軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まさかの任命

「ミシャ、 監督生(プリーフェクト) には、下級生の中から補佐役を選ぶシステムがあるのは知っていただろうか?」

「ええ。先ほど紅茶を淹れていた一学年の子達のことですよね」

「ああ、そうだ」

彼らは 当番生(フォグ) と呼ばれ、 監督生(プリーフェクト) の身の回りの世話や、仕事の補佐をするらしい。

「私は一学年から 監督生(プリーフェクト) をしていたのだが、一度も誰かを 当番生(フォグ) に指名したことはなかった」

その理由は、誰かが常に周囲にいるというのは煩わしかったからだという。

「体調不良などの、弱みを見せるのも嫌だったのかもしれない」

学校側から 当番生(フォグ) を選ぶように、と言われていたようだが、ヴィルは聞く耳など持たなかったようだ。

ヴィルは懐を探り、勲章みたいな銀細工に、チェーンがついた物を私へ差しだしてきた。

「ミシャであれば、 当番生(フォグ) として、傍にいてもいい」

「え!?」

ヴィルは私の手を掴み、勲章みたいな銀細工を握らせる。

すぐ目の前で、彼のローブに同じような金細工が付けられているのに気付いた。

「こ、こちらは?」

「 監督生長(ハイ・プリーフェクト) の 当番生(フォグ) の証だ」

細工に模られているのは、ヴァイザー魔法学校の生徒の象徴である獅子の横顔であった。

「ミシャ・フォン・リチュオル。貴殿をヴィルフリート・フォン・リンデンブルグ、ただ一人の 当番生(フォグ) として指名する」

ヴィルは私の手から銀細工を取り上げ、ローブに付け始めた。

ここでハッと我に返る。

「いえ、その、私には重荷――ではなくて、もったいない身分です!」

そう、言い終えるや否や、目の前に魔法陣が浮かび上がった。

古代文字で、契約がどうとか、服従がどうとか、守護者がどうとか、書かれてあったような気がする。

「い、今の魔法陣はなんですか!?」

「ミシャが私の 当番生(フォグ) として、正式に契約が結ばれたという証だ」

「そ、そんなーー!?」

私の意志なんてまるっきり無視した、強制的な契約である。

ちなみに銀細工は魔法の力で付けられているようで、外せないようになっていた。

とんでもない事態になった。

ここでハッと思い出す。そういえば、ジェムはなぜ、妨害してくれなかったのか。

振り返ったら、ジェムは騎士の姿のまま眠っている。

まさかの職務怠慢である。

私に対して執着心のようなものを見せるときがあるのだが、それも気まぐれのようだ。

今こそ、私に対して最大の興味を示してほしかったのに。

監督生長(ハイ・プリーフェクト) の 当番生(フォグ) になるなんて恐れ多いとしか言いようがない。

震える声でヴィルに問いかける。

「な、なぜ、わたくしめが、このような、大役を?」

素朴な疑問を問いかけると、ヴィルは私のローブにあしらわれた銀のチェーンに指先を引っかけ、ぐいっと引っ張る。

空足を踏みながらヴィルに急接近する形となり、美貌が眼前に迫った状態で理由を聞くこととなった。

「何かお返しをしたい、と言っていただろうが」

「うっ!!」

ヴィルに勉強を教えてもらった対価について出されてしまったら、何も言えなくなる。

「別に、 当番生(フォグ) というのは悪いことばかりではない。 監督生長(ハイ・プリーフェクト) である私の補佐をする代わりに、 当番生(フォグ) であるミシャを守護してやる」

なるほど。御恩と奉公みたいな関係なのか。

服従とかそういう言葉は、恐ろしいので見なかったことにしよう。

どうせ、ヴィルが満足するようなお返しなんてできないだろうから、やるしかない。きっと使いっ走りみたいなものなのだろう。

念のため、質問してみる。

「あの、具体的に 監督生長(ハイ・プリーフェクト) の 当番生(フォグ) とは、どのようなお仕事をするのでしょうか?」

「別に大した仕事はない。私の傍にいるだけでいい」

「は、はあ」

ノア風に言えば、ヴィルの金魚の糞でいればいいだけの簡単なお仕事なのだろうか。

「あ、でも私、放課後はホイップ先生のお手伝いで、温室の薬草の手入れをしているんです」

「そうだったな。では、早く終わるよう、手を貸してやるから」

猫の手ならぬ、ヴィルの手を借りるなんて、ありえないだろう。

大丈夫、平気だと言っても聞く耳なんて持たない。

一度やると言ったら、実行しないと気が済まないお方なのだろう。

「すべての仕事が終わったら、これまで通り勉強を教えてやるから」

「え!? でも、ご迷惑なのでは?」

「問題ない」

「自習のお時間などは?」

「必要ない」

なんでも一度教科書に目を通したら、すべて暗記と理解をするらしい。

本物の天才だ、と羨望の眼差しを向けてしまう。

「いい復習になっていたから、遠慮なく頼ってほしい」

「ありがとうございます」

お言葉に甘えて、今後もご指導ご鞭撻のほどお願いいたします、と頭を下げた。

「あとは、何かあるだろうか?」

「はい。その、呼び方についてですが、学校にいる間だけ、〝ヴィル先輩〟とお呼びしてもいいでしょうか?」

さすがに、ヴィルと呼び捨てにはできない。かと言って、ヴィル先生と呼ぶのも不審に思われるだろう。本当はリンデンブルグ先輩と呼びたいのだが、嫌がりそうなので、最大限に譲歩してヴィル先輩にしたのだ。

「先輩、か。ふむ、悪くはないな」

その反応を見て、ホッと胸をなで下ろしたのだった。

あとは、ヴィルの体調について質問しよう。

今さらかと思われるだろうが、気になったのでしっかり聞いておく。

「その、お身体の具合はいかがでしたか?」

「ああ、この通り問題はない」

体の毒を抜くために、十日もの間療養していただけだという。

「ただ、何もかもすべて解決したわけではない」

「何かあったのですか?」

「レイド伯爵が自害した」

「えっ!?」

まさかの状況に言葉を失った。