる物は入っていなかった。
中サイズの箱から出てきてのは、なんと二箱とも現金だ。その額合計、三万二千円。
無職の自宅警備員には、とてもありがたい現金収入だ。
物価の高騰にあえぐ俺も、これで久しぶりに深淵の果実以外のものが食べられるというもの。
「……久しぶりに焼き肉食べ放題とか、行きたいよな」
そう呟きながら開けた大サイズの箱から出てきたのは、深淵の果実が二つに、液体の入った瓶が一つ。
「うーん。焼き肉は、今しばらくお預けかー。いくら臨時の現金収入があったとはいえ、目の前にある食べ物を無駄にするほどの余裕はないし……」
そんなこんなで、液体の瓶の方の鑑定の結果は、レッサーポーションだった。
これはネットで調べたらすぐに同じような品が見つかった。
レッサーポーション。その名の通り、ダンジョンから産出する、傷を癒す回復薬。
「……正規の販売価格が十万円を越えてるよ、レッサーポーション。でもな、個人転売は特措法に絶対ひっかかってるよな。おお怖」
俺はとりあえず現金はそっと財布にしまい、レッサーポーションと深淵の果実は部屋のすみに移動して保管することにする。
一応、軽くネットで調べた感じでは、この時空の綻びなるものから物品が出てくる、という事例に言及している書き込みは見当たらなかった。
「事例が秘匿されているだけの可能性もあるけど……。でも、これって、ダンジョン内での産出品の取得とは、明らかに違うし。だから、とりあえず特例事項として明記されてないなら、ダンジョン特措法の範囲外っぽいよな……」
一般人は入ることすら出来ないダンジョンだが、利権を国防軍が握ってるだけあって、そもそも産出品の扱いや、産出品を取得した探索者への課税は、特に厳格みたいなのだ。
俺の鑑定が反応するということは、綻びのアイテムはダンジョンと何か関係があるのは間違いないが、一方でこれらを俺が手に入れたのは明らかにダンジョンではない。
そういう意味ではなかなかグレーな領域にある品々と言える。
「不用意に人目には触れないようにはすべきだよな……」
そんなこんなですべての箱開けを終えた俺だったが、どうにも気になっていることが一つあった。
そう、システムへのアクセスとやらについてだ。
改めて冷蔵庫の横の穴と、指にはめたウロボロスリングを交互に眺める。
「……まあ、まずは深淵竜がまだ戻ってきてないか、確めないとね」
そんなことを呟きながら、そっと深淵へとつながる穴を覗き込む。
「──深淵竜の姿は相変わらず見えないな。ブレスの光もないし」
ここ最近の深淵の様子と変わらない。
俺はこのまま続けるか一瞬だけ、迷う。でも結局、鑑定スキルを使用して改めて深淵を覗きこんでみる。
『アクセス可能領域です。システムへの干渉を実行しますか。使用する綻びポイント【1】』
俺の左目に映る文字列。それはある意味、予想通りの文字だった。
「──実行」
俺がそう呟いた瞬間だった。俺の左目に映る文字列がせわしなく流れ始める
『アクセス実行開始。アクセス実行──アクセス実行──接続を確認──領域:深淵に支配領域を構築開始──構築中──構築中──────』
それは、不思議な光景だった。
がらんとした広場のような深淵の床に光の帯のようなものが現れる。
ゆっくりと光の帯が曲がり、やがて床に円が描かれる。
それは人一人が立って入れば一杯になってしまいそうなぐらいの大きさしかない、円だ。
しかし、不思議と眺めていると安心感を覚える。まるでそこが自宅の続きのようにすら感じられる。
そんな不思議な感慨にふける俺の左目に新たな文字が現れる。
『深淵に支配領域を確立しました』
そして左目に映る文字はそれだけでは終わらなかった。
『称号:強奪者を獲得しました』